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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

真魚八重子「映画でくつろぐ夜。」 第24夜

Netflixにアマプラ、WOWOWに金ロー、YouTube。
映画を見ながら過ごす夜に憧れるけど、選択肢が多すぎて選んでいるだけで疲れちゃう。
そんなあなたにお届けする予告編だけでグッと来る映画。ぐっと来たら週末に本編を楽しむもよし、見ないままシェアするもよし。
そんな襟を正さなくても満足できる映画ライフを「キネマ旬報」や「映画秘宝」のライター真魚八重子が提案します。

■■本日の作品■■
『ぼくのエリ 200歳の少女』(08年)
『ハッピーボイス・キラー』(14年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

女性も好きなホラー映画

 自分は小さい頃からたいていのホラー映画が平気だったせいで、他の人の怖い/平気の線引きが聞いて初めて理解できるようなところがある。殺人ミステリーは大好きな女性が、心霊ものが大の苦手だというのも、言われてみて「ああ、確かに別物の恐怖だな」と認識したこともあった。

 わたしにもホラーのジャンルの中で好き嫌いはある。心霊ものは平気。スプラッターを観るのも大丈夫だけれど、汚物は地獄のように嫌いだ。それって一緒じゃないの?と思われるとつらい。たとえばスティーヴン・キング原作映画でも『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』や『ミスト』は平気なかわり、『スタンド・バイ・ミー』や『ドリームキャッチャー』は汚くて好きじゃない。赤い透明な鮮血がしぶきを上げるのは美学さえ感じるけれど、血に他のものが混じっている感じだったら、眉をひそめてしまう。こういう生理的な感覚ってわかってもらえるだろうか。

 ホラーにもやはり度合いがあると考えるたびに、すごく不思議なのはキングの存在だ。『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』はハリウッドの人気俳優たちが出ているから、敷居が低く感じてつい観てしまうが、心霊映画的な雰囲気がじつはビックリするほど怖い。それに子どもが残酷な目に遭うのも容赦ない。キングはアメリカを代表する売れっ子作家だけれど、けっこういろんな作品が「ショッキングすぎて封印されていたカルト映画」だったとしてもおかしくない気がする。でもこれが大衆文学やヒット映画であり、一方あまり有名じゃないが同じくらい怖い映画が、残酷すぎると言われて世間から良い顔をされなかったりする。こういう、有名無名のラベルに惑わされずに作品本来の姿で判断したいなと思う。

 女性が好むホラーは耽美さなども重要だろう。多少グロテスクではあっても、基本的に綺麗であれば観ていて楽しい。そういった作品は美術や衣装などにも目を奪われたりする。しかしたとえば、美形な吸血鬼たちの物語である『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』を、「男性が満足できないから女性向け」といった評価をされていると、ムカムカしてしまう。確かに今流行りの怖い映画ではないけれども、ホラーにはゴシックな美学から観た恐怖もあるし、怖さと同時にメロドラマの要素があってもいい。孤独に生き長らえる種族の、反発が劇的な別れとなるヴァンパイア同士の関係はとてもドラマティックだ。ホラーにそういった付加価値があってもいい。

 最近、海外の少し規模の小さめなホラー映画を観ていると、何かピンとくる感覚を持った作品に出くわす。そういった作品の監督をチェックすると女性であることが多い。男性にはあまり共有されなさそうな性的なニュアンスや、ブラックユーモアの中にあるキュートさが、些細であっても女性の方が気づきやすいようなものだったりする。男性を排斥するわけじゃなく、こういった女性が心の内を暴露したり、独特なチャーミングさを発揮したりしている映画を、もっと広く女性に観てほしいと思う。ホラーという危うさにひそませてあるからこそ、生々しく(あっ、わかる!)という微細な感覚は、その映画が宝物や友人のような気持ちにさせてくれる。

<オススメの作品>
『ぼくのエリ 200歳の少女』(08年)

『ぼくのエリ 200歳の少女』

監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
出演者:カーレ・ヘーデブラント/リーナ・レアンデション/ペール・ラグナー/ヘンリック・ダール/カーリン・バーグクィスト

 スウェーデンのヴァンパイア映画。ストックホルム郊外に住む12歳の少年オスカーは、家にも学校にも自分の居場所がなく孤独だ。ある日隣室に親子が引っ越してくる。同じ年頃の少女エリは、夜にならないと姿を見せず学校にも行かないが、オスカーは彼女と親しくなっていく。恐怖と美しさが共存する映画だ。孤独な少年少女の物語であり、侘しい遠い未来の姿も透けて見える、大きな悲しみが秘められている。辛辣な描写が多く甘くないので、幼い恋模様ではなく、少年の人生に関わるヒリヒリした作品に仕上がっている。

『ハッピーボイス・キラー』(14年)

『ハッピーボイス・キラー』

監督:マルジャン・サトラピ
脚本:マイケル・R・ペリー
出演者:ライアン・レイノルズ/アナ・ケンドリック/ジェマ・アータートン/ジャッキー・ウィーヴァー/ガリヴァー・マクグラス

 監督はイラン出身の女性監督マルジャン・サトラピ。イランでも進歩的な上流社会の出であり、現在はフランスでイラストレーターとして暮らしている。本作の主演は『デッドプール』シリーズでおなじみのライアン・レイノルズ。彼がアメリカの片田舎に暮らす冴えない青年ジェリー役を演じている。ジェリーは工場に勤める朴訥とした青年だが、精神の病を患っており、頭の中に声が聞こえてしまう。飼っている犬と猫はいつも正反対の意見を持ち、天使と悪魔のようにジェリーを諭したりそそのかしたりする。同僚の女性に恋をしていたジェリーは、ある日ふとしたことから過ちをおかしてしまう……。グロテスクなストーリーなのに、ピンクを基調にしたキュートなグッズにあふれていて、妙に可愛い映画。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画著述業。『映画秘宝』や『キネマ旬報』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
共著に『鮮烈!アナーキー日本映画史1959~1979』(洋泉社)、
『日本映画は生きている 監督と俳優の美学』(岩波書店)、『戦う女たち』
(作品社)などがある。
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