樹の恵本舗 株式会社 中村 樹の恵本舗 株式会社 中村
ONLINE SHOP
MENU CLOSE
真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第52夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『ナニー』(22年)
『ラン・スイートハート・ラン』(19年)

 

 

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Amazon Studios(@amazonstudios)がシェアした投稿

【Amazon Prime】

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Amazon Studios(@amazonstudios)がシェアした投稿

【Amazon Prime】

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

女性を積極的に起用するブラムハウスのホラー映画

ブラムハウス・プロダクションズという映画製作会社の、名前くらいは聞いたことがあると思う。あの『パラノーマル・アクティビティ』シリーズを世に放った会社だ。一時期あの手の、手持ちカメラや監視映像に写った怪奇現象という映画のパターンはとても流行った。それから『パージ』シリーズもある。「一日だけ法が適用されなくなる」という単純なルールだが、ちゃんと緊張感に溢れたスリラーに仕上がっていて、人気シリーズとなっている。

こういったB級系の映画だけじゃなくて、アカデミー賞に関わってくるような『セッション』、『ブラック・クランズマン』、『ゲット・アウト』も制作している。『ゲット・アウト』はいつものホラー路線で作られた映画と、人種差別に意識的であろうとしたアカデミー賞側の変革が、たまたま一致した感もあるが、確実に進歩ではある。

#Me Too問題の中で、女性が映画界で進出する難しさが話題になった。ジェイソン・ブラムは今、この問題へ非常に積極的に取り組んでいるプロデューサーだ。初夏の話題作『M3GAN/ミーガン』も、脚本家はアケラ・クーパーという女性だ。彼女は昨年、思いがけず話題になったホラー、『マリグナント 狂暴な悪夢』の脚本も担当している。どちらも女性だけのシーンで、女たちの明け透けな姿を描いていて痛快だった。アケラはブラムハウスの脚本家として、今は屋台骨になりつつあり、今後も『ミーガン』の続編を含めメイン作が2本控えている。

ブラムハウスは現在、amazon videoと組んで作品を量産しており、そこには女性の作り手も多い。この試みが面白いのは、基本的に会社の路線であるホラー色は維持していることである。ゴアか、幽玄な作品かは作家の個性によるが、大枠はホラー映画を撮りたい女性を起用しており、それが一年で数人単位はデビューの機会を与えられているということだ。それに数が増すにつれて、女性らしいホラーの特色が存在することもわかってくる。女性しか味わったことのない恐怖や屈辱、日常の中でも気にしていなければいけないこと――生理用品を切らしたり、予定外に生理が来て下着を汚してしまったり――こういった困惑で集中力を失ってしまう描写は、経験としてわかる女性も多いだろう。

人種問題でも、ブラムはアフリカに直接のルーツを持つ女性を、監督として起用している。両親がアフリカ出身のニキャトゥ・ユースは、セネガルからの移民女性が体験する幽霊譚『ナニー』を監督した。また、昨年海外で非常に話題になった、女性監督兼脚本のベス・デ・アラウージョによるスリラー、『ソフト&クワイエット』もある。白人女性たちが白人至上主義グループを作るという、センセーショナルな設定だ。差別主義者たちなのに、パイを焼いて集まる日常的な主婦感覚が、さらに異様さに拍車をかける。車移動などのシーンもありつつ、なんと全編ワンカットで撮影されていることにも驚かされる。日本でも東京は5月15日より、全国公開されるので、ぜひご覧いただきたい。

 

 

<オススメの作品>
『ナニー』(22年)

『ナニー』

監督:Nikyatu Jusu
出演者:アンナ・ディオプ/ミシェル・モナハン/シンカ・ウォールズ/モーガン・スペクター

セネガルからの移民のアイシャは、子守の仕事をして、故郷に置いてきた息子を早く呼び寄せたいと思っている。しかし白人夫婦の雇い主は徐々にルーズになっていき、残業代の未払いや、急な泊りの仕事が増えていく。詳細は語られないが、この雇用主の女性もキャリアウーマンとして精神的に追い詰められており、セリフの端々に「男と同じ仕事をしても出世できない」といった、性差別に苦しんでいることがわかる。そのうち、アイシャは水辺で幽霊を見るようになっていく。哀しく、メッセージ性も込められた良作だ。

『ラン・スイートハート・ラン』(19年)

『ラン・スイートハート・ラン』

ラン・スイートハート・ラン
監督:シャナ・フェステ
出演者:エラ・バリンス/カピルー・アスベック/ダイオ・オケニイ/ベッツィ・ブラント

監督のシャナ・フェステはすでに中堅といっていい存在で、これまでは家族愛や友情など、褒められる映画を撮ってきた人だ。しかし本作はハチャメチャで笑えてしまうような、破天荒な力を放つ怪作である。ヒロインは仕事の都合で気乗りしない食事会に出るが、行ってみると一対一のイケメンとの飲み会。次第にデートの雰囲気になるが、相手の男が思いがけず悪魔のような本性を見せ始める……。明後日の方角へと物語は展開するが、明確にフェミニズム映画なのも頼もしい。

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Amazon Studios(@amazonstudios)がシェアした投稿

【Amazon Prime】

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Amazon Studios(@amazonstudios)がシェアした投稿

【Amazon Prime】

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

Product

ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
Back