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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第51夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『ふたり』(91年)
『浮雲』(55年)

 

 

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

『それでも私は生きていく』 不倫は、許せますか?

フランスの女性監督、ミア・ハンセン=ラヴの新作『それでも私は生きていく』は、いまや世界のトップ女優の一人といえるレア・セドゥ主演。その内容は、アラフォーの女性が直面する、生活に根差した問題ばかりだ。シングルマザーのサンドラ(レア・セドゥ)は、通訳の仕事の傍ら、子育てと高齢の父親の介護もしている。父には恋人がいるが、彼女も病身。そのため元妻であるサンドラの母と娘たちが、何かと世話をすることになる。
そんな中で、サンドラは亡夫の友人クレマンと再会し、惹かれあうものを感じる。悩みつつも本能に従って交際を始める二人。しかし、彼には妻子がいる。「やはり家庭を捨てられない」と、サンドラの元を去るクレマン。しかし、彼も思い切って吹っ切ることができない。

いい加減なのではない。家庭を持ってから、本気で愛しいと思える人に出会ってしまっただけだ。だからクレマンも断腸の思いでサンドラとの関係を断とうとするが、それは妻の前でもサンドラが忘れられないという、つらい家庭内の状況を招く。ここに正解はないと思う。夫婦がともに、波風の立たない人生が幸せだと思うならば、そっと心の奥に思い出としてしまって、いずれ元の生活に戻ればいい。しかしあまりに愛が激しくて、たった一度の人生を、愛する人と過ごせないなんて無意味だと思い詰めるならば、家庭を捨てて新しい愛を選ぶしかない。夫が家に帰ってきても、心は他の女性のことでいっぱいで、自分に対してはもぬけの殻だったら、どんな気がするだろう。それを別れさせても、他の女性を想いながら自分の横に眠っているのは苦しい。慰謝料を持ち出して束縛しても、やはり心を他の女の元に残したままの抜け殻を囲いこむだけである。本当に心は思い通りに動かないものだ。

 

『それでも私は生きていく』

監督:ミア・ハンセン=ラヴ
脚本:ミア・ハンセン=ラヴ
出演者:レア・セドゥ/パスカル・グレゴリー/メルヴィル・プポー

大林宜彦の『ふたり』(91年)は、姉が事故で亡くなった姉妹のファンタジックなストーリーがメインである。しかし、途中で父(岸部一徳)の不倫の話が登場する。相手の女性(増田恵子)は思い詰めていて、改まって彼の家を訪ね、妻に頭を下げて「旦那さんをください」と頼む。しかし元々情緒不安定な妻(富司純子)は、申し訳なさそうな口調で「わたしにも必要な人なんです」と言う。三人にとって、それはどうしようもない真実なのだろう。それでも関係を絶てない増田の泣き顔が非常につらい。全身全霊で一人の人を愛する、ということを、この映画で初めてえぐるように思い知らされた気がする。

だが、だらしなさの混じった男女の関係は、最近では非常に厳しく扱われるようになってきたが、日本では映画だと名作として扱われたりする。確かにそういう関係性は、生活に稀についてくることだ。

成瀬巳喜男の『浮雲』(55年)は、正直初見の際は、爛れた男女の関係に驚いてしまった。ある程度大人になってからは、自分だったらどうするだろうと考えながら観るように変わってきたが。これがその年のキネ旬の一位なのもすごい。
非常に有名なシーンで、元々不倫旅行で来ている森雅之と高峰秀子が、旅先が混浴なこともあって、中年男に連れられてきていた若い岡田茉莉子と、森が良い仲になってしまう。自分の男だから腹立たしいし、所詮遊びの関係なのもわかっているのに、自分がいるところで深い関係になるのを止められない、高峰の苛立ちに共鳴してしまう。惹かれあっていく気持ちを無理に引きはがすことはできないのだ。自分は十代でこんな映画ばかり観ていたから、(大人の恋は苦しいものなんだなあ)と憂鬱な気分になっていた。

 

<オススメの作品>
『ふたり』(91年)

『ふたり』

監督:大林宣彦
脚本:桂千穂
原作:赤川次郎
出演者:石田ひかり/中嶋朋子/富司純子(藤純子)/岸部一徳/尾美としのり/増田恵子/柴山智加/中江有里

大林宜彦は正直、あまり得意な監督ではない。まだ少女というべき女優ばかり使い、チラリズムで肌の露出を見せる、フェティッシュな趣味にやはり引いてしまう。『ふたり』もそういう意味では大半のシーンが苦手だったのだが、大人の三角関係のシーンだけが、妙にリアルで愛のどうしようもなさがあり、非常に印象に残った。一本の映画の中にもこういう偏愛のような部分はあるものだ。

『浮雲』(55年)

『浮雲』

監督:成瀬巳喜男
脚本:水木洋子
原作:林芙美子
出演者:高峰秀子/森雅之/中北千枝子/岡田茉莉子/山形勲/加東大介/木匠マユリ

長い年月を付き合ったり離れたりしながら、結局絡まりあうように文字通りともに流れていく男女の話。女が追いかけるばかりではなく、彼女が新興宗教の教祖の妾のようになって、良い暮らしをしている時期もあり、その間、男は仕事がうまくいかず苦しむ。そんな、互いに駆け引きのような関係性が延々と続く。「別れたいけれど離れられない男」で苦しむ時期は、経験している女性も多いかもしれない。でも、正直結局、別れた方がいいですよ。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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