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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第33夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『宇宙戦争』(2005年)
『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

映画監督とカメラマンの関係

 先日お笑い番組を見ていたら、「しゃもじ」というコンビが改名すると発表していて、「ハンジロウ」にするという。コンビの片方のおじいさんが、映画カメラマンの中沢半次郎で、その名をとることにしたというのでビックリした。
中沢半次郎といえば、東映を長く支えたベテランカメラマンだ。東映には東京と京都に撮影所があり、中沢は東京撮影所所属で、深作欣二監督と現代やくざものと呼ばれるジャンル映画を手掛けていた。非常にダイナミックにカメラを振り回し、ドキュメンタリーのようなタッチで有名だ。深作欣二が京都撮影所で撮った『仁義なき戦い』シリーズは、京都のカメラマンの吉田貞次が手掛けているが、吉田は時代劇のカメラマンだった。そのため、『仁義なき戦い』は「中沢半次郎のタッチで撮ろう」という話し合いがあったのは間違いないと思う。

 映画監督の個性と思っている部分が、じつはカメラマンの個性であったりすることも多い。監督がずっと同じカメラマンとコンビを組んだりするのも、自分の思い描く世界を、映像で再現できるのがこのカメラマンしかいないという信頼があるからだろう。
有名なのはスティーヴン・スピルバーグとヤヌス・カミンスキーだ。スピルバーグの映画を観ていて、なんだか色彩が薄い感じはしないだろうか。映画の内容に合わせてカラフルな時もあるものの、ポリティカルサスペンスだったりすると、彩度が落ちてほとんどモノクロとかわらないような色調になったりする。
またカミンスキーが注目を浴びたのは、『宇宙戦争』でトム・クルーズ一家が車で道路を飛ばすシーンの、複雑に動くワンカットのカメラワークである。公開時はいったいあれはどうやって撮影したのかと話題になった。今ならドローンとかありうるが、2005年ではかなりの工夫が必要だったはずだ。

 2010年代のアカデミー賞を席巻したのはメキシコ出身の監督たちだった。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『レヴェナント: 蘇えりし者』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。そして『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン。『バードマン』は映画がまるまるワンカットという設定で、時々わからないように編集でつなぐ疑似ワンカットなのだが、それでも大半が長回しという労作だ。それに対し、『レヴェナント』は冬山で見るからに過酷な撮影を行っている。

 これら3本の撮影をすべて担当しているのが、メキシコ出身のエマニュエル・ルベツキだ。2013年から上記の3作品によって、アカデミー賞撮影賞を3年連続受賞という快挙を成し遂げている。ルベツキは疑似ワンカットを得意とするが、途中手持ちカメラで移動したりするのは、かなりパワーがなければならない。ただクレーンに乗っているだけでは最近の複雑なワンカット映像は撮れず、途中でカメラマンがクレーンから降りてカメラを手持ちにし、また台車に載せたりといった様々な動きを組み合わせるので、非常に頭脳プレイでありつつ、体力もいるのだ。

 『レヴェナント』のメイキング映像を観ていると、真冬の川にルベツキは率先して入って撮影している。撮影クルーのトップがそうするなら、部下も付き合わざるを得ないだろうなあ……という空気を感じる。ディカプリオはずっとアカデミー賞男優賞が取れず、アカデミーが鬼門のように言われてきたが、本作でやっと受賞することができた。それも、撮影を見るだけでわかるような、かなり過酷な現場を耐え忍んでこなしたのが、アカデミー賞会員にも伝わったからだろう。

<オススメの作品>
『宇宙戦争』(2005年)

『宇宙戦争』

監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
音楽:坂本龍一
出演者:レオナルド・ディカプリオ/トム・ハーディ/ウィル・ポールター/ドーナル・グリーソン/ポール・アンダーソン

スピルバーグは『ターミナル』(04年)のあと、世界を股にかけたポリティカルサスペンス『ミュンヘン』(05年)の準備に入っていた。そこに、トム・クルーズ主演作の企画が流れて彼のスケジュールが空いた、という報が入る。そこで急遽作られたのが『宇宙戦争』だ。ハリウッドといえば企画から長い時間をかけて準備をするのが通常のパターンだ。しかしトム・クルーズ主演のこれだけ大きな規模の映画で、全編どこもかしこも面白い映画が、「スケジュールが空いた」と聞いただけで、ポッと作られたというのがそら恐ろしい。スピルバーグ界隈の底力を見せつけられる思いがする。途中で怪演を見せるティム・ロビンスも、スピルバーグが声をかけたら、たまたまスケジュールが空いていたので出演したそうだ。

『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015年)

『レヴェナント: 蘇えりし者』

監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演者:トム・クルーズ/ダコタ・ファニング/ティム・ロビンス/ジャスティン・チャットウィン/ミランダ・オットー

非常に荘厳で、生と死のはざまでさまよう男を描いた復讐劇である。もしかしたらもう肉体はほぼ死んでいるのに、魂だけが復讐心で動いているだけかもしれないようにも見える。こういった苦しむ演技のディカプリオは昔からとてもうまいのに、遊び人というパブリックイメージが良くないせいか、俳優としての評価が遅れていたと思う。ディカプリオはベジタリアンだが、本作で飢えた主人公が動物の内臓を貪り食うシーンでは、本物を口にしたと言われている。もちろん主義に背くからいやだと言うこともできただろうが、それほどこの役に賭けていたのだろう。合成かもしれないが、ワンカット内で、遠くの山頂で雪崩が起こっているシーンなども鳥肌が立つ。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画著述業。『映画秘宝』や『キネマ旬報』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
共著に『鮮烈!アナーキー日本映画史1959~1979』(洋泉社)、
『日本映画は生きている 監督と俳優の美学』(岩波書店)、『戦う女たち』
(作品社)などがある。
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