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1話イラストB

こんな時間にかけてる電話 第17回

23時54分。この世界の何処かから聞こえる、誰かと誰かの真夜中の通話劇。

結婚式の友人代表スピーチを依頼する人と、された人

「あ、もしもし」
「もしもーし」
「ごめんねー忙しいところ。今、大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫―。どうしたの?」
「あのさー、ちょっと、折り入ってお願いがあるんだけど」
「おお、珍しいね、そんな改まってさ」
「いや、さすがにこれは、改まったほうがいいよなーって」
「なになに? なんでもやるよー、あたし最近ひまだし」
「そう? あのね」
「うん」
「今度、結婚式するじゃん?」
「あ! そっか、それね! おっけおっけ。なんでも作るし、なんでもやるよ。アレを除いてね」
「いや、うん。でもね」
「でも?」
「さすがにこれは〜って、言われそうな気がするんだけど」
「おお? なに、逆に気になるな?」
「あの、できればなんだけど」
「うん」
「友人代表スピーチ、やってくんない?」
「はい、でた。でました。やりませ〜ん」
「お願いっ! お願いしますっ!」
「いや、アレを除いてって言ったじゃん」
「言われたけど、わかってたけど、それでもお願いします! ダメもとで!」
「いやいやいやいや。それはさ、ちょっと。ねえ、早まるなって」
「早まってないから。じっくり考えた結果だから」
「だとしたら逆に考えすぎだって」
「いや、でももう、お願いしようって決めたの。いい? 頼んで?」
「いやむーりむり。ぜーったいダメだって。むり」
「えーいいじゃんこっちがやってほしいって言ってるんだからさ〜お願い〜!」
「いやほんと、頭おかしいんじゃないの? 招待状作りすぎて冷静な判断力なくした?」
「まとも! めっちゃ冷静! クールビューティ!」
「ビューティかどうかはさておき冷静な判断とは思えないわけよ。友人スピーチやっちゃいけない一般人ランキングがあったら全国10位に入る自信あるよあたしは」
「そうかもしんないけどさあ〜」
「認めるなよ。でも、そうだよな、うん」
「そーれでもお願いしたいんだけど。だめ?」
「だってさ、ねえ、わかってる? まず、友人代表スピーチに立つ人が、今年バツ2になったわけ。わかる?」
「わかるよ。知ってるよ」
「そんな人があんた、どんな顔で結婚式のスピーチすりゃいいのよ。説得力無さすぎでしょ」
「いや、逆に。逆に説得力出てくる」
「なにその、マイナスとマイナス掛けたらプラスみたいな言い方」
「反転術式だから。バツ2は反転術式で、正のエネルギーだから」
「あんたそれよく言ってるけどわかんないって。とにかくやらないよ、やらない」
「なんで〜いいじゃん〜、明美も千佳子も咲織も、みんな由紀にやってもらってたじゃん〜」
「だから! その三人が全員結婚式から二年以内に離婚したから言ってんの!」
「っっっっっっっっっっっっっっっ」
「ねえ笑いすぎて変になっちゃってるって」
「だめほんと、やっぱ面白い。由紀は最高」
「だってさ、あたしら六人中、あたしがスピーチしなかった茉莉乃だけが結婚続いてんだよ? 完全に呪いだって、呪い。やっちゃダメだってあたしは」
「いや、そのジンクスを壊すためにもさ、バシッと決めてほしいわけよ、ここは」
「そんなこと言うけどさ〜完全におもしろ枠でいこうとしてるじゃんよ〜。それタカシくんはOKって言ってんの?」
「あー、タカシは、余興でウエディングケーキの下のクロスを引き抜く練習に必死だから、それ以外を私が任されてるんだよねー」
「嫁が嫁なら夫も夫でやべーやつ来たな?」
「このままだと本番は確実に失敗するらしいよ」
「ウエディングケーキが盛大に崩れ去る上に離婚エキスパートのスピーチって、あんたら結婚という概念のアンチかなんかなの?」
「いやー、なんか、もう参列側をやりすぎて見飽きちゃったし、誰もやったことないやつやろうって盛り上がってる」
「ほんと落ち着いたほうがいいって。飲みサーが新しいコール開発するノリになっちゃってるもん」
「でも私は、やっぱり由紀のスピーチが好きなんだよなあ」
「ねえ、そんな、どこが良かったわけ? あんたたちほんとおかしくない?」
「だって、いくつも式には出たけどさあ、由紀みたいなノリでスピーチやってくれる人って、なかなかいないんだよなあ」
「あんなのもう、スピーチっていうかノリで喋ってるだけじゃん」
「私あれ好きだったよ。千佳子の結婚式で、隣の会場の新郎引っ張ってきて『こいつよりいい男そうで良かった』って言ったやつ」
「あれ爆笑だったけど、そのあと起訴されかけてるからね?」
「そうそう、示談金6人で割ったの、めっちゃ最高だったなぁ〜」
「ディズニーの思い出みたく言うもんじゃないんだって。やらかしてんだってあたしが」
「じゃああれは? 咲織のときの、新郎の会社の株をその場でめっちゃ買ったやつ。ああいうのやってほしいんだけど」
「あれ二ヶ月後に社長の別荘のホームパーティ参加させられたからね。しかも咲織と旦那なしで」
「マジ!? 知らなかったんだけど」
「さすがに言えなかったし、笑えなかったから話さなかった」
「笑えるかどうかで全部ジャッジするところ、信頼できる」
「そのネット民みたいな言い方やめてって。あいつらなんで上からなのいつも」
「キレる相手が違うところ、信頼できる」
「なんなのほんとに。とりあえず、やらない。やりません。あたしはもう懲り懲りだし、反省してるので」
「なんで〜絶対にやってほしかったのに〜。一生忘れない式にしたいじゃん〜」
「そういうのは新郎新婦で作るものであって、外部委託で達成しようとするんじゃないよ本当に」
「ちぇ、ケチ〜、株主〜」
「悪口が特殊だな」
「ねえ、久々の電話なのに、さっきからツッコミ速度が本当に心地よい。耳元でソニックブーム聞こえる」
「音速超えちゃってるじゃん。やめてよ」
「じゃああきらめて、M-1申し込みだけしておくかぁ」
「いつもそれで締めるのも学生時代思い出してしんどいからやめて」
「ふふ、ありがと。じゃあスピーチ、楽しみにしてるからね〜おやすみ〜」
「あれ、やる流れになってるこれ? あ、もしもし? もしもしー!?」

次の誰かの23時54分へ続く

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ライター紹介

カツセマサヒコ
ライター/小説家

1986年東京生まれ。2014年よりライターとして活動を開始。2020年『明け方の若者たち』(幻冬舎)で小説家デビュー。同作は累計14万部を超える話題作となり、翌年に映画化。2作目の『夜行秘密』(双葉社)も、ロックバンド indigo la Endとのコラボレーション小説として大きな反響を呼んだ。他の活動に、雑誌連載やラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM 毎週木曜28:00~)のパーソナリティなどがある。

【Instagram】:katsuse_m
【X】:@katsuse_m
こいけぐらんじ
画家、イラストレーター、音楽家
愛知県立芸術大学油画専攻卒業。2010年頃から漫画の制作を始め、「うんこドリル」シリーズ(文響社)のイラストや、OGRE YOU ASSHOLEのアニメーションによるCM制作など、活動の場を広げている。また、バンド「シラオカ」ではVo./Gt.を担当。

【X】@ofurono_sen
【Instagram】guran_g
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