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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第41夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年)
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

トム・クルーズがじつは面白い

先日、映画字幕翻訳家で通訳もされる戸田奈津子さんに、インタビューさせていただく機会があった。御年86歳。しかしわたしなどよりよほど頭の回転が速く、質問にもてきぱきとお答えくださった。とても早口で文字起こしのアプリもバグっていて、結局アプリは使い物にならず、聞きながらタイピングという昔ながらの原稿作りになった。

戸田さんが独り立ちされた時代は、映画の字幕は男の仕事だった。女が新たに参入する隙間がなく、20代で字幕翻訳を志しながらもずっと機会を待ち続け、実際にその仕事に就けたのは40代に入ってからだったそうだ。わたしの義姉も字幕翻訳家だが、こういった苦労した先人が道を開いてくれたから、いまは女性の字幕翻訳家たちが多く活躍できている。改めて戸田さんのような方々に敬意を払わなければと思う。

戸田さんはクールで現実主義的な方だった。「日本で戸田さんといえばトム・クルーズ」というイメージが定着していると思うが、それに対しても「来日スターの通訳の仕事はいっぱいしているから、トムもワン・オブ・ゼムよ」とのお答えだった。カッコイイ! この世でトム・クルーズをそう表現できる人はそうそういないだろう。戸田さんのこういう冷静な見方をしている知的な面を、もっと広く知らしめたいなと思う。

トム・クルーズが近年、映画制作に情熱を燃やしていることが話の中心になった。最近の作品では、トム・クルーズはほとんど主演作のプロデュースも兼ねている。トムの特にお気に入りの監督は、断然クリストファー・マッカリーだが、他にも意外な監督に目を向けている。泣けるアニメ『アイアン・ジャイアント』(99年)を撮った後、なぜか干されていたブラッド・バード監督を、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11年)で起用したのは印象的だった。長編は『トロン: レガシー』(10年)しかなく、その後は間の空いていたジョセフ・コシンスキー監督も、『オブリビオン』(13年)、『トップガン マーヴェリック』(22年)で抜擢している。トム・クルーズは、じつは監督を選ぶセンスが素晴らしいのである。

レンタルや配信では本編しか観られないが、ソフトを購入するとメイキングなどのおまけディスクがついてくる。トム・クルーズの映画はこのメイキングを観るのもすごく面白い。アクションを本当に、トム・クルーズ本人がやっているところが収められていて、やはり度肝を抜かれる。同じシーンに出演して、同じアクションをやる羽目になる俳優陣も、ちょっと可哀想で心配になる。

また音声解説で撮影の裏話なども語っているが、まるで自主製作映画のようにドタバタなのだ。通常、ハリウッドの映画は大勢の人間が分業で自分の仕事に集中しているが、トム・クルーズは演出や物語のつなぎ、ポスト・プロダクションの想定を、本人自身が同時にしながら撮影している。そのため、仕事量が多すぎて撮り忘れるカットが出てきたりするのだ。正直、いま一番面白い映画人はトム・クルーズだと思う。こんな作業をしている俳優は他にいない。ぜひ、そんな目線でトム・クルーズの映画を改めて観てほしい。

<オススメの作品>
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年)

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』

監督:ダグ・リーマン
原作:桜坂洋
出演者:トム・クルーズ/エミリー・ブラント/ブレンダン・グリーソン/ビル・パクストン/ジョナス・アームストロング/トニー・ウェイ/キック・ガリー

タイムリープものの代表作。繰り返しの回数やその間の時間が非常に短いのが特徴的。今観ても編集の小刻みさ、繰り返しで飽きないかぶせ方、つなぎ方など、非常に巧みに出来ている。トム・クルーズが毎回みっともない死に方をするのもおかしい。エミリー・ブラントもタフで素晴らしく、演技の幅が広いことを知らしめた。しかしクライマックスの戦闘シーンが夜のため、画面が暗いのが惜しい。

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015年)

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』

監督:クリストファー・マッカリー
出演者:トム・クルーズ/ジェレミー・レナー/レベッカ・ファーガソン/サイモン・ペッグ/アレック・ボールドウィン/アメリカ・オリーヴォ/ヴィング・レイムス/ショーン・ハリス

「ミッション:インポッシブル」のシリーズでどれが好きかは分かれるだろうが、個人的には本作が一番だと思う。まず悪役でショーン・ハリスを抜擢したこと。アイルランドの俳優で、ハリウッドのメジャー映画にも出ていたが、脇役の一人であったりと、決して目立つ俳優ではなかった。そんな彼に目を付けたのが素晴らしい。またトム・クルーズ演じるイーサン・ハントを支えるチームが、サイモン・ペッグ、ジェレミー・レナーなど、賑やかだし個性的でとても楽しかった。もう、このメンツは揃わないのだなと思うと、なんだか寂しくなってしまう。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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