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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第38夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『CURED キュアード』(2017年)
『高慢と偏見とゾンビ』(2016年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

走ったり恋の邪魔をしたりする、モダンゾンビ

『ショーン・オブ・ザ・デッド』に触発されたかのように、ジョージ・A・ロメロは20年ぶりに、新作のゾンビ映画を次々と撮り始めた。若干小規模だが、作品のテーマはどれも新鮮だった。POVが流行すれば『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』で、混乱した状況下でカメラを持ち、映画を撮る意味を掘り下げていった。最後の作品となった『サバイバル・オブ・ザ・デッド』はゾンビが人間の肉以外を食べる可能性を模索していた。やはりロメロのゾンビが規範で、その後のゾンビ映画を観ていても、ロメロの映画のルールから逸脱していると、違和感を覚えたりする。

 ゾンビはブードゥー教から始まり、ハイチに伝わる過程で意味が変じていったと考えられている。推測の域を出ないが、特定の植物で作る人を仮死状態にする粉や、村で懲罰的にただで労役をさせられる人や、精神障がい者に対する偏見や誤解など、ルーツに対しても様々な解釈がある。

 でももはやそんなゾンビの原点は吹っ飛んで、非常に微妙な判定となる映画がヒットした。『28日後…』(02年)だ。この映画内では「ウイルス」「感染者」と呼ばれ、ゾンビ扱いはされない。この感染者たちはロメロのゆっくり歩くゾンビと異なり、全力疾走で追いかけてくる。そして襲われた人も、同様の感染者となっていく。この映画のあと、雨後の筍のように「猛ダッシュするゾンビ/感染者」の映画が生まれた。感染者とゾンビの細かい分け方も無視されて、ダッシュする感染者をゾンビと普通に呼ぶようになった。

 まあ、『28日後…』の前にも、ヘンなゾンビ映画はあった。ルチオ・フルチ監督の『サンゲリア』(79年)は、船で移動中に、ある女性が水中を撮影したいといって海にもぐる。するとそこへゾンビが海底から出没する。あわや、と思っていると、そこにサメが現れて、ゾンビと戦い始めるのである。現実的には、ゾンビの衣装をまとった人間のエキストラが演じているので、息は苦しいだろうし、サメと戦わなければいけないし、大変だったろうと思う。『ナイトメアシティ』(80年)というB級映画でも、何食わぬ感じでゾンビが飛行機から降りてきて、疾走しながら機関銃を掃射していたりもした。どちらもイタリア映画なので、ラフなお国柄という印象がある。

 ゾンビ映画は様々な国で作られ、コメディになり、また哲学的にもなっていった。だがなんといっても、『ウォーキング・デッド』という大作ドラマで描ききった感がある。もうゾンビ映画はさすがに飽きられてきたかなあ、という気がするが、まだ新作は登場するのだろうか?

<オススメの作品>
『CURED キュアード』(2017年)

『CURED キュアード』

監督:デイビット・フレイン
出演者:エリオット・ペイジ(エレン・ペイジ)/サム・キーリー/トム・ヴォーン・ロウラー/チェルシー・デボ/スチュアート・グラハム

 人間を凶暴化させる病原体「メイズ・ウイルス」が流行するが、治療法が発見されたことで混乱が収束した世界。病原菌に侵され復活した者は「回復者」と呼ばれ、人々はまだ不安な気持ちで彼らを見守っていた。次第に「回復者」への拒否感や差別は激しくなり、「回復者」側からの報復テロも始まるようになる。「回復者」たちはゾンビだったときの記憶が残っており、ウイルスのせいだったとはいえ、人を襲って殺してしまった記憶を失わずに抱えている。赦しや救済について考えさせられる映画。

『高慢と偏見とゾンビ』(16年)

『高慢と偏見とゾンビ』

監督:バー・スティアーズ
出演者:リリー・ジェームズ/サム・ライリー/ベラ・ヒースコート/レナ・ヘディ/ダグラス・ブース/チャールズ・ダンス/マット・スミス/スキ・ウォーターハウス

 ジェイン・オースティンの有名な恋愛小説『高慢と偏見』(1813年)。いわば時代ものだが、それをセス・グレアム=スミスが下敷きにして書いた小説『高慢と偏見とゾンビ』が、原案となっている。19世紀初頭の、ゾンビがはびこっている時代。ゾンビと戦いつつも、若い娘は結婚話が持ち込まれ、恋心の均衡はユラユラ揺れながら男女の駆け引きが進む。かなりゾンビは物語の重要な要素となっており、厄介なゾンビ退治と恋愛が結びついて語られる。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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