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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

真魚八重子「映画でくつろぐ夜。」 第22夜

Netflixにアマプラ、WOWOWに金ロー、YouTube。
映画を見ながら過ごす夜に憧れるけど、選択肢が多すぎて選んでいるだけで疲れちゃう。
そんなあなたにお届けする予告編だけでグッと来る映画。ぐっと来たら週末に本編を楽しむもよし、見ないままシェアするもよし。
そんな襟を正さなくても満足できる映画ライフを「キネマ旬報」や「映画秘宝」のライター真魚八重子が提案します。

■■本日の作品■■
『情婦』(57年)
『狩人の夜』(55年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

女優と映画

 映画を観始めた最初は、女優に目がいっていた。なぜかわからないが、かっこいい男優を追って映画を観ようとは思わなかった。今も人の顔を見分けるのが苦手なのだが、映画に慣れない当初は、ハンサムな男性俳優の顔はある程度以上になると飽和状態になって、みんな一緒に見えてしまっていた。

 真面目な性分だったのか、映画は歴史的に古い物も勉強しなきゃと当然のように思っていて、古典映画の上映会があると通ったりしていた。インパクトがあったのは、ドイツの女優のマレーネ・ディートリッヒだ。一筆書きのような細い眉、気の強そうな傲然とした表情が美しい人だった。三島由紀夫が映画評を書いた有名な一節に、マレーネのことを「ドイツのオカメが厚化粧して~」という表現も、ヘッ!つまんな!と思う。

 マレーネ・ディートリッヒは第二次世界大戦中、ナチを嫌いアメリカで活動をした。パンツスーツで男装している写真も有名で、自分の意志を強く持つ女性だ。男性からしたら簡単には手に負えない人だから、悪く言われるのも想像にたやすい。だからこそ、男性を愛したときには、どんな態度になるのかを思い描くのが面白いのに……。

 同じころに、まったく相反する個性を持った女優の特集にも通っていた。リリアン・ギッシュだ。目が大きく悲し気な表情が何よりも似合う美少女俳優。本当に絵に描いたような美しさで、高級な焼き菓子の缶に描かれているような、典型的な西洋的美少女だった。

 リリアンには一種の被虐美があって、D・W・グリフィス監督の『散り行く花』(1919年)で、父親から虐待を受けている貧しい少女を演じたのがあまりにハマっていた。この少女は父親に「笑え!」と言われると、自然には笑えないので、指で口角を持ち上げて笑顔を作るのだ。その仕草は本作を観た人たちにどれだけ鮮烈な記憶をもたらしただろう。映画ファンの中で、リリアン・ギッシュといえば、この二本指で作った痛々しい笑顔をまず思い出す人が多いに違いない。

 リリアン・ギッシュの映画を再び観たのは、20代に入ってさらに雑多な映画を観始めたときだった。『狩人の夜』(55年)という、公開当時はヒットしなかったが、のちにカルト的な評価をされた映画に、おばあさんになったリリアン・ギッシュが出演していた。容貌はもちろん変わってしまっていたが、おばあさんになっても上品な可愛らしさはそのまま残っていた。ぽたぽた焼きのおばあさんのような、優しくて賢そうな老婦人だ。このリリアンは、大金のために子どもをつけ狙うエゴイスティックな殺人者に、ショットガンで対峙する凛としたおばあさんを演じていた。素晴らしいキャスティングだと思う。

 リリアン・ギッシュは古典映画の中の人だと思っていたのに、歴史と実時間が追いつく瞬間がやってきた。1987年の新作映画『八月の鯨』はリリアン・ギッシュとベティ・デイビスが主演である。このときリリアンは93歳という高齢だった。まさか同時代で演技をするリリアンの新作が観られるとは思っていなかったので感激した。リリアン・ギッシュはおばあさんになっても、相変わらず高貴で可愛らしかった。老姉妹の静かな生活を追った穏やかな映画なので、ぜひ本作もお時間があれば観てほしい。

<オススメの作品>
『情婦』(57年)

『情婦』

監督:ビリー・ワイルダー
脚本:ビリー・ワイルダー/ハリー・カーニッツ
原作:アガサ・クリスティ
出演者:タイロン・パワー/マレーネ・ディートリッヒ/チャールズ・ロートン

 脚本・監督は名匠ビリー・ワイルダー。ナチスを嫌ってドイツから離れたマレーネと、ユダヤ人のため祖国ドイツからフランスに亡命したワイルダーには、それだけで共通項があると言える。ハリウッドでは大人のコメディというか、艶笑譚を得意としたワイルダーが、どのようにマレーネ・ディートリッヒを主演女優として迎えるのかが興味津々な作品。原作はアガサ・クリスティの短編小説『検察側の証人』で、見事なサスペンス映画に仕上がっている。裁判物であり、マレーネ・ディートリッヒが入廷するシーンの、ただ歩いているだけなのにど迫力な存在感は忘れがたい。鋼のように気丈な女というマレーネの個性を、逆転的に生かした脚本になっている。

『狩人の夜』(55年)

『狩人の夜』

監督:チャールズ・ロートン
脚本:ジェームズ・アギー
出演者:ロバート・ミッチャム/シェリー・ウィンタース/リリアン・ギッシュ

 俳優のチャールズ・ロートンがメガホンを撮った、非常に魅力的な闇を描いた映画。幼いジョンと妹のパール兄妹の父親ベンは、家族のために強盗殺人を犯してしまい死刑判決を受ける。ベンと刑務所で一緒だった偽伝道師のハリー・パウエル(ロバート・ミッチャム)は、出所するとベンが盗んだ大金の在り処を聞き出すため、ジョンとパール兄妹に近づいていく。このロバート・ミッチャムがなんとも複雑な悪人を演じていて、魅了されてしまう。彼が指に「LOVE」と「HATE」の刺青を入れているのが、今でこそ普通のファッションだが、この映画の時代では異様なことだったろう。リリアン・ギッシュはハリーから逃げ出した幼い兄妹をかくまう老婦人役。子どもの教育には厳しくも慈愛にあふれた人物だが、彼女とハリーの歌が重なる不思議なシーンがある。この敵対と共鳴の関係性はいわく言い難い。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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