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「夜読む日記」

風邪を引いた日の事

私たちは死にたいと思った夜を何度も乗り越えて今ここに立っている。

久々に熱が出た。
頭がぼーっとして仕事に手がつかない。今月は確定申告もあるのに不覚だ。
気ばかり焦るが仕事ができる状態でもなく、同じく熱を出している夫や息子の世話をしたり、家事をしたり。

少し無理をしたらあっという間に39度まで熱が上がって「こりゃやばいな」と思い布団に潜り込んだ。
眠れない。眠れないのでいろんなことを思い出す。主に学生時代に恥ずかしい思いをしたこととか、昔あった嫌なことか。
まだこれ系の恥ずかし思い出しってあるんだ。わたくしもう33歳ですわよ。
もっと楽しいことを思い出したりできないんですの?

で、こういう時結構な頻度で思い出すのが、20歳を迎えて立て続けに失恋をした時、家族仲も仕事もなんだかうまくいかなくて、そんな自分の存在が情けなくて仕方なくて、母親に向かって「もう死んでしまいたいんだよね」と言ったこと。
それを言った場所や空気感まで鮮明に覚えている。ので、おそらく当時の私はその言葉を口にしながら「言っちゃったよ…」と後悔していたのだと思う。
今考えると失恋程度でなんつーことを言ってんのよ!と思うんだけど、それでもやっぱり、後から考えてどれだけしょうもない理由でも当時の私は大真面目に悩んで悩みまくってその言葉を発したのだ。
今回はその時の自戒を込めて「死にたい」という感情について考えていきたいと思う。

まず、当時私の言った「死にたい」っていうのは自殺したいとか殺されたいとか、そういう意味ではなかった。と、思う。
あれは「その場から私の存在がパーッと無くなっちゃえばいいのに」若しくは「私がバカで惨めなことを誰1人知らない世界で全てをやり直したい」という感情に近い。
でもそれにぴったりな言葉が見つからなくて、見つけ出すのも億劫だから「死にたい」っていう簡単な言葉でまとめたんだろうな。ニュアンスはなんとなく一番近い気がするし。

さて、でも私は生に執着があるタイプだったのでこうして今もしぶとく生きながらえているわけです。
あの時私は布団に入ってモダモダして泣きまくって、ご飯を食べてまた布団にもぐって考えて考えて考えまくった結果、やっぱり自分を負の感情に追いやった人より楽しく長生きしてやりたいって思ったんだよね〜。

「私が楽しく生きていたら私の事が嫌いな人は不愉快でしょう!カッカッカ、その方がいい。ざまあないね!」ってね。

一方でSNSやニュースを見ていると毎日のように私よりも若い子達が生きるのをやめてしまう事を選んでいる。
それはそれで私は悪だとは思わない。正解だとも思っていないけれど。悩んで悩んで悩み抜いての選択だったんだろうなぁと思うの。
で、その子の人生や生きてきた道を想像してみる。
それでやっぱり想像すればするほど、やっぱり自殺って正解でも、不正解でもないんだろうなと思うのだ。
否定も肯定もできない。だってその子の人生はその子だけのものだから。私が軽い気持ちで、正解や不正解みたいなちんけな言葉でジャッジして良いものではないはずなのだ。
私はただただいつも「一度この子と話してみたかったなあ」と思う。勝手だけどさ。

今毎日が辛くて、生きるのをやめてしまいたい人が、生きる方向に踏ん張れるような、そんな言葉をたくさん残したい。と思いながら作品を作り始めたことを、私は今日この文章を書きながら改めて思い出した。
何くそでいいのだ。生きる理由なんて。
汚くても負の感情でもいい。立派な目標なんてなくてもいい。誰かにいじめられていて身動きが取れないなら家から出なくたっていい。家に居場所がないのならそこから飛び出してしまってもいい。
ただちょっとでもこの世の中に面白そうな事が残っているなら、やっぱりここにいてほしいなあなんて思う。これも勝手な話だけど。

スタバの新作が飲みたいから、イベントに行きたいから、漫画雑誌のあの作品が完結するまでは…って。それはきっと誰かに明日を迎えさせるために存在しているはずなのだ。

せっかく生まれてきたんだもん。生きている間より、生まれる前と死んだ後の方が長いんだから、折角だから可能な限り明日も生きてみませんか。
明日も生きたら次は明後日も。
それを繰り返していくうちに、もしかするとあっさりと生きたい理由が見つかるかも。見つかるといいよねって願っている。

若い時に逃げ出せなかった事って、案外時間が経てばスルッとそこから出られちゃったりするものだよ。
逃げてもいい。どこへだって逃げてもいいし、何度だってやり直してもいい。
誰かに迷惑をかけない限り、何をやったって人生は自分だけのものなのだ。

生きて生きて、生き抜いた先で、私はいつかあなたと話したいなあと思っている。
それで言い合いたいのだ。「大変なことがたくさんあったんだよ」って。「でも大人って思っていたより自由でいいね」って。

いつかまだみぬ誰かと、おいしい食べ物を食べて、面白い漫画を読んで「あ~生きていてよかったね」って言い合いたい。
私だって今が100%幸せとは言い切れないけど、あの時泣いていた私にもしも会えるなら「未来は案外いい感じだよ」って伝えられると思う。
それで今より未来で歳を重ねた私は、今の私よりも更にいろんなものを見て、いろんなことを諦めたり新しい楽しみを見つけたり、きっと今よりもずっと生きることに忙しくしていることだろう。

きっと未来で会いましょう。

さて、あなたと未来で会うために、おとなしくトローチでも舐めて眠ろうと思います。
目が覚めた時、熱が下がっていますように。
とりあえず今日はおやすみ。また明日。ね。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【Twitter】@cchhiiaakkii
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