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「夜読む日記」

秘密を持つということ

私は「秘密」が苦手だ。
何かを秘密にしようとすると心がむずむずとしてしまい、どうしても人に伝えたくなってしまう。
嘘をつくことも苦手なので、基本的に私には秘密がない。
これって結構最悪で、いや、自分に関する秘密がないことは本当にどうでもいいんだけど、若い頃はこと人間関係においてこの悪癖のせいで失敗した経験が沢山あった。
これは私の懺悔と、同じように秘密が苦手な同志諸君に送る懺悔のコラムである。

・私の心の癖
以前書いたことがあるが私は人から嫌われることを過剰に恐れていた。
この恐れの原因は自信のなさ、つまり自己肯定感の低さだと自分なりに分析している。

人と会うといつも気を張っていたし、「こんなダメな所だらけの自分と会っておしゃべりしてくれる大切な相手を楽しませなくちゃ!」「笑ってもらわなくちゃ」という謎の使命感に突き動かされ、楽しんでもらいたい一心で言わなくていいこと、やらなくていいことをたくさんしてしまっていた。
例えば過度な自虐とか、明け透けな下ネタとか、誰かの秘密の共有とか。(これはマジで最悪)
笑って欲しかったり、共感して欲しかったり、一緒に悩みたかったり、話をするきっかけ作りのつもりだったけど歳をとった今になって思えば余計なことばっかり言っちゃってたな〜。ああ黒歴史。
友達や家族に一番必要なことは秘密を持たないことだと思っていたんだよね。でもそれって大きな勘違い。

当時は想像すらできないほど幼稚だったけど、余計な話をするって全然サービスじゃない。
人それぞれに秘密があるって当たり前だし、私自身に隠し事がないことと、相手に隠し事があることはまったく関係ないことなのだ。

・秘密は秘密のままでいい
若い頃、おしゃべりの最中に友達や恋人が困ったように口籠った時「どうしたの、何かあった?悩みを聞こうか?」なんて言って、無理やり聞き出そうとしていた自分がいる。
話してくれたら嬉しかったし、話してくれなかったら「言った方がスッキリするのになんで言ってくれないんだろう」とモヤモヤしていた。
(もちろん実際に人に愚痴って発散したいときもあると思うんだけど、今回は本当に教えてくれないときの話ね)

今、この年齢になってはっきりわかるんだけど、この時の私のモヤモヤの正体って「友達の力になりたい」みたいな純粋な気持ちではなかったんだろうなと思う。
私の心を支配している気持ちって、ただの「興味」だったのではないだろうか。
自分の興味を持ったことを教えて欲しい、知ってみたい。そういうわがままの正体が「なんで話してくれないの?」だったのである。(書いていて恥ずかしくなる。)

あの頃、友達が話したがらない秘密を聞き出して、そのあと私はどうなりたかったのだろう。
情報通?友達ともっと仲良くなりたい?秘密を知って満足したい?
一つはっきりしていることは他人の大切な秘密を知ったって、人生にプラスに働くことはほとんどないということではないだろうか。
知的好奇心を満たすために人の心を覗き見るなんて、ああ〜当時の私、超趣味が悪い。距離感がバグってる。

友達の秘密は友達のもの。私の好き勝手していいものではない。
どうこうできない人の事情や、秘密を何もできない私に教えて何になるっていうんだろうか。
人には他人に踏み入れて欲しくないテリトリーっていうのが必ずあって、そこを尊重し合うことが真の人間関係なのではないか、と強く思う。

・質問に想像力を持つということ
さて、私の若い頃に犯した最低な失敗エピソードの一つに友達の家庭や恋愛事情へのプライベートな質問というものがある。
たとえば友達に彼氏ができた時「結婚は考えてるの?」と聞いてみたり、友達が結婚した際「子供って考えてるの?」と聞いてしまったこと。
たまたま友達が優しかったからよかったけど、人によっては絶対踏み込まれたくない領域だったよな…とその質問から10年以上たった今でも定期的に心の中で反省会を開いている。

たとえば結婚はその子が結婚というシステムにトラウマがあるからできないのかもしれない。
子供が欲しくてもできない体質かもしれないし、家庭の事情だってあるかもしれない。

自分以外の人間って、当たり前だが自分ではないのだ。
私が聞かれても平気なこと、されても大丈夫なことが相手にとっても大丈夫だとは限らない。
そのことを理解するのに随分時間をかけてしまったな。

・相手の事情は話してくれたときにだけ聞けばいい。
これは私が34年間、人と接してきた中で気づいた人生を生きるコツである。
あたり前のことじゃん、何を今更…と呆れている方もいるかもしれないが、私と同じようにこれに気付けずに苦労している人は一定数いるのではないかと思う。

相手の悩みは相手のもの。
話してくれないから拗ねたり、しつこく質問したりするんじゃなくて、相手が話したくなったときにだけきちんと向き合っていきたいな。
それからもっと大切なのは、勇気を出して相談相手に選んでくれた人の事情は、きちんと自分の心の中にだけしまっておくべきなのだ。

秘密があったって楽しく遊べる。秘密があったって当たり前に相手のことが好き。
それでじゅうぶんなんだと、昔の自分に言ってあげたい。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【X】@cchhiiaakkii
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