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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第57夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

■■本日の作品■■
『バッファロー’66』(98年)
『ゴーストワールド』(01年)

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

ミレニアムの映画が来始めているらしい

90~00年代は筆者もまだ若くて、観た映画の印象は一作一作かなり鮮明に残っている。旧作映画にも足を運ぶ方だったが、話題の新作映画もそれなりに観ていた。当時、流行の代名詞くらい勢いがあったのはヴィンセント・ギャロだ。『バッファロー’66』(98年)がミニシアターでヒットし、日本の雑誌でも中谷美紀さんと、これ以上ないくらいシャレオツなメイクで表紙を飾っていた。

しかし、最近は全然名前を聞かないなあと不意に思い出したりして、リバイバルは来ないんだろうかと気にはしていた。すると、先日観ていたランジャタイのYouTube配信で、国崎さんが「『バッファロー’66』って知っとる?」と話し始めたので、オオッと思った。クリスティーナ・リッチのいじらしい可愛らしさについて語っていたので、ランジャタイのファンの子たちはきっと観るはず。こうしてきっとミレニアム映画ブームが来るんだろうと感じ、良い映画はちゃんと発信していかないと、埋もれてしまうから言及しようと改めて思った。

7月28日にBlu-Rayが出た『ゴーストワールド』(01年)も、“ダメに生きる”は不滅のキャッチコピーではないだろうか。今聞いてもまったく新鮮さを失っていないし、ジャケットの二人組の女の子のふてぶてしさは今なお新しい。映画は曖昧なラストを観て、友人と議論を交わすのも良いだろう。本作の原作はアメコミで、そちらを読むとオチはかなり判然としているが、それをぼやかした映画の勝利であると思う。

メインの主演はソーラ・バーチ、その親友をスカーレット・ヨハンソンが演じていて、彼女の息の長さにも改めて驚く。同時に、ハリウッドにおける女優の扱いが若さに重きを置かれていることを残念に思うが……。正直、この映画は人を深く傷つける作品である。10代の女の子が正直に生きると、利用されやすい周囲の人間は痛ましい目に遭うという物語で、残酷な現実味が怖いほど悲しい。監督のテリー・ツワイゴフは94年に発表したドキュメンタリー『クラム』も、アート界隈で生きる人々の、才能よりも立ち回りの上手さや運の良さが売れるコツであるのを描いていて、やはり心臓を突かれる思いがする。

まだ先だが、10月13日に公開される『シック・オブ・マイセルフ』(22年)も「何者かになりたい。なんの才能もないけれども」という承認欲求の塊である女性の、悲壮なあがきを描いた映画である。主人公の恋人は、盗品をギャラリーに飾るという、言った者勝ちなずいぶんと怪しい肩書のアーティストである。バンクシーの落書きも美術館に掲げられるが、別に面白い絵でもないし、本来なら器物破損で犯罪のはずだ。ほかのストリートアーティストとの、その差異は一体なんなのだろう。

同じ13日公開の日本映画『月』(23年)にも、作家になれた女性(宮沢りえ)と、作家を志しながらも芽の出ない女性(二階堂ふみ)が登場する。東日本大震災を題材にした小説で売れた宮沢に対し、二階堂は「本当に取材に行きました?」と小説のリアリティが薄いことで嫌味を言い、マウントを取りにいく。ミレニアムの映画の痛さと、現在の焦燥感はリンクしているのかもしれない。

<オススメの作品>
『バッファロー’66』(98年)

『バッファロー’66』

監督:ヴィンセント・ギャロ
出演者:ヴィンセント・ギャロ/クリスティナ・リッチ/ベン・ギャザラ/ミッキー・ローク/ロザンナ・アークエット/ジャン=マイケル・ヴィンセント

多才なギャロが監督、脚本、主演、音楽と、一人で色々と手掛けた映画である。ビリー(ヴィンセント・ギャロ)は5年の刑期を終えて出所してきた。両親への電話では長い不義理に嘘の理由を言い、妻を連れて帰ると嘘までついてしまう。言い出した手前、彼は行きずりの娘レイラ(クリスティーナ・リッチ)を拉致し、両親の前で妻のふりをするよう脅迫する。ビリーはその後、自分が刑務所に入るようハメた奴らに、復讐する計画だった。次第にビリーに打ち解け始めたレイラは、彼の計画に不安を感じるが……。まだふくよかだった頃のリッチが可愛らしい。

『ゴーストワールド』(01年)

『ゴーストワールド』

監督:テリー・ツワイゴフ
脚本:ダニエル・クロウズテリー・ツワイゴフ
出演者:ソーラ・バーチ/スカーレット・ヨハンソン/スティーヴ・ブシェミ/ブラッド・レンフロ/イリアナ・ダグラス/ボブ・バラバン/テリー・ガー

ミレニアムの頃、「サバービア」というある種の環境を指す言葉も流行していた。ロサンゼルス郊外に住むイーニド(ソーラ・バーチ)とレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)。二人は退屈しており、イーニドはいたずらで、出会い系に応募した中年男性のシーモア(スティーヴ・ブシェミ)と知り合いになる。コレクターで色々と詳しいシーモアと、イーニドは仲良くなっていくが、それが思いがけず彼を窮地に立たせることになる。レベッカはカフェで働き、普通の女の子になってしまったように見える。イーニドもまた、「何者かになりたい。なんの才能もないけれども」の典型的な例だ。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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