「映画でくつろぐ夜。」 第45夜
知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。
「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」
自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。
■■本日の作品■■
『御法度』(1999年)
『オカルト』(2009年)
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。
映画監督が俳優をしている映画
3月3日公開のスティーヴン・スピルバーグ監督の新作映画『フェイブルマンズ』。スピルバーグの自伝的作品で、初めて映画館で映画鑑賞をして魅入られて以来、自分で8ミリカメラを持って、家族や友人たちをフィルムに収めていくことになる内容だ。まだ撮影所に雇われるまでの少年期が中心の物語となっている。この映画のラストで、とある人の役をとある人が演じているのだが……ネタバレになるから書けない! 3月までぜひ楽しみにお待ちいただきたい。
思わせぶりな書き出しになってしまったが、昔から映画監督が映画に登場するシーンが気になるタチだ。俳優が監督にもチャレンジというケースではなく、純粋に監督が俳優として起用されていたり、本人役で劇映画に出てセリフを言っていたりするとハッとしてしまう。映画監督が自作の主演を兼ねるケースも多いが、今回それは除く。
以前この連載で取り上げた『サンセット大通り』(50年)のエリッヒ・フォン・シュトロハイムは俳優兼監督の経歴の人だが、セシル・B・デミルが本人役で出ているシーンは「オッ!」と思う。なんだかお得な良いものを見た気分になる。
スピルバーグなら『未知との遭遇』(77年)にフランス人のUFO学者役で、フランソワ・トリュフォーが出ているのが有名だろう。いまだに見返していても、毎回なんとなく驚いてしまうが、スピルバーグが口説き抜いたというこの奇抜な抜擢は本当に面白いと思う。ただ、英語があまり得意でないトリュフォーは、現場ではコミュニケーション不足で多少ストレスを感じたようだ。
ジャン=リュック・ゴダールもシネフィル(映画狂い)なだけに、ルックスも映画的な監督に好んで出演依頼した。サミュエル・フラーやフリッツ・ラングなど、名前が並んでいるだけでかっこいいし、当然本人役だけで十分映画の装飾足りうる。ちなみに下世話な話だが、ゴダールは映画祭で会ったモフセン・マフバルマフ監督の娘、サミラ・マフマルバフがお好みだったようだ。彼女も17歳にして『りんご』という映画を監督したが、とある映画祭でゴダールがサミラにスカーフをプレゼントし、モフセンが「ゴダールがうちに娘にプレゼントをくれた」と大喜びしていたらしい。
絵になる映画監督といえば、ヴィム・ヴェンダースはニコラス・レイを『アメリカの友人』で俳優として起用し、また『ニックス・ムービー/水上の稲妻』で半ドキュメントとしても死の際まで捉え続けた。
他に絵になる監督といえば、デヴィッド・クローネンバーグが個人的には最高峰だ。特に銀髪になってからのシベリアンハスキー犬味が増してからは、俳優仕事もたくさんこなしている。調べてみたらわたしは1990年に、クライヴ・バーカー監督の『ミディアン』を、最初にクローネンバーグ目当てで劇場に観に行っていた。最近はサラ・ガドンとセットなことが多くて、カナダつながりでよほどお気に入りなのか、監督作にも出しているし、彼女が主演のドラマ『またの名をグレイス』にもレギュラーで出演していた。原作がマーガレット・アトウッドによるこのドラマもとても素晴らしかったので、ぜひまだの方はご覧いただきたい。
<オススメの作品>
『御法度』(1999年)
『御法度』
監督:大島渚
原作:司馬遼太郎
出演者:松田龍平/北野武(ビートたけし)/武田真治/浅野忠信/崔洋一/的場浩司
コラムは海外の作品ばかりになってしまったので、オススメは日本映画にしたい。ご存じ、大島渚が新撰組を描いた作品で、妖しい美少年剣士の松田龍平を巡って、新撰組の男たちが翻弄される物語である。新撰組の物語を、幕末の激変する歴史といったことを度外視して、妖魔のような色香に囚われるという視点で描いたのは、とても新鮮で興奮した。大島渚の映画監督としてのずば抜けた才能は、ちゃんと再評価されるべきだ。本作に出ている映画監督は、先ごろ亡くなった崔洋一。近藤勇役で、演じている最中に黒目が痙攣するように動くので、やはり本職の俳優とは違うなあと印象に残った。
『オカルト』(2009年)
『オカルト』
監督:白石晃士
出演者:宇野祥平/吉行由実/近藤公園/東美伽/鈴木卓爾/渡辺ペコ/黒沢清
日本だけでなく、世界規模でみてもフェイクドキュメンタリーホラーの監督として、第一線にいるのが白石晃士監督である。白石の中で熟成されている世界観や、映画的手法としてのフェイクとリアルの使い方が、ダイナミックで絶妙にうまい。出演者も白石自身が時々重要な役どころを演じるが、それは今回含まない。その代わり、『オカルト』には黒沢清監督が、黒沢監督自身の役で出演している。ある通り魔事件を追っていた白石は、事件の生存者の体に古代文字が刻まれているのに気づく。白石は個人的に古代文字を研究しているという黒沢清のもとを訪ねて何の言語か尋ねる。もちろんこれもフェイクな設定で、黒沢監督は実際には古代文字の研究はしていない。黒沢監督はハンサムなので、昔から『太陽を盗んだ男』の革マル派容疑者で写真が使われていたり、長崎俊一監督作品ではキザな役をやったり、よくカメオ出演で見かける。
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