Column Series

「夜読む日記」

原田ちあきによる、「夜読む日記」。

「夜読む日記」

「子供に気持ちを押し付けようとしてしまった」

息子がもうすぐ4歳になる。
元々ずっとイヤイヤしているが、最近は輪をかけてさらにあらゆる事象を嫌がるようになった。

先日、息子が幼稚園休みで私がワンオペの日に、どうしても自分の病院へ行かなければならない用事があった。
「2日後にママ病院行くから、一緒についてきてね」と、事前に何度も伝えていた。
しかし当日になってみると、「絶対に行きたくない」とのこと。
病院の受付時間は刻一刻と迫っている。それなのに息子は一向に動かない。
「終わったら何か買おうか」「一緒に行くだけでいいから」
などいろいろ言ってみたけれど、息子は頑として動かない。
結局、その日は病院に行けずであった。

「じゃあおやつと食材だけ買いにスーパー行こうか」
これも嫌。
「じゃあどこか遊びに行く?」
すると、「公園に行きたい」とのこと。
そうかそうか。
毎日休まず幼稚園に通っているし、もしかしたら疲れているのかもしれない。
じゃあ今日は息子のしたいことをしよう。
そう思って近所の公園へ行き、たっぷり遊んだ。

ところが帰宅してからも、「お風呂いや」「ご飯いや」「全部いや」である。
さすがに私もどうにもならなくなり、リビングに寝転がって「おーい、かんべんしてくれーい!」と、床に向かって小さく叫んでみた。

そしてお風呂の時間。
砂まみれだし汗もかいているので、さすがに今日はお風呂には入ってほしい。
しかし、「シャンプーだけは絶対したくない」と言う。
「いや、ひとつくらいは言うこと聞いてくれよーう!」
と説得して、なんとかシャンプーをすることになった。
すると息子は泣きながら、「本当にシャンプーしたくなかった」「何もかも嫌になった」と言った。
そして最近の決め台詞、「ママもういや!どっか行って!」が飛び出した。
3才のどっかいってのなんと迫力のないことか。

しかしなんだか何もうまくいかず、私は風呂場の洗い場で、「え〜ん……」と、真顔でつぶやくしかなかった。
別に、お風呂に入らなくたって死にはしない。
でも、公園で汗もかいたし、砂まみれにもなった。
親としては「こういうときはお風呂に入る」という習慣をつけてほしかったのだ。
これからの交友関係とか、将来恋愛したくなった時に清潔なほうが絶対にいいじゃないか!

それに、病院についてきてもらうことも、スーパーに行くことも、私は「人と一緒に行動することを覚えるために、いい経験になるだろう」と思っていた。
全部、息子のためを思ってのことだった。
…のだが、どうやら息子からすると、ただただ「やりたくないことをいっぱい言われた日」だったらしい。

想いって、なかなか伝わらない。良かれと思ってやったのにな~!え~ん!
その日は完全に私の心も折れてしまい、なんとなく適当な感じでご飯を食べ、なんとなく適当にYouTubeを見て、息子は眠りについた。

そして翌朝。
起きてきた息子が、突然こんなことを言った。
「昨日は自分でシャンプーができる気がしたんだ」
私は一瞬、意味がわからなかった。
「そうなの?」
「うん」
「じゃあ今日、自分でやってみる?」
「うん!」

じゃあ…と朝食を軽く済ませた後に風呂場に入り、息子にシャンプーを任せてみた。
まだ少し洗い残しはあったけれど、「ここに泡ついてないよ」と声をかけると、自分でその場所も洗っていた。
いつも苦手そうにしていたシャンプー後のシャワーもちゃんと浴びた。体も自分で上手に洗った。
しまいには風呂釜や風呂桶まで洗っていた。
昨日あれだけ「シャンプーしたくない」と泣いていた人とは思えない。
そしてお風呂上がり。
私は息子にピノを3粒お皿に入れて渡した。
すると息子は、「ママ、一つどうぞ」と言って、私に一粒くれた。
なんだか私は、そこで急に思った。

ああ。この子は私の知らないところで、マジでムクムクと勝手に育っているのだ。
私は息子を産んだばかりの頃、「この子にはこうなってほしい」「こういう人になってほしい」「だって子供って自由に勝手に育つからっ☆」と、親の理想を押し付けるのだけは絶対にやめようと思っていた。
でも、いつの間にか私は、「こうしたほうがいい」「こういうことを覚えてほしい」「こういう人に育ってほしい」と、息子の未来をせっせと整えようとしていた。
良かれと思って、肥料をあげすぎていたのかもしれない。

子供は、土から生える木みたいなものなのだ。
私は「こっちに伸びたほうがいいよ」と枝を引っ張ったり、「もっと大きくなって」と肥料を足したりしているけれど、本当はそんなことをしなくても、木は勝手に太陽のほうへ伸びていく。
無理に枝を曲げれば折れてしまうかもしれない。
肥料だって、あげればあげるほどいいわけじゃない。
その子が育つ力というのは、その子の中にちゃんとあるのだ。

もちろん、危ないことをしたら止めなければいけないし、人を傷つけることはいけないと教えなければいけない。
親が教えたり、手を貸したりする場面もたくさんある。
でも、何もかもを先回りして教えたり、何もかもをサポートしたりしなくてもいいのかもしれない。

「こう育ってほしい」という私の願いよりも、「この子はきっと大丈夫だ」と信じること。
それが、息子を育てるうえでの私の仕事なのかもしれない。と、改めて強く思ったのであった。
昨日はシャンプーひとつであんなに揉めたのに、今日は自分で頭を洗って、体を洗って、お風呂まで掃除して、最後には私にピノを一粒くれた。
子どもって、親が見ていないところで勝手に大きくなる。
だから私は今日も、あんまり先回りしすぎずに、「おお、伸びてる伸びてる」くらいの気持ちで、息子の成長を眺めていたい。

Chiaki Harada

原田ちあき

Writer Profile

原田ちあき

イラストレーター/漫画家/京都芸術大学非常勤講師

誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。
国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

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