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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

真魚八重子「映画でくつろぐ夜。」 第25夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『マルホランド・ドライブ』(01年)
『サンセット大通り』(50年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

 デイヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』は、ひとつの映画の中で陰陽が変わる。まず、ハリウッドの陽光が美しくきらめく中で、女優志望のベティ(ナオミ・ワッツ)が、事故で記憶喪失となったリタ(ローラ・ハリング)と知り合う。二人はリタの記憶を取り戻すため、ちょっとした冒険に乗り出す物語がメインだ。
 ベティの才能が見出されていくスタジオのスポットライトは輝かしい。だがどうやら周辺には、暗い影の中に謎めいた陰謀や憎悪が巣食っている。1本の映画の中で光と闇、夢とうつつが交錯する謎めいた映画だ。けれども少女探偵のようなワクワク感と艶やかさ、そして死ぬほどむなしい寂寥感が混じりあう、映画ならではのトリッキーな見せ方に惚れ惚れしてしまう。
 リタの乗った車は、マルホランド・ドライブという車道辺りで事故をおこす。後部座席の彼女が這い出して、よろよろと歩いて逃げていくのがサンセット大通りだ。もちろん映画『サンセット大通り』のタイトルになった、ハリウッドの通りの名である。
 『マルホランド・ドライブ』が『サンセット大通り』にオマージュを捧げた映画であるのは有名だ。元々リンチは、ドラマ『ツイン・ピークス』にみずから出演した際、役名をゴードン・コールにしている。これは『サンセット大通り』で主人公の女優に自動車を貸して欲しいと連絡を取る男の役名だ。
 『サンセット大通り』は、サイレント映画時代のスター女優ノーマ・デズモンド(グロリア・スワンソン)が、返り咲きを願い、次第に狂気に陥っていく物語である。『マルホランド・ドライブ』は駆け出しの女優や売れない女優の足掻きであったが、『サンセット大通り』は映画界から忘れ去られ、ハリウッドで枯れ果てた女優が主人公となっていた。
 ちなみにリドリー・スコット監督の『ゲティ家の身代金』をご覧になった方もいるだろうか。ノーマの住む邸宅は、あの石油王で世紀のケチ(誘拐された孫の身代金を値切った)として知られる、ジャン・ポール・ゲティの前妻の家を借りて撮影がされている。
 ノーマには忠実な召使のマックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)がいる。演じているシュトロハイムはオーストリア出身の、サイレント映画を代表する監督であり俳優だ。ノーマが屋敷内で昔の主演作を観るシーンがあるが、そこでかかっているのは実際にシュトロハイムが監督し、スワンソンが主演を務めながらも、二人が衝突したため完成を見なかった作品『クィーン・ケリー』だ。この不遇な作品での不和は過去のものとなっており、『サンセット大通り』のノーマとマックスのいびつな関係性を織りなす結果となっている。ノーマが観る映画に本作を選んだビリー・ワイルダーのセンスが素晴らしい。
 『マルホランド・ドライブ』も『サンセット大通り』も、ハリウッドという魔都に魅入られ、翻弄された人々の狂おしさや悲しみがあふれている。まったく違ったテイストの映画ながら、甘い毒が混ざったような幻惑性のある作品だ。

<オススメの作品>
『マルホランド・ドライブ』(01年)

『マルホランド・ドライブ』

監督:デヴィッド・リンチ
出演者:ナオミ・ワッツ/ローラ・ハリング/アン・ミラー/ジャスティン・セロー/ダン・ヘダヤ/マーク・ペルグリノ

 デイヴィッド・リンチのもはや代表作だ。時折話についていけなくなるような、飛び散った物語のピース。かき集めても順番がわからず、どう埋めてみても足りないものや、逆に多すぎるピースがあるような不思議に謎めいた映画。ヒントが散りばめられているように感じるのは、純粋にミステリー風に始まるせいもあるだろう。それがある瞬間から脂汗が滲むような不安にさいなまれ始める。それでもこの作品はとてつもなく面白く、麻薬的で、過不足があるピースを想像で埋めながら繰り返し観ずにいられない。

『サンセット大通り』(50年)

『サンセット大通り』

監督:ビリー・ワイルダー
出演者:グロリア・スワンソン/ウィリアム・ホールデン/エリッヒ・フォン・シュトロハイム/ナンシー・オルソン/フレッド・クラーク

 プールに浮いた背広姿の男。どうして彼がこんな死を迎えることになったのかを回想で描く。これは虚実ない交ぜになった作品で、奇妙なほどの映画に対する愛や執着によって高揚感がもたらされる。巨匠といわれるセシル・B・デミル監督が本人の役で登場し、ノーマの没落した侘しいカード仲間には、当時本当に酒で身を持ち崩していたバスター・キートンが出演している。ラストのグロリア・スワンソンは奇怪な狂気を全身で体現しつつ、同時に憐憫をも感じさせる一世一代の演技だ。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画著述業。『映画秘宝』や『キネマ旬報』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
共著に『鮮烈!アナーキー日本映画史1959~1979』(洋泉社)、
『日本映画は生きている 監督と俳優の美学』(岩波書店)、『戦う女たち』
(作品社)などがある。
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