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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第122夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『リング』(1998年)
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

これから初夏まで日本のホラー映画が豊作です

現在公開中の『廃用身』は老人介護ホラーと言うべき作品である。原作は久坂部羊が2003年に発表した小説デビュー作。廃用身とは脳梗塞などで麻痺し、リハビリをしても回復の見込みがない手足のこと。主人公のデイケア施設の院長を務める漆原(染谷将太)は、画期的な治療法を思いつく。介護士たちは被介護者の肉体を支える重労働で苦労している。だったら、廃用身である手足を切断してしまえば肉体は軽量化され、介護の効率が上がるのではと考えたのだ。

どれだけリハビリしてもその手足は動かないと言われるのはつらいだろう。そのうえ、廃用身だからと手足の切断を促されるのはゾッとする提案である。原作も映画もその辺りは、まず壊疽を起こしてしまった老人の脚から徐々に切断が行われていくように、うまく設定されている。

『竜宮の誘い』は6月6日から池袋 シネマ・ロサで上映。カニバリズムと闇バイトを合わせた作品だ。主人公のサトウは心の内に(人間の肉を食べてみたい)という異様な欲望を抱えながら、キャバクラのボーイとして働いている。しかし、ある日拾ったスマホが半グレの物だったために、サトウは問答無用に闇バイトの世界に引きずりこまれる。それは血の匂いのする仕事で、黙々と従ううちに、サトウの中のカニバリズムへの欲求も刺激されることになる。怖い映画ではありつつ、ブラックな笑いもあり、伏線回収も見事なよく出来た映画だ。

『遺愛』は6月19日公開。「行方不明展」や『イシナガキクエを探しています』を手掛けたテレビ東京プロデューサーの大森時生と、映画『フィクショナル』『カウンセラー』の酒井善三監督が、『このテープもってないですか?』などに引き続きタッグを組んだのが本作だ。この映画も導入は介護ホラーの一種である。しかし物語は飛躍し、編集にまったくの無駄がない形で、タイムループともいえる呪いの連鎖を描いた完成度がとても高い。個人的に今年のベスト3には入りそうなお気に入りだ。

『廃用身』と同じく染谷将太が主演を務める『チルド』は7月17日公開。特に将来の展望もなくコンビニで長年バイトをしている堺(染谷将太)。バイト仲間は神経質なリーダーと軽薄な室井(令和ロマン・くるま)、主婦や外国人労働者といったメンツの中に、小河(唐田えりか)が新たに加わる。コンビニというのは社会の極小さな縮図であって、イライラすることや不条理な出来事がひたすら起こり続ける。たとえば女性が駅を歩いているときの“ぶつかりオジ”なども、鬱憤のはけぐちとして女性に暴力が向けられるように、コンビニという低姿勢の接客業に対して横暴な態度を取る客は多い。そういった人間の暗部を徹底して見据えた作品で、現代日本の闇そのものを感じる。堺がマッチングアプリで出会う女性たちも、どこか真っ当な感受性からズレた受け答えをするが、こういう病んだ精神こそ常態化しているのではないか。

そして去年映画化された『近畿地方のある場所について』に続いて、人気ホラー作家・背筋の『口に関するアンケート』の映画も7月3日から公開となる。これは原作本が手のひらに収まるような、かなり特殊な型をしていて印象深かった。監督は「呪怨」シリーズの清水崇で、大御所が引き受けた形だ。ジャパニーズホラーだけでも初夏まで目白押しである。

<オススメの作品>
『リング』(1998年)

『リング』

監督:中田秀夫
出演者:松嶋菜々子/真田広之/中谷美紀/沼田曜一/雅子/竹内結子/佐藤仁美

最近改めて考えてみて、まだ『リング』の怖さを越えてくるジャパニーズホラーは少ないんじゃないかと思った。『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』のように違った傾向に進んで怖い作品は登場したが、王道の幽霊映画では『リング』はいまだ最恐ではないだろうか。あのオープニングの電話だけでも戦慄する。

『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(2025年)

『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』

監督:近藤亮太
出演者:杉田雷麟/平井亜門/森田想/藤井隆

本作で素晴らしかったのは、突然の大きな音で驚かすジャンプスケアを一切用いていないことだ。音で飛び上がるのはビックリしているだけで怖いからではない。その峻別をして、漂う雰囲気で恐怖を高めたのはとてもオリジナリティがある。またクィアに関して説明的なセリフを一切排して、普遍的に取り扱っていたのも非常に好感が持てる。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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