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1話イラストB

こんな時間にかけてる電話 第16回

23時54分。この世界の何処かから聞こえる、誰かと誰かの真夜中の通話劇。

元バンドマンのバーテンダーと幼馴染み

「あ、もしもし?」
「おん、どした」
「あのーさ、相談乗って?」
「なに」
「店長と喧嘩してもうて」
「おお、バーテン?」
「そう」
「なんで?」
「え、なんか、説教くさかったから」
「それ、逆ギレやん」
「あ、逆ギレ、これ?」
「うん。向こうが先にキレてたやろ」
「そうかも」
「ほれみ。どうせ、だらしないことしてたんちゃうの」
「あー、えー?」
「正解やろ」
「やー、でも客と、ちょっと個人的に会ったりしただけやで?」
「ほら、だらしない」
「そんなことないやろ」
「お前すぐに個人的に会うやん。治ってへんやん」
「いや、そういう、やましいやつちゃうから」
「無理無理。お前の溢れんばかりのやましい魅力に、お前は気付いてない」
「なんやそれ」
「あんな、元バンドマンのバーテンダーなんてな、一定層からやましく激モテすることが確定してんねん」
「やましく激モテってなんやねん」
「そのまんまや。やましく激モテすんねん。ずっとそういう目で見られてきた人生やろ」
「そんなことないて」
「じゃあお前、バンドが解散した理由はなんや」
「それはお前、関係ないやろ」
「あるやろうが。言うてみ」
「えー…、客同士が揉めて、メンバーが愛想尽かしたから」
「そうやな。お前の彼女だって自称する女が、フロアから15人出てきたんやんな」
「18な」
「それも名乗り出たやつだけやろ。黙ってたやつはもっとおったはずや」
「それは、お淑やかで、いい女やな」
「そこですぐ褒める。口説く。そういうところや」
「おかんに、人のいいところは褒めなさいって教わったんや」
「そんなバンドマンおるか」
「ここにおる」
「そんな奴がバンドやるなよ、ずるいな」
「ずるいってなんや」
「ともかくそれで、お前はもうバンド辞めて、女から紹介してもらったバーで働き始めて、もう何年や?」
「二年」
「まだ二年か。俺、そのとき言うたよな?」
「なんて?」
「お前は激モテするから、絶対に店で恋愛的なことにならんように気をつけろって」
「あー言うてたか」
「言うたよ。言うた。で、結果がこれやろ」
「んー、まあ、そうか」
「そうやろ。どうせ店長も、お前が女にだらしないって説教してたんやろ」
「いや、まあ、色目使うな、みたいなこと言うてたな」
「ほれみ。それでお前、逆ギレしたんか」
「いや、だって、理不尽やんか。こっちはお客にやさしくしてるだけやで? よく飲んでくれるし、売り上げだってぐんぐん伸びてたんやで」
「でも、あれやろ、店は別にそこまでして売れたくなかったんやろ?」
「いや、そんなん知らんし。こっちは必死に働いてるだけやから」
「それでもお前、個人的に客と会ったんやろ?」
「会った言うても、一緒に夜、散歩したりしたくらいやで?」
「なんやそのエモ」
「いやエロいことしてないて」
「エロちゃう。エモや、エモ」
「エモ? どこがや」
「夜に、二人で散歩してたんやろ? どうせ缶ビールとか持って、橋の上から、川とか見て」
「なんでわかんの」
「幼馴染み舐めんなや」
「すごいなあ」
「そういうこと、いろんな客としたやろ、また」
「いやー、でも、望まれたときに、応えてただけやで?」
「それがあかんねん。なんで全部に応えようとすんねん」
「それはおかんが、人が喜ぶことはどんどんしてあげなさいって」
「おかんがいい人すぎんねん! 顔を知ってるぶんしんどいわ。あなたのせいで息子さんこんなに激モテしてますよって言いたい」
「そんなん言わんでええねん別に」
「でも、店長がキレる気持ちもよくわかるわ」
「まあな。店長も女やったんやなって」
「え!? 女なん!?」
「そうやけど」
「なおさらやんけ。え、もしかして、店長とも夜道を缶ビールデートしたん?」
「ああ、したな。一駅歩こうか、言われたから」
「お前ほんっますごいな。それやって絶対。なんでお前、デートパターンが〈夜道を缶ビールでお散歩コース〉の一択やねん。使い回すなそんなん。女どももいちいちそんなんに喜ぶな」
「誰にキレてんねん、お前」
「いや、そら店長だって怒りたくなるわ。誰だって特別扱いされたいはずやのに、お前がみーんな同じように甘やかすから、期待もするし、横で見てるのもしんどいやろ」
「でも、おかんが」
「またおかんか! なんて?」
「みんなにやさしくできる人になりなさいって」
「おかーん! おかんが人格者すぎるせいで息子が軽薄に激モテする!」
「でもその結果、クビになりそうや」
「はー、結局同じパターンか」
「そうやなあ」
「これで三つ、制覇しちゃったしなあ」
「三つって、何を?」
「いや、お前、最初の仕事、美容師やん」
「おん、そやな」
「美容師いって、バンドマンいって、バーテンダーいったら、古くから言う、付き合っちゃいけない男のやつ、これでグランドスラムしたわけや」
「そんなん、職業差別やないか」
「でもお前、美容師時代も客と揉めたやろ」
「揉めたって、あれも、お客が求めたから、それに応えただけやで?」
「あんな、普通の美容師は客の家にあがりこんで風呂上がりの髪にブローしたりせえへんのよ! 勝手なオプション作るな!」
「そんなん、十年前のこと今更キレられてもなあ」
「そんでお前、バンドマン時代の歌詞、客の女とのことばっかり書いてたやろ? ほとんど夜の川沿い歩いてばっかり! 売れるかそんなん!」
「今のはお前、まっすぐな悪口やで」
「それでしまいにはお前、バーテン始めて、客の女専用のカクテルとか全員に作ってたわけや! リバーなんとかとかすぐに川っぽい名前付けて!」
「なんで想像でそこまで言えて、全部当たってんねん。お前なんやねんマジで」
「幼馴染み舐めんなって言ったやろ」
「舐めてたわ。こわ。あー、でも、電話できてよかったわ。やっぱお前やったわ」
「なんや急に。何がや」
「いや、おかんがよく、言うとったから」
「出た、おかん。なんて?」
「人生長く知ってる人って貴重やから、幼馴染みだけは大切にせなあかんって」
「おかーん!!!」
「ごめん、スッキリしたから、また連絡するわ」
「おん。まあ声聞けてよかったわ」
「ほなまた」
「おやすみ」

次の誰かの23時54分へ続く

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ライター紹介

カツセマサヒコ
ライター/小説家

1986年東京生まれ。2014年よりライターとして活動を開始。2020年『明け方の若者たち』(幻冬舎)で小説家デビュー。同作は累計14万部を超える話題作となり、翌年に映画化。2作目の『夜行秘密』(双葉社)も、ロックバンド indigo la Endとのコラボレーション小説として大きな反響を呼んだ。他の活動に、雑誌連載やラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM 毎週木曜28:00~)のパーソナリティなどがある。

【Instagram】:katsuse_m
【X】:@katsuse_m
こいけぐらんじ
画家、イラストレーター、音楽家
愛知県立芸術大学油画専攻卒業。2010年頃から漫画の制作を始め、「うんこドリル」シリーズ(文響社)のイラストや、OGRE YOU ASSHOLEのアニメーションによるCM制作など、活動の場を広げている。また、バンド「シラオカ」ではVo./Gt.を担当。

【X】@ofurono_sen
【Instagram】guran_g
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