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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第77夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(2023年)
『殺人犯』(2009年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

監督が双子の珍しいケース

わたしは観た映画をメモする習慣がない。そのまま忘れてしまうことも非常に多く、何年も経ってから(あの映画、なんてタイトルだっけ?……)と悩むことが度々ある。そういうなかの一本で、タイトルも製作国もわからず、ずっと気がかりだった映画が、さきほどひょんなことから謎が解けた。タイ映画と思い込んでいたが香港映画で、監督がオキサイド・パン&ダニー・パンの気がしていたのは、主演がよく組んでいるアーロン・クォックのためだった。タイトルが『殺人犯』なのも、こんなありきたりな題名は埋もれるに決まっている。

ただし、某映画のまるパクリという衝撃で覚えていたので、そちらのタイトルを言ってしまうと、これから観る人のネタバレになってしまう。それと、ものすごく不可解な状況があって、オリジナルと思われる映画と香港のコレが、ほぼ同時期に作られていて、国によっては香港版の方が先に公開されているのだ。だからどちらがパクリなのか実際のところ自信がない。でもそこまで追う気もないので、興味のある方は調査してみてほしい。

なぜそんなことを調べていたかというと、もとはといえば双子の映画監督の存在が気になったからだった。6月28日公開の『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』は、タイの映画でこれが素晴らしい。タイの緑と水の豊かな自然を背景にしつつ、少女たちの心の揺れを見事に描いた作品だ。透明感と思春期の少女の美しさが問答無用に写し取られている。

監督は女性の一卵性双生児である、ワンウェーウ & ウェーウワン・ホンウィワットがメガホンを取っている。だが映画内のユーとミーの双子の姉妹は、ティティヤー・ジラポーンシンという新人女優が一人で二役を演じている。監督が知人のインスタを観ていて彼女の姿に目を奪われ、主役に抜擢したというシンデレラストーリーだ。そしてユーとミーを演じ分ける演技の上手さと、二人が同じ画面にいるときの合成がまったく違和感のない編集の自然さで、CGのレベルの高さに唸ってしまう。本当に心が洗われる作品なので、ぜひご覧になってほしい。

それと、配信が始まった作品では、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』のダニー・フィリッポウ&マイケル・フィリッポウ監督も双子である。A24が配給したホラーでは、史上最高の興行収入を記録している。才気走った作品で、スピード感や独創性もあり、ラストまで駆け抜ける物語は飽きる暇がない。本作を見落とすのはもったいないので、ぜひ未見の方にはオススメだ。

それと、オキサイド・パン&ダニー・パンも双子の監督である。タイと香港を往来しつつ、ホラーやアクションを撮っている。もはや、もうひと世代昔の監督になってしまった感もあるが、アーロン・クォック主演の『極限探偵C+』から始まる『極限探偵A+』までのシリーズなど、日本の深夜の探偵ドラマとも通ずるダメな男の話で、すごく良いわけでもないが、なんとなく愛着の持てる作品だった。もはやこのくらいの香港映画が軒並み観られなくなっているのはさすがにつらい。もしかしたら、中国との兼ね合いもあるのかもしれないが、また2000年代のかっこいい香港映画が解禁されるようにと願っている。

 

<オススメの作品>
『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(2023年)

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』

監督:ダニー・フィリッポウ/マイケル・フィリッポウ
出演者:ソフィー・ワイルド/ジョー・バード/アレクサンドラ・ジェンセン/オーティス・ダンジ

監督のフィリッポウ兄弟は元々人気YouTuberである。映画ファンだとYouTuberに距離を置いていそう、という個人的偏見があるのだが、どうなのだろう。話しかける映像と映画的文法はかなり異なる気がしつつも、本作は映画としてとてもしっかりしている。主人公の高校生のミアは母を亡くし、寂しさから友達に溶け込みたいという気持ちもあって、“憑依チャレンジ”というオカルトな遊びに参加するが……。ラストまで気が効いている。

『殺人犯』(2009年)

『殺人犯』

監督:ロイ・チョウ
出演者:アーロン・クォック/チャン・チュンニン/チョン・シウファイ

監督はロイ・チョウ。主演がアーロン・クォックなだけで、パン兄弟は全然関係なかった。ただ本作は変わり種で、このまま忘れられたり、紹介される機会がなかったりするのも残念なので、もし良かったら観てほしい。何も知らずに、ネタ元を観た直後にこれと出くわした驚きはなかなかなものだ。繰り返すが、これがパクリかオリジナルか、わからないタイムラグも気持ち悪い。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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