「映画でくつろぐ夜。」 第126夜
知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。
「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」
自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。
■■本日の作品■■
『八つ墓村』(1977年)
『八つ墓村』(1996年)
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。
21世紀の「祟りじゃっ~!!」 新しい『八つ墓村』
まだ随分先で申し訳ないが、9月18日から清水崇監督による『八つ墓村』が公開される。昨今のホラー映画といえば清水崇。『八つ墓村』はミステリーだが、伝承のなかにオカルトの要素もあるので清水崇に白羽の矢が立ったのもおかしくはない。今度の金田一耕助役は尾上松也。これまでにも映画版、テレビドラマ版などで、何種類も『八つ墓村』は作られてきた。今回のバージョンは現代が舞台で、登場人物たちはスマホも持っている設定になっている。
『八つ墓村』でもっとも有名なバージョンは1977年の野村芳太郎監督版だろう。探偵の金田一耕助は渥美清。脚本が大御所の橋本忍というのが個性を高めていた。音楽も芥川也寸志の壮大な音楽が流れて、映画の格調を高め醍醐味がとても感じられた。映画の金田一耕助といえば、石坂浩二を連想する方も多いかもしれないが、石坂浩二は東宝版で、この渥美清の『八つ墓村』は松竹で製作されている。原作者の横溝正史はむしろ「金田一耕助のイメージは渥美清の方が近い」と述べていた。
石坂浩二が金田一を演じたのは、市川崑監督と組んだ『犬神家の一族』や『悪魔の手毬唄』、『獄門島』、『女王蜂』、『病院坂の首縊りの家』、セルフリメイクの『犬神家の一族』となる。つまり石坂浩二は『八つ墓村』を演じていない。1996年の市川崑監督による『八つ墓村』で金田一耕助を演じているのは、豊川悦司だ。でも重要なロケ地となる田治見家は、本作や野村芳太郎版、清水崇版でも、実在の「広兼邸」という門までの急斜が印象的な建物が使われている。この屋敷こそが様々な作品を貫く八つ墓村の象徴かもしれない。
金田一耕助を演じた俳優は多い。古谷一行を浮かべる方も多いだろうし、『八つ墓村』だとテレビドラマで稲垣吾郎も演じている。ただジャニーズ関連の映像作品がソフト化されない慣習があって、この稲垣吾郎版も今は観ることが難しい。小日向文世が演じる横溝正史と、稲垣吾郎の金田一が友人というメタな構成がとても面白いのだが。
『八つ墓村』の代名詞といえるのは、田治見要蔵というスプリーキラーが「村人32人を一夜にして殺害する」というシーンだ。頭の両脇に懐中電灯をつけた姿は皆さんも見覚えがあるだろう。マニアによって各作品の、田治見要蔵が村人を殺し回るシーンは比較されていて、やはり人気が高いのは野村芳太郎版の山崎努が演じたバージョンである。あまりに贔屓筋が多くて数年前にはフィギュアが作られたほどだ。横溝は元々、実在した殺人者である、都井睦雄という青年が岡山県の津山で起こした、猟銃と日本刀で近隣住民28名を即死させ、重軽傷を負わせた(のちに2名死亡)、津山三十人殺しをモデルにしている。小説は他にも尼子一族の祟りの伝承なども絡ませ、ミステリーというよりオカルトのような不思議な味わいの映画になった。
何度も映像化されている小説だが、原作では重要なキャラクターである典子という少女が、いつも映像では存在を消されてしまうのが不思議だ。市川崑の『八つ墓村』で、初めて喜多嶋舞が典子のふんわりしたニュアンスも湛えて演じていたが、それでも重要度は低かった。今回の清水崇監督版にも一応、典子は登場するのだがやはり原作とは全然違った。典子は可愛いキャラなので、登場するといじらしくて良いと思うのだが……。他のキャラクターだと、小竹と小梅という老婆の双子が登場するのが、市川崑版では特撮で岸田今日子が一人で二役を演じていたのが最高だった。今回の清水崇版は高島礼子が一人二役を演じているのだが、まだちょっと若い印象を受けてしまう。岸田今日子はいかにも怪演といった風情で、ただいるだけでも笑ってしまう迫力があった。
<オススメの作品>
『八つ墓村』(1977年)
『八つ墓村』
監督:野村芳太郎
出演者:渥美清/萩原健一/小川眞由美/花沢徳衛/山崎努/山本陽子/市原悦子
野村芳太郎監督版。寺田辰弥(萩原健一)はある日の新聞尋ね人欄の記述により、法律事務所を訪ねることになった。そこで彼は尋ね人本人と認められるが、初めて会った母方の祖父であるという井川丑松という人物が、その場で突然、苦しみだして死んでしまう。辰弥は父方の親戚筋の森美也子の案内で、生れ故郷の八つ墓村に向かうことになった。いきなり地方の旧家の跡取りだと言われ、そのとたんに殺人事件がたて続く異常事態。それなのに渥美清演じる探偵の金田一は殺人事件を調べず、村の血縁関係ばかり調査する。ミステリーでオカルトという、相反するものが両立する不思議な映画である。
『八つ墓村』(1996年)
『八つ墓村』
監督:市川崑
出演者:豊川悦司/浅野ゆう子/高橋和也/喜多嶋舞/岸田今日子/宅麻伸/岸部一徳
こちらは市川崑監督版で、金田一はトヨエツ。もう少し似合うかなと思ったが、高身長のせいかちょっとイメージと違う。映画で金田一耕助を目立って撮ってきたのは市川崑監督だが、石坂浩二を金田一に据えて『八つ墓村』を撮る機会はなかった。三十二人殺しを行う岸部一徳は、野村芳太郎版の山崎努の影に隠れてしまっているが、一人三役で尼子一族の落ち武者殺しのシーンの、鎌で自分の頭を落とすシーンもあり、こちらも凄い気合で臨んでいる。
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