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「夜読む日記」

傷つかないように生きていく

歳をとるごとに人と揉める回数が減り、嫌だな~と思う人に出会わなくなってきた気がする。

ここでも何度か書いてきたが、私は人との距離の取り方をミスり続けて生きてきた。
若い頃の私は「優しい人になりたい」と常に思っていて、まるで完全無欠のヒーローや神様のように、完璧に優しい人間になろうと努力していた。
ただ、この「優しい」は他人のためではなく、自分のためだった。100%邪念によるものだったのだ。

なぜ優しくなりたかったのか?
それは「誰からも嫌われたくなかった」から。
嫌われたくないというより、嫌われることが猛烈に怖かった。
自分を傷つけないために、人から嫌われたくなかったのだ。

「誰ともいさかいなく、誰からも愛されて生きられたらいいな」と思っていた。
大げさではなくそうでなければ自分に価値がないのではないかと思っていた。
自分以外がみんな上手く生きているように見えていた。みんなだれからも必要とされていて、大切にされている。
一方の私は他人との距離を上手くつかめない。どうしよう。どうしたらいいんだろうと気ばかり焦った。
だから誰にも嫌われないように、誰にでも優しくしていた。

しかしどうもうまくいかない。
優しくしたつもりが逆に仲が拗れていってしまうのだ。
今思い返すとこの時の私は優しくしているつもりだけど、その優しいが一人よがりすぎてズレてしまっていたのだ。そのせいで嫌われたり、逆に嫌いな人が増えていく…なんで!?
「私ってなんでこんなにうまくいかないんだろう」と、ずっと考えていた。

● 私は誰にも優しくできていなかった
「誰にでも優しくする」ということは、「誰にも優しくできていなかった」のではないだろうか。
嫌われたくないからその人を全肯定してみたり、いい顔をしたり、バレないように無理をしたり。そういった表面的な優しさってただ「相手の顔色を伺うだけの人」でしかない。

本当の優しさってもっと他人を思いやったり、気持ちを考えて寄り添う事なんじゃないだろうか。
調子のいいことばかり言って、自分の意見がない人間を好きになる人はいない。

私のしていたことって、ただ自分を守りたいだけの行動で、結局自分の事しか考えていなかったんじゃないだろうか。
「優しくしたから優しくしてもらえて当然」と心のどこかで思っていたのかも。
察してよ~ってさ。自分が他人だったら「そんなの察せるわけないじゃん。」と今になったら思えるんだけどな~。
大切にされたいと期待すればするほど、大切にされることから遠ざかっていく。これはまさに負のループだった。

●人間関係は物と同じ
歳と失敗を重ねて理解したことは、私は完璧じゃない。
完璧じゃないなら、気が合わない人がいたって当然だ。
したかって人間関係は手の中に収まりきるだけ、見渡せる分だけ、管理できる分だけを大切にすれば、それで十分。

「あの家具もいいな、この雑貨もいいな」と手当たり次第に買い集めて家に置いてみたところで、自分の身動きが取れなくなったら意味がない。
ましてやそれを大切にできなかったり、埃をかぶせてしまったら……そんなもったいなくて失礼なことはないのではないか。

目の前にあるすべてを同時に平等に大切に扱うなんて、不完全な私には不可能だ。

● 大切にできる数が決まっているならば
自分の人生を一つの家と考え、その中に招き入れる人を選ぶとき、「ただそこにいたから」「とりあえず入ってもらおうかな」といった理由で引き込んだ人とうまくやっていけるだろうか。
どう考えてもNOだ。

人にはそれぞれ好みがあって、苦手なものがあって、それって超自然な事。
私が可愛いの化身だと思っている猫にだって、苦手だったり嫌いな人もいるのだ。
猫よりかわいくなくて邪念の多い私の事を嫌いな人がいたって不思議ではない。

私の短い人生、超長くても100年ちょい。
死後の世界があるかは知らないが、100年経ったら私の汚い部分やうまくできない部分なんて誰も知らない世界になる。私の事を嫌いな人も一人もいなくなるだろう。そんなことのためにビクビクする必要なんてないんじゃないかしら…と思う。
限られた時間の中をせっかく生きるのであれば一緒にいて楽しかったり、楽だったり、格好をつけなくてもいい人と過ごすべきだと思った。

もちろん人間対人間の話なので、どんなに相性が良くてもギスギスしてしまうこともあるだろう。
そういうときは、「よければまた私の人生に遊びに来てね」と、一度相手と距離を取り、自分の人生の居心地を整え直せばいい。
他人を気遣う必要って絶対にあるけど、そのせいで自分の人生を窮屈にさせる必要はない。
人間ある程度自己中心的な方が生きやすくなる。

そういう選択を繰り返すうちに、だんだんと「何を大切にして、何を手放していいのか」が分かってくるのではないだろうか。
自分の人生を自分で整え、自分をもてなすこと。それが人生を快適に過ごしていく方法なのではないかと思う。

● いい人でなくても自分の事は好きでいたい
本当に傷つかずに生きていく方法は、「誰かに嫌われないように努めること」ではなく、「自分を蔑ろにしないこと」だ。

きっちり見渡せて、大切にできる範囲を整えて精いっぱい大切にする。
自分の為に自分と相性が良かったり、自分にとって素敵だと感じるものを選んでいく。

誰のことも嫌わない、誰からも嫌われない人生なんて無理だが、好きな自分でいられるように環境を整えることはできる。
見える範囲で、持てる分だけ。
自分の人生を、自分自身で優しくサポートしていくのだ。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【X】@cchhiiaakkii
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