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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第127夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『私のすべて』(2024年)
『37セカンズ』(2019年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

『時には懺悔を』 難しい尊厳の問題

8月28日から中島哲也監督の『時には懺悔を』が公開になる。当初は昨年6月に公開予定だったが、去年は様々な映画監督によるパワハラやセクハラが物議を醸した中、中島哲也監督も過去のパワハラが指摘され、昨年4月に公開延期が発表されていた。中島監督のパワハラは、映画「渇き。」(14年)に出演した元女優とのトラブルや、『嫌われ松子の一生』(06年)に主演した中谷美紀が、演出上で罵声を浴びせられたことなどを告白していた。

ただ、この『時には懺悔を』が公開にこぎつけたのは、映画のメッセージ性が今の時勢の中では前向きで、映画としては良質であったことが大きいと思う。生命賛歌の要素が大きく、その中でお蔵入りにしてしまうのはもったいない、異色な出来事を描いた映画だ。本作は障がいのある幼児の誘拐を巡って、やはり障がい児を持つ探偵などの複雑に交錯する思いを描いている。

現実において、妊娠中におなかの赤ちゃんの病気や障がいの可能性を調べる「出生前検査」を受けるのは、若い人では一割程度で多くはない。しかしその中でなんらかの障がいがあることがわかった場合、9割が堕胎を選択するという。この落差はかなり衝撃的で、もう少し広まった方がいい問題ではないだろうか。筆者は個人的に障がいのあるお子さんを持つ女性のSNSをよく覗いているが、若いお母さんで思いつめてしまっている人を度々見かけてヒヤリとしてしまう。『時には懺悔を』はそういった女性たちを励ます内容の映画になっている(残念ながら映画を観ている余裕はないかもしれないが)。

つい最近、とあるニュースがバズッていたのが、まだ記憶に新しい。6月末に脳性麻痺などの重度障がいを持つ夫婦が、児童相談所が育児能力を懸念して止めたが、夫婦は権利を主張して出産に至った。夫婦自体がそれぞれ生活支援を受けながら暮らしており、赤ちゃんの食事や入浴、安全確保をボランティアが24時間体制で担っているという。権利として子どもが欲しいという気持ちと、24時間体制でボランティアが必要な子育ての難しさについて、ネットでは批判の声の方が多くあがった。これも、本当に難しい問題だと思う。「障がいがあるから権利を要求するのは贅沢だ」と第三者が言っていいものか、判断に悩む。ただ同時に掘り返されたニュースで、障害のある女性が「将来息子に面倒を看てもらうために」子どもをもうけたと語っているインタビューもあり、最初からケア要員を目的として誕生する人生もつらいと思う。

今年の2月に公開になったフランス映画『私のすべて』は、発達遅延のある息子ジョエルを育てる、シングルマザーのモナが主人公だ。しかしジョエルは障がい者のための職業作業所でオセアンという恋人ができ、彼女が妊娠していることがわかる。2人とも障がいがあるため周囲は反対するが、ジョエルとオセアンは子どもを産んで家庭を作ることを頑なに決めている。

やはり身近な人は困惑するものだが、本人たちも無思慮なわけではなく、その意思を考えなければならない。ジョエルとオセアンを演じているのは、本当に障がいを持つ当事者であるシャルル・ペッシア・ガレットとジュリー・フロジェが起用されている。そしてこの映画で初めて知ったのだが、撮影現場で障がいを持つ俳優のケアを担当する、アクセシビリティ・コーディネーターという職業があるらしい。日本では存在するのだろうか?

<オススメの作品>
『私のすべて』(2024年)

『私のすべて』

監督:アン=ソフィー・バイリー
出演者:ロール・カラミー/シャルル・ペッシア・ガレット/ジュリー・フロジェ/ヘールト・ヴァン・ランペルベルフ/レベッカ・フィネ/アイサトゥ・ディアロ・サグナ

シングルマザーのモナは発達障がいのある息子のジョエルを育ててきた。しかし青年となったジョエルから、ガールフレンドが妊娠していることを打ち明けられる。当事者の二人は出産を固く決めており、ジョエルはモナの元を離れて自立を求め、街をさすらう旅に出る。本当に障がいのある俳優2人の演技はやはりリアルゆえに見守ってしまう。

『37セカンズ』(2019年)

『37セカンズ』

監督:HIKARI
出演者:佳山明/神野三鈴/大東駿介/渡辺真起子/熊篠慶彦

生まれた時に、37 秒息をしていなかったことで、身体に障害を抱えてしまった主人公・貴田ユマ(佳山明)。佳山自身が実際に障がいがあり、まさに体当たりの演技をみせている。特に20代前半になって、彼女を心配するあまりかごの鳥にしてしまう母親に反発し、繁華街へ出かけたり、水商売の女性の友人ができたりと、ユマの世界が広がる様子が鮮烈。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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