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「夜読む日記」

「自分はかわいいと洗脳しよう」

若い頃の私は、人生にやたらと不幸が続いている気がしていた。

ひとつ嫌なことが起こると「まただ」「なんで私ばっかり」「運がないなあ」と思ってしまう。
きっと誰にでもそういう時期はあるのだろうけど、当時の私は本気で「私は不幸体質なんじゃないか」と思っていた。
マジで転がるように嫌な事から嫌な事へ現実がスライドしていくのだ。あーやだやだ。何にもうまくいかないな。あたしゃもう一生一人ぼっちでいいよ。飼い猫とだけ仲良くやっていきたい。なんて思っていた。

しかし拗ねたからといって状況が改善するわけでもない。
どうにかこの陰鬱な気持ちを変えられないだろうかと悩みに悩んだ末、ある日私はひらめいたのだ。
「そうだ、自分を洗脳しちゃえ」と。

その内容は「私はかわいい」と思い込むことだった。
もちろん本気でそう思っていたわけではない。
今もであるが、私は自分の容姿がさほど好きではないのだ。
しかも小さい頃母親から「アンタは太っていて目が小さい」と言われていたので、当時自分は肥満の巨人だと本気で思い込んでいた。
どれぐらいそう思い込んでいたかというと服なんかは全てXXXLを着ていたし、靴も自分のサイズより3センチほどデカいものを履いていた。
街に出れば「ドデカくてすみません…」と申し訳なく思っていたが、今になって冷静に考えれば私は身長が140センチ台で、なおかつ体形も標準なので全くドデカい訳ではなく、むしろ結構小さいのだった。

だが、当時の自分は本気でそう思っていたし、自分の事を1ミリも好きではなかったのである。

私はかわいいと思い込もうとひらめいた日、私は洗面所に向かい鏡を見ながら「私はかわいい、私はかわいい」と唱えまくった。
人生で初めて自分をかわいいと言ったし、おそらく初めて誰かから(自分であるが)かわいいと言われたと思う。
なんだかそれが自分の心境とちぐはぐで面白くて、鏡を見るたびに毎回「かわいいじゃん」と言うようにしていた。

そんなある日、友達と遊んでいるときに失敗して、普段なら平静を装いつつ「恥ずかしいな~」と心の中で思っている感じの場面だったのだが、「失敗しちゃったよ…でも可愛いから仕方ないか…」と発言したところ、友達が笑ってくれたのである。
そうか…失敗とか不幸って正面から食らうんじゃなくて、こうやって受け流すことも出来るのか…

それからは「いやでも私ってかわいいからな」とか「私がかわいいばかりにすみません…」とか、何か起こるたびにそういう言葉を心の中でつぶやいたり実際に口に出したり、ひらりひらりと受け流すようにしていた。

すると、不思議なもので、失敗しても自然と「まあ、そういうところが魅力的なのだがな」と思える。失恋しても「こいつの見る目がなかったのだな」と思える。理不尽なことがあっても、「かわいい私にこんなことするなんて損しているな」と考えられる。
もちろん現実が変わったわけではない。嫌な出来事は相変わらず起きる。でも、自分の受け止め方だけが少しずつ変わっていった。
傍から見ると珍妙かもしれないが、それで洗脳の効果がいいように作用したのか、少しずつ深く落ち込むことがなくなっていったのだ。

人は案外、自分が思っている設定どおりに振る舞う生き物なのかもしれない。
人生は思いどおりにはならないけれど、自分をどう設定するかくらいは、自分で決めてもいいのかもなと思うのだった。
今日も私はとってもかわいい。恐らく。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【X】@cchhiiaakkii
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