樹の恵本舗 株式会社 中村 樹の恵本舗 株式会社 中村
ONLINE SHOP
MENU CLOSE
真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第129夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』(2015年)
『キャビン』(2012年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

都市伝説とメタフィクション的なホラー

9月に入ってから台風が迷走しているらしく、毎日外気は生ぬるいし雨ばかりである。気圧の影響を受けやすい筆者は眠くて眠くて、昼間はかろうじて机の前に座っていても、船を漕いでいるか白目を剥いている。作業がしたくても、もう人間として全然使い物にならない。

で、映画も血飛沫などの刺激がないと椅子から転げ落ちそうなので、つらつらと好きなホラーを流しっぱなしにして、白目で考えてみた。ホラー映画はいわゆるプロトタイプを維持しながらも、いかにそこから逸脱して個性を得るかを試みながら、そのせめぎ合いで作品は出来上がる。また、口承で伝えられる都市伝説は、人間の根源的で露骨な恐怖心と密接に関わっているので、ホラー映画と相性が良い。そのためホラー映画で有名な都市伝説を取り入れた作品は少なくない。つまりホラー映画は現実的な根幹と感覚があり、そこから独創性のために逃れようとする尾ひれで出来上がっている。

でも有名なホラー映画を観返してみると、巷間伝わっている分析も、前提が独り歩きし始めているなと感じた。『13日の金曜日』は、わりと流布されている印象から逸脱している。本作はさびれたキャンプ場“クリスタル・レイク”を復活させるために、若者たちが集まる話だ。そしてサボってふしだらなことをしていたカップルから殺されるーーという無意識の性的戒めがあるホラーは、『13金』が代表作のように思われている。

けれども実際に最初に殺されるのは、一人でやってきた給仕担当の溌溂とした女性アニーである。彼女はクリスタル・レイクに辿り着く前に、仲間にも会わず早々に殺害されてしまう。勿論その後、イメージ通りにイチャついているカップルが殺されるシーンになるものの、この本編と通説の乖離は、「『13日の金曜日』は教訓めいている」という都市伝説的な現象を表しているのだと思う。また有名な話だが、犯人の正体も後続の作品がなかなかないほど、ホラーの定石からズレている。この『13金』に持たれた思い込みが感慨深い。

前回『シンプル・プラン』を紹介したとき、脚本家のスコット・B・スミスの次作が『パラサイト・バイティング 食人草』というB級映画だという話に触れたが、久々に観たら意外にもホラー映画のお約束を守ったタイトな出来で、面白かった。ファイナル・ガールが年齢的に少女じゃない場合には、(メガネなど)知的な装いで補えるというのも発見だった。

こういったホラー映画のお約束を、メタ的に取り入れたのが『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』(15年)や『キャビン』(11年)だ。『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』はひょんなことから、現代の主人公たちが80年代のホラー映画の中に入ってしまう。そこにはお約束として、最初に殺されるふしだらな娘や、最後まで生き残って殺人鬼と戦う、性的に無垢な女の子といった役割がある。『キャビン』も同様に、大学生の主人公たちは、週末を森の中の小屋で送るつもりでいる。だがじつは、彼らを取り囲む謎の巨大な組織があり、主人公たちはずっとモニタリングをされている。彼らは知らず知らずのうちに、ホラー映画の王道に当てはまるよう選ばれたキャラであり、敷かれたストーリーに則った振る舞いをさせられている。この2作はコメディとしても楽しく出来ていて、怖い映画が苦手な人にもオススメしたい。

イーライ・ロス監督の『ホステル』(05年)は、アメリカ人やアイスランド人の若者たちが、バックパッカーとしてヨーロッパを渡り歩いている。しかし、とあるホステルに泊まったところ、恐ろしい目に遭う。これは都市伝説の「オルレアンの噂」や「香港の試着室」という、「海外に対する不安」を具現化した映画だ。しかしジェフリー・エプスタイン事件の一端を知ってしまうと、現実が映画を遥かに超越していて、その方がよほど恐ろしい。

<オススメの作品>
『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』(2015年)

『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』

監督:トッド・ストラウス=シュルソン
出演者:タイッサ・ファーミガ/ニーナ・ドブレフ/マリン・アッカーマン/アレクサンダー・ルドウィグ/アリア・ショウカット/アダム・ディヴァイン/クロエ・ブリッジス

主人公のマックスは、80年代のカルトB級ホラー『血まみれのキャンプ場』に出演した女優アマンダの娘。3年前に母は交通事故で亡くなり、マックスの心の傷はまだ癒えていなかったが、『血まみれのキャンプ場』のリバイバル上映に顔を出すことになる。ところが劇場で火事が起こり、スクリーン裏へ逃げたマックスと友人たちは、何故か映画内の世界へと入ってしまう。ホラー映画のセオリーを盛り込んだ作りがコミカルでありつつ、母子愛も描いた作品。

『キャビン』(2012年)

『キャビン』

監督:ドリュー・ゴダード
出演者:クリステン・コノリー/クリス・ヘムズワース/アンナ・ハッチソン/フラン・クランツ/ジェシー・ウィリアムズ/リチャード・ジェンキンス/ブラッドリー・ウィットフォード

何やら管制室のような室内で、複数のモニターを監視する中年男性2人が談笑している。彼らが観ているのは、ホラー映画にありがちなキャラをした大学生たちの一行。彼らは森の小屋へ宿泊に行き、そこでもホラー映画の定番的な出来事が次々と展開していく。しかしそう仕向けていたのは、モニタリングをしている男性たちや、彼らの同僚たちだった。複層的で大掛かりな世界観と、歴代の有名なホラー映画のキャラクターたちへの愛に満ちた、見事な脚本の作品。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

Product

ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
Back