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「夜読む日記」

自分の好きなもの、嫌いなものを理解する

苦手なものってない方がいいと思い込んでいた。
幼い頃、食べる量こそ少なかったものの、私は好き嫌いなくなんでも食べた。そして親によくそれを褒められていた。
「この子好き嫌いがなくて助かるの」と親が人に自慢するたびに、私はなんだか偉くなったような気分になって、嬉しくなって色んなものをどんどん食べた。

ああ、苦手なものがないって素晴らしいことだ。
本でも食べ物でも雑貨でも人間関係でも。
でも、なんとなく箸の進まないおかず、読み進められない本、飾っていてもワクワクしない雑貨があることに最近ようやく気がついた。

ある日、夫が私に向かって「原田さんって貝の味が苦手だよね。ナマコとかも。」と何気なく言ってきて、私の中に衝撃が走った。
「別に苦手じゃないよ。食べられるよ。食べなきゃ殺すって言われたら全然食べられる。」と答えると「それ苦手ってことなんじゃないの」と返されてしまいさらに衝撃。ガガーンである。

だって本当にそうなのだ。食べられる。飲み込める。
苦手ってもっと「これを食べると吐き気が止まらなくなる」とか、「蕁麻疹が出ちゃう」とかじゃないのか…?
そう呟くと夫は「それはアレルギーだよ」とツッコんだ。

私は思った。
もしかして私って「苦手なものがない」のではなく、「苦手に気づくのが下手なだけ」なんじゃないか…?と。この何気ない気づきから、私は34年間気づいていなかった「苦手」を意識するようになった。

●苦手なものがあってはいけないと思い込んでいた
苦手なものを苦手と認めることって、自分が生きていくために実はすごく重要なのではないだろうか。
「苦手」って言葉はマイナスな意味でつかわれがちではあるが、別に苦手なものがあってはいけないわけではない。
むしろ自分の苦手を把握することって、自分の人生をイージーな方向に進められる地図のような役割があるのではないかなと思う。

例えば私は算数が大の苦手。
計算をすればかなり初歩的なミスをするし、数を数えるのもかなり下手。
どんなに努力してもゆっくりやろうとしてもいつも必ずミスをする。

そんな私は10代の頃「レジ打ちは経験しておいた方がいい」と思って始めたレジ打ちのバイトで毎日誤差+1万円というミスを5日連続で犯してしまい、経理の人が怒りで段ボールを蹴り上げ、恐怖と申し訳なさでその日のうちにバイトを辞めたという経験を持っている。(最悪)

この時私が考えていた「経験しておいた方がいい」は私のただの先入観であって、算数が苦手な女はそもそも別に無理にレジの仕事なんてする必要はなかったのである。
ああ、あの時の経理の人本当にごめんなさい…

【絵が得意=絵の仕事を選ぶ選択肢がある】
と同じように
【算数が苦手=計算の必要な仕事を選ばない選択肢がある】
のだ。これは立派な自分の人生の地図だと思う。

勿論苦手な事に立ち向かうことも大切だが、私にとっての算数のようにどう努力しても苦手なことを「いいえ、頑張ればできるはずなんです!」ではなく「そういえば私って算数が苦手なんだ~」と理解しておくことによって、事前に誰かに相談できたり、別の人に担当を代わってもらえたりすることができる。
つまり事前にトラブルを回避することに繋がるのだ。
苦手を意識すると自然と自分の向き不向きに気付ける。その時にやるべきことが見えてくる。

●小さな選択をする練習
しかし、自分にとって何が苦手なのか、何が好きなのかを知るってかなり難しい。
私はここである練習をすることにした。
それは部屋の断捨離である。
なんとなくで買った食器や、あまり気に入っていないインテリアを少しずつ、でも確実に減らす。
そしてピンときた食器や、心ときめくインテリアに買い替える。
買い換えた時にたまに「いや…やっぱりこれは好きじゃないな」という失敗もするが、それを繰り返すたびにどんどん自分の好きなものが明確になっていくのだ。
何度も何度も好きなものとそうでないものを選ぶことを積み重ねて、何が好きか嫌いかがやっとわかる。
自分の中の無駄だった部分というか、プラモデルのバリというか、そういうものがどんどん取れてきて、自分って本当はこういう形をしてたんだ。と思えてくる。
そうしてやっぱり好きなものに囲まれていると、人生のなかの幸せな時間がちょっと増える。

●苦手=自分の一部
苦手なものがあることは悪いことではない。
苦手なもの=自分の一部
苦手を認めることで、自分の事を自然にいたわれるようになる。
私はこれが好きでこれが苦手、これが得意でこれが下手。
人生好きな事ばかりできる訳ではないけれど、できれば好きと得意の分量が多くなるように自分で自分の人生を操縦していきたい。

とりあえず私は人からナマコを勧められたら「ちょっと苦手なんだよね。気にせずみんなで食べて!」って言う事から始めようかな。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【X】@cchhiiaakkii
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