「映画でくつろぐ夜。」 第131夜
知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。
「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」
自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。
■■本日の作品■■
『野火』(2015年)
『沈黙 -サイレンス』(2016年)
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。
俳優としての塚本晋也監督
塚本晋也監督の『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が、公開劇場数が少ないこともあって、連日満席の大入りとなっている。拡大公開してほしいし、そういった声も配給会社に多く届いていることだろうと思うが、今のところ劇場数が増えるといった気配はない。明らかな反戦映画なので、このきな臭い時勢の中では、こういった映画を押しとどめたい圧力があるのではないかと勘繰ってしまう。
塚本監督はデビュー当初から、自作で主演や準主役を演じることが多い。近年もみずから監督した『野火』(15年)で、監督自身が体重を40キロ台まで落とし、第二次世界大戦末期のフィリピン戦線のレイテ島で、飢えて錯乱する日本兵の田村を演じた。『ネルソンさん~』もそうだが、容赦ないゴア描写は美術にこだわる塚本晋也らしいものの、戦争の恐ろしさを伝えるためでもあって、ホラー的な悪趣味で片付けられない意味がある。
塚本監督は自作以外の、他の監督作品に俳優として出演する演者としても知られる。『シン・ゴジラ』で塚本監督が演じるのは、学界の異端児である間邦夫役。この優秀な変人ばかりが集められた研究者チームのシーンは好きだ。そして本作も、ゴジラが核戦争の申し子と考えれば、日本と戦争というテーマが背景に感じられる。この映画は姿を消した謎の科学者・牧悟郎役で岡本喜八監督の写真が使われている。岡本喜八が使われたのは、本作が岡本喜八の異色作『日本のいちばん長い日』の形式を借りているためだ。そして反戦映画を撮り続けた監督という意味でも、重要人物だろう。
話変わって、いきなり規模の小さい自主製作映画がテーマになるけれど、2000年頃、筆者の出身地である名古屋で、とある自主製作映画に塚本監督が主演されていたことがあった。筆者の知人が監督した『溺れる人』という作品で、塚本監督と片岡礼子が夫婦役だった。物語はある日、妻が死んでしまったようなのだが、その後も普通に動き生活を続けていて、死臭だけがし始めるという内容だった。部屋に臭いが立ち込めるので、繰り返し消臭スプレーを撒くシーンが印象的だった。同じ頃、ホラーOVの『犬木加奈子恐怖world 亡霊の棲む家』というオムニバス作品を観ていたら、こちらでも塚本監督と片岡礼子が夫婦役を演じていた。そして同様に、神経質な妻がゴミの悪臭や夫の脇の臭いを気にして消臭スプレーを撒いていた。あんまり同じなせいか、塚本監督と片岡礼子で、『溺れる人』に目配せした内輪ネタをやっていた覚えがある。
他の監督作品では、三池崇史の『殺し屋1』のジジイが有名だろう。ホラー的な扱いで世界的に人気を誇るカルト作品だ。主役のイチ(大森南朋)は秘密兵器のようなキャラのため出番が少なく、狂言回し的な塚本監督のジジイと、映画の求心力となるマゾヒストのヤクザ垣原(浅野忠信)が、どうしても目立ってしまう。他の監督作品でここまで演じる人も珍しいんじゃないだろうか。世界的にも変わった立ち位置にいる監督だと思う。
俳優・塚本晋也は他にも、マーティン・スコセッシ監督『沈黙 -サイレンス-』の、モキチ役でも知られている。江戸時代初期、隠密に日本に潜入したロドリゴとガルベの両神父を迎え入れる、長崎の隠れキリシタン村の中心人物だ。このモキチはキリシタン狩りで棄教をしなかったために、水磔(すいたく)に処されることになる。水磔とは海岸で十字の木などに縛り付けられ、満ち潮で溺れさせるというおぞましい刑だ。塚本監督も、波が絶え間なく全身を打ち付け、呼吸もままならないような過酷な撮影をこなして、インパクトを残した。
『沈黙 -サイレンス-』に、塚本監督は特に映画監督の立場を利用したりせず、一般応募でオーディションを受けに行った。そしてキャスティング・ディレクターの目に留まり、スコセッシとの会談になった時、スコセッシは「あの映画監督の塚本晋也がオーディションに?」と驚き、そして「僕はあなたが撮った『鉄男』と『六月の蛇』が好きなんです」と言い、モキチ役での出演が決まったのもよく知られている逸話だ。それにしてもスコセッシって本当によく映画を観ているよな、と感心してしまう。
<オススメの作品>
『野火』(2015年)
『野火』
監督:塚本晋也
出演者:塚本晋也/リリー・フランキー/中村達也/森優作/中村優子
日本の敗北が濃厚となった第2次世界大戦末期のフィリピン戦線。結核を患った田村一等兵(塚本晋也)は部隊から放逐され、野戦病院へと送られる。しかし、そこでも食糧不足を理由に田村の入院は拒否されてしまった。行く宛もなく、空腹と疲労で極限状態に追い込まれた田村は、幻覚とも幻聴ともつかぬものに苛まれていく。塚本監督レベルでも、自主製作映画の規模が小さくなり、日本はいよいよ貧しい国になってきたなと感じる。
『沈黙 -サイレンス』(2016年)
『沈黙 -サイレンス』
監督:マーティン・スコセッシ
出演者:アンドリュー・ガーフィールド/リーアム・ニーソン/アダム・ドライバー/窪塚洋介/浅野忠信/塚本晋也
マーティン・スコセッシが監督したアメリカ映画。原作は遠藤周作の『沈黙』。イエズス会の宣教師であるロドリゴ神父(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ神父(アダム・ドライバー)のもとに、日本で布教をしていたフェレイラ神父(リーアム・ニーソン)が日本で棄教したという連絡が届く。師と仰ぐ人が信仰を捨てたとは俄かには信じ難く、二人は日本へと向かう。信仰心はありつつ臆病なキチジロー役の窪塚洋介が、じつは一番人間味に溢れているのかもしれない。
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