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「夜読む日記」

嫉妬を手放す

嫉妬するのをやめてみた
私は稀代の嫉妬しいである。
しいとは関西弁で「〇〇する人」。つまり嫉妬をする人間だ。
負けず嫌いともタフとも違う、「嫉妬しい」。

幼い頃から教育上母親によく誰かと比べられて生きてきた。
絵が上手にかけたと思ったら「親戚の〇〇ちゃんの方が上手だけどね」
テストでいい点数をとったと思ったら「近所の〇〇ちゃんは100点だったらしいじゃない」
容姿に関しても「〇〇ちゃんの方が口が小さいね」「目は母さんの方が大きいね」
など。
とにかく自分の行いを他人と比較されまくり育ってきた。

この教育がバチっと私にはまっていたのか、はたまたその逆なのか、お陰様で私の心にとびきりの嫉妬心が花開いたのである。かなり嫌な花である。
花開いたのはいいが、勉強も運動も料理もとにかく私には才能がなかった。才能がないと嫉妬をする土俵にも上がることはできない。学生時代の私は輝く同級生たちを見てただただ「はえ〜みんなすげえなあ〜」と鼻水を垂らしているだけだった。

そんなこんなで絵だけは唯一人並みぐらいには描けた私は高校生になり、芸術学科で絵を学ぶことになる。絵はいい。だって唯一無二だし??自分なりの表現でもいいし??比べられることはないもんね〜!!芸術!美術!サイコウ〜!
なんてヘラヘラしていたらいるわいるわ絵の上手い人!たくさん!いっぱいいた!
しかもみんな私より私の好きなことに対する知識を持っている…
ハア〜!負けちゃったよ!好きなことで負けちゃった〜!再起不能かも!
な~んて思っていたんだけど、絵を描くことしか突出した取り得のなかった私は成人した後、執念深くも再び絵を描いてそれをネットの海に放流するようになる。

困ったことにこの頃はSNSの黎明期。
自分の人気がいいねやフォロー数によって可視化されてしまうのだ。
あの子も絵がうまい!この人も絵がうまい!と、この時の私はネットで知った絵描きさんたちを勝手にライバル認定していた。
その人達の作品が世間の目に止まり、あっという間にバズってスターになっていく。仕事を辞めて絵を描く以外のことをしていなかった私はその人のアカウントに張り付いてただただそのページを更新しまくり「フォロワーが昨日から100人増えてる…」とか「リツイートが1000件を超えてる…」とか一々勝手に傷ついたり悔しくなったりなんかしていた。相手からしたら知ったこっちゃない迷惑な話である。
しかしどうしても悔しかったのだ。いろんなアカウントを覗きに行っては「どうしてあの子は認めてもらえるのに私は認めてもらえないんだろう」とそればかり考えていた。
自分だってもっとたくさん絵を描いて上手になればいい。それはわかっているのだが、他人に付いた評価が気になって仕方がない。苦しい。世界中で自分だけが認めてもらえていない気分だった。

嫉妬しいな性格というのはどうにかしようと思ってできるものではない。
23歳、イラストレーターを始めたその瞬間から30代に入るまで、私の心は嫉妬で掻き乱され続けていた。
7,8年かあ~長くない?0歳の子が小2になっちゃうよ。
スマホをひらけばすぐSNSをチェックして、どうして私は他人の幸せを心から喜ぶことができないんだろう。どうして認めてもらえないんだろうとばかり考えていた。
毎日苦しかったし、こんな気持ちは恥ずかしくて誰にも相談できなかった。
そして30歳を迎え「もしかして他人の幸せに対してこんなに苦しくなってしまうのは異常ではないか?」と遂に自分自身で気づいてしまったのである。ゾッ!!

こんな気持ちがなければ私もっともっと人生を楽しく過ごせているのでは・・・?
あらら、私もしかしてかなり損しちゃってるんじゃない?
人生8年分。ここで区切りをつけなきゃこの気持ちはきっともっと悪化しちゃう気がした。
まずはとにかくこの気持ちの払いのけ方を片っ端から検索しまくった。
インターネッツ、おまえさんだけが頼りだ。

検索した結果「アンタは自分軸で物事を見ていないんじゃない?」とインターネッツは私に語りかけた。
そう、私は自分の幸せも不幸せも全て人と比べていたのである。
幸せな時には「でも〇〇さんの方が〇〇も持っているし幸せそうだよな」
不幸な時は「でも〇〇くんの方がよっぽど不幸だよな」
常に自分よりも幸せだったり不幸だったりする人を見つけては「どうせ自分なんて大したことないんだ」という結論を出していた。
これ、自分が小さい頃にされて傷ついていたことじゃん!
なるほど私は自分で自分を追い詰めて傷つけていたのか。

誰かを基準に自分のレベルをはかるのは本当にきりがない。絶対一生心が休まることはないのね。
私は今、この時から全ての比較対象を自分中心に持っていくべきなのだ。
「1年前の自分は少ししかできなかったことが今ではこんなにできるようになった」
「今の自分は自分史上一番傷ついている」
これだけでよかったのだ。
比べるならば常に過去の自分と。それだけでじゅうぶん。
他人の成功は他人の成功、私には関係ない。
他人が成功したって自分にそんな事なんて一つもないのである。
自分の成功は自分の成功。シンプルなことなのにね。

これに気づいてから人と比べる癖はかなり改善された。
ああ、なんだか人の成功だってきちんと言葉にして喜べるようになった気がする。
悔しい気持ちってその人のいいところを見ているからなんだもん。私は人のいいところを見つけることができる人間だったのだ。すごいじゃないか。

また、勇気を出して実母にも「人と比べられるとどうしても苦しい気持ちになってしまう」ということを打ち明けた。
母は「ごめんね」と一言だけ私に告げ、最近私と誰かを比べるようなことは言わなくなった。
伝えなければいけないことはきちんと口に出せばいいんだね。
こんなに簡単なことだったんだ。小さな頃からずっと胸の中にあったもやもやが少し晴れた気がした。

私は私。
私は世界中探したって一人しかいない。私の人生の物語の主人公。
自分で自分を一番だと思わなくて、褒めてあげなくてどうするんだ。
私以上に私の良さを知っていて、愛せる人なんていないのに。

きっと私はお母さんに「あなたが一番よ」と言って欲しかっただけなのかもしれないな~。
でもそれって頼んで褒めてもらうもんじゃない。
欲しかった人からもらえなかった言葉は何倍にもして自分で自分に与えてあげよう。
今日は昨日よりちょっとだけでも自分のことを好きになりたい。
そうしたらいつか、自分の事を丸ごと好きになれる日がくるかもしれないから。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【Twitter】@cchhiiaakkii
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