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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第37夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)
『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

モダン・ゾンビ映画の夜明け

気が付けば『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04年)の制作から18年も経ってしまった。時の経過が早すぎて恐ろしい。

『ショーン・オブ・ザ・デッド』は、現代のロンドンを舞台にしたゾンビコメディ映画だ。今観ても全然古くなくて、むしろ最近のコメディ映画の停滞が気になるほどだ。監督はエドガー・ライト、主演はサイモン・ペッグ。とても前評判が良かったのに、日本では劇場公開されずDVDスルーとなったため、当時はコアな映画ファンから不満の声があがった。

ちょっと話が逸れるが、コメディはおかしな邦題をつけられることが多い。
同じ頃、やはり現代的なコメディ映画で『Napoleon Dynamite(ナポレオン・ダイナマイト)』(03年)という、主人公の風変わりな名前をタイトルにした作品があった。それもDVDスルーなうえ、日本国内で『電車男』が流行っていたせいで、『バス男』という珍妙な邦題をつけられてしまった。もちろん大変にブーイングが起こった。筆者の周囲でも、この映画は必ず『ナポレオン・ダイナマイト』と呼ばれて、『バス男』と呼ぶ人に会ったことがない。これはさすがにその後、邦題を2013年に謝罪の言葉とともに、『ナポレオン・ダイナマイト』に変更された。
ちなみにもう一本、『Idiocracy』(06年)という原題のコメディ映画があり、英語で「バカ」と「政治」を組み合わせた造語であるが、これが『26世紀青年』という邦題になってしまった。『20世紀少年』が公開されたからという理由でだ。こちらもやはり、筆者の周りでは『イディオクラシー』と呼ぶ人間しかいない。最近はさすがに配信でも『26世紀青年/イディオクラシー』と原題のカタカナ表記が併記されている。

そう、『ショーン・オブ・ザ・デッド』の話である。
主人公は家電販売店で働くショーン(サイモン・ペッグ)。彼が恋人のリズに振られた翌日、街にゾンビがあふれる。ショーンはリズと母親を救出するため、居候の友人エド(ニック・フロスト)とともに助けに向かう。
ゾンビといえばもちろん、ジョージ・A・ロメロ監督がゾンビ映画の始祖である。『ショーン・オブ・ザ・デッド』というタイトルは、ロメロの名を世界に知らしめた、『ゾンビ』の原題『Dawn of the Dead(ドーン・オブ・ザ・デッド)』をひねったものだ。ちなみにロメロの記念すべき一作目となるゾンビ映画は、モノクロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』。ゾンビもの2作目の『Dawn of the Dead』は日本をはじめ、『ゾンビ』というタイトルで呼ばれることも多い。
ロメロも『ショーン・オブ・ザ・デッド』を気に入り、ロメロが2005年に20年ぶりに撮ったゾンビ映画『ランド・オブ・ザ・デッド』に、エドガー・ライトとサイモン・ペッグをカメオ出演で招いている。この映画内でゾンビは人間に管理されており、ライトとペッグは見世物小屋で、人間と一緒に記念写真を撮らされるゾンビ役だ。

<オススメの作品>
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)

『ショーン・オブ・ザ・デッド』

監督:エドガー・ライト
脚本:サイモン・ペッグ/エドガー・ライト
出演者」:サイモン・ペッグ/ケイト・アシュフィールド/ニック・フロスト/ディラン・モーラン/ルーシー・デイヴィス/ペネロープ・ウィルトン/ビル・ナイピーター・セラフィノウィッツ/ジェシカ・ハインズ/マーティン・フリーマン

コメディタッチのゾンビ映画の金字塔。ショーンがレコードや映画好きなインドア派で、出世欲などなさそうなルーザー(冴えない青年)である設定が良かった。元カノや母親を助けたいと思って飛び出しつつ、あまり策略はないあたりも、観客が共感しやすいキャラなのだ。その幼馴染の親友エドは、働きもせず一日中ゲームをやっているようなダメキャラで、2000年頃が青春期の若者にとって、こういうモラトリアムな暮らしはリアリティがあった。ちょっと泣きがあり、容赦ない別れもあり、ラストはフッと肩の力が抜けるような幸福感もあって、歴代のゾンビ映画でもベストテンに入る傑作。

『ランド・オブ・ザ・デッド』(05年)

『ランド・オブ・ザ・デッド』

監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
出演者:サイモン・ベイカー/デニス・ホッパー/アーシア・アルジェント/ロバート・ジョイ/ジョン・レグイザモ/ユージン・クラーク/トム・サヴィーニ/サイモン・ペッグ/エドガー・ライト/ピーター・アウターブリッジ

ジョージ・A・ロメロ監督が20年ぶりに撮った近未来ゾンビ映画。この時代は生き残った人々に明確な経済格差があり、富裕層はゾンビから守られた高層ビルで暮らしている。それに対し、貧乏人はただ防御フェンスに囲まれた地域で生き抜いていた。ちなみにロメロの2作目の『ゾンビ』をヨーロッパで配給し、ヒットさせたのはダリオ・アルジェント監督だった。その娘のアーシア・アルジェントは女優となり、この『ランド・オブ・ザ・デッド』ではヒロインを演じている。なんだか絆を感じる良い話だ。

本作ではゾンビに生前の経験的な記憶が残っており、特に「ビッグダディ」と呼ばれる黒人のゾンビは知能が発達しており、仲間のゾンビを扇動して街を襲撃する。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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