
「夜読む日記」
無理やり苦手なことを克服しようとしていた
コラムを書くような仕事をいただいているが、私は活字を読むのがとても苦手である。
かといって算数が得意というわけでもなく、スポーツも出来ない。つまり何もかもがてんでダメなのだ。
当然学生時代の成績はパッとせず、母親からは「お前は活字を読まないからダメなんだ。漫画を読まずに小説を読みなさい。」と言われ続けていた。
しかし何度も活字の本を読むことにチャレンジしたがどうにも目が滑ってしまう。そして人物に名前や関係性が文字だけだとどうしても覚えられないのだ。頑張って最後まで読み切っても「読み切ったぞ!」という達成感だけで内容はさっぱり覚えていない。
私にとってこれは結構なコンプレックスであった。
算数も同じで、小学生の頃にそろばんができる同級生がメチャクチャかっこよくて、親にお願いしてそろばん教室に通わせてもらったのだがある時点からつまずき、どんなに努力しても一向に上達しなくなってしまった。
結果学校の算数の時間にもついていけないことが増え、計算も読書も苦手な大人になってしまった。
●成人したら魔法みたいにできるようになると思っていた
今考えると私は「成人」に物凄いあこがれを持っていたように思う。
大人=ちゃんと働いてるし、家事もできるし、家庭を持つものだ。自分も大人になったらそうなるんだろうな。なんて思っていた。
しかし実際は年齢を重ねても人生は地続きなのである。
19歳から20歳になったからといって魔法のようにしっかりした大人になれるわけではないのだ。なれたらよかったのだが。
というわけで夢もなければ得意なことも何もないフリーターの20歳の成人女性が爆誕したのである。
できないなりに色んなことを試した。例えば歯科助手とか、本屋の店員さんとか、深夜のパン工場とか、ホームセンターのレジ打ちとか。
しかしどうにもうまくいかないわけである。
ある場所では人間関係でつまずいたり、ある場所では業務が覚えられなかったり、算数が苦手なことが災いしたいなどなど。
勉強もダメ、バイトもダメ、家に帰れば親との折り合いも悪いし将来の夢も好きな人もいない。
ギャ~!私ってめちゃくちゃ欠陥品なんじゃないの。
●全部苦手なもの
当時の私がなぜ何もかもうまくいっていなかったのかと考えた。
結果≪私は無理やり苦手なことを克服しようとしていたのではなかろうか?≫という結論に至った
思い返すとどんなアルバイトを探すにも「なんか親がうるさく言ってこなさそうな職種を選ぶぞ…」「なんか当たり障りのないことをしなくちゃな…」と思っていた。
そもそも私は物覚えが悪かったりとか、活字や算数が苦手なのだから、そりゃあレジを触ったりだとかいろんなものを記憶して正確に働かなければならない場所なんか向いているはずがない。
ついでに人付き合いも割とへたくそ。
そう、私が選んだものたちはことごとく私に向いていないものばかりだったのである。
そりゃあできなくて当然だろう。
●苦手は克服してこそ美しい?
多くの人々は苦手は克服してこそ美しいと、なんとなくそんな風に刷り込まれている気がする。
まあ確かに克服するってかっこいい。
しかし、しかしである。悲しいかな人には向き不向きが確実に存在するのだ。
少なくとも私にはめちゃくちゃある。
不向きに立ち向かったところで、そもそも才能がないので上手くなるわけがない。
そこに立ち向かい続けたとしてもいい結果になることは決してないのである。
20代、何もかもうまくいかない中である日私はふと思った。
「苦手なことにだけ目を向けてウンウン悩んでいるのって、滅茶苦茶人生を損しているのではなかろうか?」と。
どれだけ長く生きたとしても残りの人生たかだか70年とか80年とか。
この人生の中で最も元気で貴重な時間を、苦手だけを見つめて戦って成長しなくて悩んで…そうやって過ごしていてもいいのか…?
活字が読めなくたって、算数ができなくたって、人付き合いが下手だってできる事を見つけていった方が圧倒的にいいんじゃないか…?
もっと興味のあるもの、こと、会ってみたい人、やってみたいこと、それに目を向けないとあっという間に年を取って死んじゃうんじゃないのか…?
一度きりの人生、マジでこのままでいいのか…?
そこに気づいた瞬間、なんだか目の前がだだっ広くなったような、人生の選択肢が一気に増えたような、そんな気がした。
●苦手は苦手のままでいい
私は活字が苦手である。算数も。
これは小さいときからものすごいコンプレックスで、恥ずかしくてずっと人に話せていなかった事だ。
でも別に活字が苦手だからって即死するわけではない。算数ができないからって生きていけないわけではない。
大切なのは自分はそういう人間なんだって理解して、そうしてきちんとした形で回避することなのではないだろうか。
例えば私は現在、仕事で計算が必要なときには一旦、関係者全員に算数が破滅的に苦手な旨をきっちり説明する。そうすると変なミスがなくなって結果色んな人の余計な仕事が減る。
物覚えが悪くすぐテンパるので自分の為にも他人の為にも運転免許は絶対取らない。少々不便ではあるが、代わりに電車やバスやタクシーは使える。
活字が苦手なので無理に読まない。活字を読まなくたってこの世界には色んな種類の本がある。
苦手や不向きを知って、受け入れることでずいぶん生活しやすくなったように思う。
苦手や不向きを知ることによって、相対的に得意やできる事を理解することができて、人生に彩りが増えた。
うだうだと色々書いてしまったが、結局自分一人で完璧な大人になる必要なんてなかったのだ。
苦手な事さえわかっていれば、自分がダメになってしまうルートを回避することができる。
それは結果として自分にとっても、周りの人々にとってもお得な結果になる訳だ。
できないことがあっても、楽しいこと、自分にできる事は案外ゴロゴロ転がっている。
まずはそこにだけ目を向けてもいいんじゃないかと思うのだ。
完璧じゃなくてもいいから自分の人生を上手いことハッピーエンドに持っていきたいな。
好きな漫画を読んだりなんかしながら。
