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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第34夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『事故物件 恐い間取り』(20年)
『残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋』(16年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

夏の夜に事故物件映画はいかが?

17年前くらいに丸の内線沿線に住んでいた。JR沿線に比べれば若干家賃の相場が落ちるし、新宿などの乗換駅への移動もラクだ。不動産屋には、バストイレ付きのワンルームで7万以内というギリギリの交渉をした。やはり、難のある部屋ばかりのなかで、一軒だけ8畳のフローリングで6万8千円という破格の部屋があった。本当は7万4千円の部屋だが、大家の好意で割引になっているらしい。駅も歩いて5分と近く、部屋もきれいですぐそこに決めた。
ただ、引っ越しの荷物を運ぶ日に、ドアの裏側に大家の字で「異性の出入り禁止」と貼り紙がされていた。なんとなく見張られているようで、いやな感じがした。家賃は毎月大家の家まで届けに行っていたが、ある日、大家が隣接するアパートの真向いの部屋を指して、「ここで無理心中があったの。ガスで。ここ救急車が入れなくて大変で」と言い出した。「だから異性を連れ込むのはやめてね」。
つまり、同じ建物ではないが、窓を隔てただけの至近距離に事故物件があったということだった。そのために家賃が安く、大家としては無理心中させない=男女交際禁止という極論に頭がなっていたのだった。
わたしはじつはちょっと、そういう物件を引き当てやすかった。その前には3年の間に2人飛び降り自殺をしたマンションに住んでいた。いずれも住人ではなく、よそから入ってきて飛び降りた人だった。ただそういうものは気にすると寄ってくる気がして、極力気に留めないようにしている。そのためか、その後、10年近く暮らした西荻のアパートでは一回もそういったトラブルはなかった。

『リング』などで日本を代表するホラー映画の監督、中田秀夫の『事故物件 恐い間取り』(20)は、そういった事故物件にネタ探しで住む物語だ。実際にモデルとなった怪談話を集める“事故物件住みます芸人”がいて、その役を亀梨和也が演じている。
当然ホラー映画なので、最初から不気味な現象が起こるのだが、自分がヘンな物件に住んでいた感じとしては、日本なんて国土が狭いんだから、この建物が建つ前にここで死んだ人間だっていたんだろう、という盛者必衰の心得がまず浮かぶ。呪いなんてこの長い年月で、どこにかかっているかわかりはしないものだ。
映画の中でもチラリと言及されるが、以前はそういった心理的瑕疵(自殺や殺人などのあった部屋は、住む人に申告義務がある)は、途中誰かが住んだらもう次の人には申告しなくても良かった。そのため、わざわざそういった事故が起こった直後の、安い部屋を狙って住む人もいる。
若いころ、友人の映画製作スタッフは金がないため、「目黒で殺人の起こったマンションがあるんだけど、住まない?」といわれ、本当に住んでいた。目黒のマンションに3万円台で住めてホクホクしていた。ただ、やはりこの心理的瑕疵については昨年国土交通省からガイドラインが発表され、自殺や殺人、自然死でも特殊清掃が必要となるような死だった場合は、3年以内は告知しなければならないようだ。
ただしわたしが住んでいた、隣の真向いの部屋の心中といったケースは、当該アパートではないので申告義務はない。でも住んでいる間に怖い出来事もなかったし、気にしないのが一番だ。なぜなら、幽霊が後ろにいたとしても、振り向かなければ気付かずに済むからだ。

ほら、振り向いちゃダメだったら。

<オススメの作品>
『事故物件 恐い間取り』(20年)

『事故物件 恐い間取り』

監督:中田秀夫
原作:松原タニシ
出演者:亀梨和也/奈緒(本田なお)/瀬戸康史/江口のりこ/MEGUMI/真魚/瀧川英次(赤ペン瀧川)

大阪の売れない芸人・山野ヤマメ(亀梨和也)はコンビも解散し、もはや仕事を選べる状態ではなくなって、事故物件に住む企画に参加することになる。ヤマメのファンだった梓(奈緒)も、同じタイミングでテレビ局のメイクの仕事を得た。次第に親しくなった二人は事故物件を一緒に見に行くが、霊感の強い彼女はこの仕事に強い危険を感じる。日本のホラー映画はラストで必ずのように不吉なカットを入れるが、本作は震えながらも前向きに歩き出す余韻があっていい。

『残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋』(16年)

『残穢(ざんえ) 住んではいけない部屋』

監督:中村義洋
出演者:竹内結子/橋本愛/佐々木蔵之介/坂口健太郎/滝藤賢一/成田凌

『ゴールデンスランバー』や『白ゆき姫殺人事件』といった優れたミステリー映画と同時に、『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズも手掛ける中村義洋監督作品。
奇妙な話にまつわる短編を連載中である小説家の「私」(竹内結子)。読者である女子大生の久保(橋本愛)から「住んでいる部屋で奇妙な音がする」と書かれた手紙が届く。二人が調査を開始すると、その土地で古くから自殺や殺人など、さまざまな事件が起こっていたことがわかる。さらにルーツを遡っていくと、不吉な出来事は九州にまで及んでいく。事故の起こった場所だけでなく、そこに住んだ人が移転してもついてくる穢れ。過去の記録のリアルさなども非常に不気味で、『リング』に並ぶ世界に誇れるジャパニーズホラーの代表作。本当に怖いので、鑑賞にはご注意を。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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