「映画でくつろぐ夜。」 第46夜
知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。
「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」
自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。
■■本日の作品■■
『読まれなかった小説』(18年)
『エコーズ』(99年)
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。
ヘンになったお父さんが地面を掘り始める映画
奇妙なタイトルだが、今回取り上げる映画は本当にそのままの内容の作品ばかりである。個人的にいつからか、映画でお父さんが奇行に走り出すと、ある共通した行動に出る場合が多いことに気が付いた。メモを取る習慣がないので、忘れてしまっている映画も多いはずだが、思い出せる限りあげてみたいと思う。(『大脱走』のような目的のある作品は除く)。
まず、最初に印象に残ったのは石井岳龍(聰互)監督の『逆噴射家族』(84年)だった。シュールなナンセンスコメディで、父親役の小林克也が、突然同居することになった祖父のために、地下室を作ろうと住居内の床を深く掘り返し始める。この異常行動に感染するかの如く、家族たちもおかしくなっていく物語だ。
テレビで観たスティーブン・スピルバーグ監督の、『未知との遭遇』(77年)も気になった。本作では、UFOを間近で目撃したリチャード・ドレイファスが、それ以来とある山のイメージに取り憑かれる。最初はマッシュポテトで無意識に作るくらいだったが、ある日、庭の土を掘り返して室内に盛り上げ、その山を作り始める。家族は父がおかしくなったと思って家を出てしまうが、後日実在したデビルスタワーというその山に、UFOが大々的に出現する。
『フレイルティー -妄執』(01年)は、カルト的な人気を誇る映画だ。監督、主演は俳優のビル・パクストン。これが長編の監督1作目だった。俳優としても主に二番手くらいの助演で良い仕事を残したが、17年に61歳の若さで亡くなってしまった。本作では、男手一つで息子二人を育てる父親のパクストンが、ある日「神の啓示を受けた」と言い出す。そして地下牢を掘って、父にとって悪魔の化身であるとわかった人々を、殺害していくことになる。その際、息子たちに手伝わせることが伏線となっていく。
この手のもので父親は啓示を受けたり、予感に囚われたりする場合が多い。ジェフ・ニコルズ監督の『テイク・シェルター』(11年)は、父親のカーティス(マイケル・シャノン)が突然、世界の滅亡の悪夢をみるようになる。そのリアルな恐怖に恐れを抱いた彼は、家族のために庭に本格的なシェルターを作り始める。彼が嘘をついて会社のショベルカーを借りて地面を掘り返す姿を、家族や友人も異常と思い精神状態を疑う。
日本ではソフト化されておらず、なかなか観る機会もないので申し訳ないのだが、台湾の映画監督チョン・モンホンの『失魂』(13年)も、あげておきたい。本作も、父と他人の心霊に体を乗っ取られたらしき息子との映画である。息子は突然人が変わったようになり、人を殺めてしまったため、父はショベルカーで山中に遺体を車ごと埋めるために深い穴を掘る。父を演じているのが、カンフー映画のスターであるジミー・ウォングで、本作で初めて性格俳優として高く評価された。
まだ、ほかにも土を掘る映画はあるのだが、とりあえずこの辺りにしておこう。土の湿気やひんやりした触り心地が、何か人の神経が落ち着く脳波でも引き出すのだろうか。これらの映画は地面を掘るにしても、熱心すぎてみんな家族から怖がられるなど不思議な共通項が多すぎて、何か意味がある気がする。地面を掘る効果についてご存じの方がいらしたら、ぜひご教示いただきたい。
<オススメの作品>
『読まれなかった小説』(18年)
『読まれなかった小説』
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
脚本:アキン・アクス
出演者:アイドゥン・ドウ・デミルコル/ムラト・ジェムジル/ベンヌ・ユルドゥルムラー/ハザール・エーギュチル
トルコの名匠ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の作品。3時間強の長尺だが、なんだかあっという間に見終わってしまう。主人公のシナンは作家を目指しているが、道は険しく将来の仕事に悩んでいる。父親のイドリスはギャンブル狂の教師で、あちこちに借金をしている。息子と違い、愛想がいいのが取り柄だ。彼はずっと井戸掘りを熱心に続けている。映画のエンディングも、折り合いの悪かった父と息子が井戸を掘る姿で終わる。なぜ土を掘ることが介在するのだろう。
『エコーズ』(99年)
『エコーズ』
監督:デヴィッド・コープ
出演者:ケヴィン・ベーコン/キャスリン・アーブ/イリアナ・ダグラス/ザカリー・デヴィッド・コープ/ケヴィン・ダン/ルシア・ストラス/コナー・オファレル/ジェニファー・モリソン/ライザ・ウェイル
本作も本来は幸福な家族が主人公だ。友人のパーティーの余興で、催眠術をかけられたトム(ケヴィン・ベーコン)は、それ以来サマンサという少女の亡霊の姿が見えるようになってしまう。しかしトムの必死の訴えは周囲に理解されない。彼はそのうちサマンサの遺体が身近にあると考え、庭を片っ端から掘り返していく。その様子に怯えた妻は、子どもを連れて家を出てしまう。妻が夫に穴を掘るのをやめるよう説得しているとき、傍らで幼い息子が父親の手伝いで穴を掘っていて、一貫して男系家族の作業なのも気になる。
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