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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第128夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『白い沈黙』(2014年)
『フローズン・グラウンド』(2013年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

まだ暑いから白銀のスリラーを観よう!

まだまだ暑い……。一体夏はいつまで続くんだろうか。そういうわけで視覚だけでも寒々しい映画を観て、涼めるように選んでみた。わたしが勝手に命名しているジャンルで、“白いフィルムノワール”と呼んでいるものだ。一連の、積雪地帯を舞台に展開するノワールな映画を集めている。

『フローズン・グラウンド』はニコラス・ケイジとジョン・キューザック主演。実在の連続殺人鬼ロバート・ハンセンを題材にした作品で、彼は12年の間にアラスカ州で、少なくとも17件の殺人を行っている。映画では売春婦の少女シンディが、犯人に監禁されるが隙をついて逃げだし、警察にいったんは保護されるものの、娼婦ということで事件性を認めてもらえない。しかしアンカレッジ警察のニコラス・ケイジは、雪が解けた泥濘の中から次々と見つかる遺体によって、シリアルキラーの存在を確信し、シンディの発言を信じて聞き取りをしようとする。

『ウインド・リバー』はワイオミング州ウィンドリバー・インディアン居留地を舞台にした、一面の白銀世界が眩しい映画だが、まだ18歳のナタリーが無残な遺体となった姿から始まる。彼女には暴力による外傷とレイプを受けた痕跡があったが、死因は外に逃げ出して氷点下の空気を吸った際、肺出血を起こし窒息したためだった。それによってナタリーの死は殺人事件としては認められず、追加の捜査員を呼ぶことができない。現実にウインド・リバーの先住民は失業率の高さに苦しんでおり、犯罪に走ったりアルコール依存になったりしている。監督のテイラー・シェリダンは問題提議を込めて本作を制作したという。

サム・ライミの『シンプル・プラン』はアメリカのミネソタ州が舞台。ハンクは妊娠中の妻と貧しい暮らしを送っており、兄のジェイコブは失業中だ。その日はジェイコブの友人ルーも一緒に、父親の墓参りに行くことになった。だが雪深い林の中に墜落した飛行機があり、機内には大金が積まれていたのを三人は発見する。一見、常識人なハンクに比べて、ジェイコブは身なりも汚く頭のネジが足りないように見える。そしてハンクも兄より自分の方が賢いと思っているものの、実際に目端が利くのはじつはジェイコブの方である。スコット・B・スミスによる脚本が素晴らしいのだが、彼の次の原作・脚本作が『パラサイト・バイティング 食人草』という、タイトル通りのB級ホラーでビックリした。

そして、白いフィルムノワールの中で、歴史に残る映画はコーエン兄弟の『ファーゴ』だ。ミネソタ州のミネアポリスやファーゴを舞台に、オープニングで激しい雪が降りしきり、一面が白く煙るタイトルバックから印象深い。本作では借金に困った自動車販売業のジェリー・ランディガードが、妻の狂言誘拐を企む。彼がカールとゲアというチンピラコンビに仕事を依頼したところ、ちょうどジェリーが頭の上がらない義父に持ち掛けた投資の話が進んだ。ジェリーは慌てて狂言誘拐を中止しようとしたが、もはや二人組のチンピラは動き出した後だった。臨月の警察署長役のマージを演じた、フランシス・マクドーマンドは本作の演技が高く評価されて、第69回アカデミー賞主演女優賞を獲得した。

<オススメの作品>
『白い沈黙』(2014年)

『白い沈黙』

監督:アトム・エゴヤン
出演者:ライアン・レイノルズ/スコット・スピードマン/ロザリオ・ドーソン/ミレイユ・イーノス/ケヴィン・デュランド/アレクシア・ファスト

アトム・エゴヤン監督作の中では評判は良くない方だが、相変わらず独特の時間軸をいじった編集が好きなので。しかし本作はかなりつらい内容だ。舞台はカナダのオンタリオ州。豪雪の中、マシューは娘キャスがプロを目指して取り組んでいる、アイススケートの練習を迎えにきた帰り道だった。しかし彼がほんの2~3分ダイナーに寄ってパイを買っている間に、車で待っていたはずのキャスが忽然と消えた。駆け込んだ警察では、マシューが「友だちの小児性愛者にでも貸したんじゃないか」と、侮辱も甚だしいことを言われてしまう。その後もマシューは第一容疑者として疑われ続けるが、警察は同時に小児性愛者の組織がネット上にいるのを追う。

『フローズン・グラウンド』(2013年)

『フローズン・グラウンド』

監督:スコット・ウォーカー
出演者:ニコラス・ケイジ/ジョン・キューザック/ヴァネッサ・ハジェンズ/ディーン・ノリス/オルガ・ヴァレンティーナ/マイケル・マグレイディ

連続殺人鬼のロバート・ハンセンはパン屋を営んでいて、街の人々から親しまれていた。このパン屋という職業が、警察の取り調べでも殺人犯にふさわしくないと思われ、また友人がアリバイ工作に協力していたため、重要容疑者からしばらく外されていた。しかし犯行が露わになってからは、ブッチャー・ベイカーと呼ばれるようになった。ハンセンは小型飛行機を持っていて、ひと気のない森へ行くと女性たちをいったん解放し、逃がしてから追いかけて射殺するという、人間狩りを楽しんでいた。彼の被害者では、まだ遺体が見つかっていない女性たちが複数いる。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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