樹の恵本舗 株式会社 中村 樹の恵本舗 株式会社 中村
ONLINE SHOP
MENU CLOSE
真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第125夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『勝手にしやがれ』(1960年)
『気狂いピエロ』(1965年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

『ヌーヴェルヴァーグ』こと『勝手にしやがれ』

リチャード・リンクレイター監督は、じつは見逃していたり、観てもピンとこなかったりすることが多くて、あまり深く思い入れはない。それでもその中では『スキャナー・ダークリー』はダントツに好きだ。これはいま思い出してもラストシーンはうるっときてしまう。あとは『ファーストフード・ネイション』『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』も好きだった。でも積極的にタイトルをあげたいのは、そのくらいかもしれない。今年に入って公開された『ブルームーン』も個人的にイマイチだった。そして立て続けに新作の『ヌーヴェルヴァーグ』が公開というのは、いかにもリンクレイターのフィルモグラフィーらしい、しっちゃかめっちゃかな感じがする。

でもリンクレイターによる『ヌーヴェルヴァーグ』は妙な映画だと思いつつ、退屈はしなかった。映画の制作現場が舞台の映画は少なからずある。しかし実在する、他の映画の制作過程を映画化するなんて珍しい例だ。一応、クリント・イーストウッドの『ホワイトハンター ブラックハート』が、ジョン・ヒューストン監督の『アフリカの女王』の裏話にインスパイアされた映画化ではあるけれど、『ヌーヴェルヴァーグ』は完全にゴダールの『勝手にしやがれ』の製作過程を描いた作品である。たぶんこれは撮影現場が一番楽しいタイプの作品だと思う。演技で映画を撮っている一団を、実際の映画スタッフがさらに取り巻いてカメラを回しているのは、混沌としていて眩暈を起こしそうだ。

ゴダールの天才か奇才かの気まぐれによって、『勝手にしやがれ』の制作は遅々として進まない。朝に集合をかけられても、ゴダールはみなを煙に巻くように「今日は撮影をしない」と言い出して解散になったりする。毎日がそんな調子だ。主演のジーン・セバーグは騙されて変な映画に付き合わされているんじゃないかと、不安を吐く。でも本作は有名な話も織り込んだ、ある種の普遍性もある。実は運動神経が良くて、女優のご機嫌取りにゴダールが逆立ちして歩くなど、本でよく読む逸話も登場する。友人のトリュフォーやシャブロル、撮影のラウル・クタールたちも似た俳優が集められている。

『ヌーヴェルヴァーグ』といえば、検索が非常にややこしいことになると思うのだが、ゴダール自身も1990年に同名の映画を撮っている。主演が初めてタッグを組むアラン・ドロンというのが、センセーショナルで(オオッ!)という感じだった。映画はまさにゴダールのシュールな映画をアラン・ドロンがそのまま演じていて面白かった。ちなみに、大自然の中でのシーンで、ドロンがセリフを言いながら蠅を払っていて、わたしは(アラン・ドロンに蠅がたかってる…!)と余計なことを考えながら観ていた。勿論そういうことがOKカットになっている映画だった。

『大人は判ってくれない』や『美しきセルジュ』といった先行する作品があって、ん?とは思っても、『勝手にしやがれ』がヌーヴェルヴァーグの象徴的作品ということで、いちゃもんを付ける人もまあいないだろう。このリンクレイターによる『ヌーヴェルヴァーグ』は、短編映画を撮り、『カイエ・デュ・シネマ』といった批評紙で映画評を書いていた若者から、細胞分裂のように長編映画の監督たちが生まれ始めた、混沌とした時期をわかりやすく映画化している。

<オススメの作品>
『勝手にしやがれ』(1960年)

『勝手にしやがれ』

監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演者:ジーン・セバーグ/ジャン=ポール・ベルモンド/ダニエル・ブーランジェ/アンリ=ジャック・ユエ

監督・脚本はジャン=リュック・ゴダール、主演はジャン=ポール・ベルモンドとジーン・セバーグ。リンクレイターの『ヌーヴェルヴァーグ』に登場するベルモンドは、陽気で何事も気にしない風情が、常連だったフィリップ・ド・ブロカ監督作品に通ずるところがある。いま本家のこの作品を観ると、主人公のベルモンドがキザに見えるのは、やはり当時のゴダール自身を反映しているのだろうか。

『気狂いピエロ』(1965年)

『気狂いピエロ』

監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演者:ジャン=ポール・ベルモンド/アンナ・カリーナ/グラツィエラ・ガルヴァーニ/ダーク・サンダース/ジミー・カルービ

コンプラの厳しい時代だが、この作品の正式なタイトルが『きちがいピエロ』と読むことだけは、後世まで伝えていこう。『勝手にしやがれ』はヌーヴェルヴァーグの幕開けを表す記念碑的作品であるものの、映画的な面白さ、ドラマ性、演出の遊びという点では『気狂いピエロ』の方が派手で印象深い。ラストのインパクトも伝説的と言えるだろう。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

Product

ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
Back