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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

真魚八重子「映画でくつろぐ夜。」 第6夜

Netflixにアマプラ、WOWOWに金ロー、YouTube。
映画を見ながら過ごす夜に憧れるけど、選択肢が多すぎて選んでいるだけで疲れちゃう。
そんなあなたにお届けする予告編だけでグッと来る映画。ぐっと来たら週末に本編を楽しむもよし、見ないままシェアするもよし。
そんな襟を正さなくても満足できる映画ライフを「キネマ旬報」や「映画秘宝」のライター真魚八重子が提案します。

■■本日の作品■■
『ヒドゥン』(1987年)
『タクシードライバー』(1976年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

頭痛と映画

映画に登場する様々な病気の中で、一番表現が難しいのが頭痛だろう。今までに頭痛が伝わってくるような、「ああ、まさにそれそれ」という場面を観たことがない。症状が外部に一切出ないので当たり前ではあるが、表現できないから映画からは忌避されている描写だと思う。

わたしは小さい頃から頭痛持ちで、周期的に頭の痛みから吐いてしまう子どもだった。診断された病名は自家中毒症、またの名を周期性嘔吐症という、身もふたもない病気だった。自家中毒症はいまでも原因不明だが、心因性のものと言われており、神経質な子どもがストレスを感じたときに起こりやすい病気らしい。確かに自分は神経が過敏で、内気で、でも頑固で融通のきかない子どもだった。

それにしてもこれがほんとに苦しかった。わたしの場合は数か月おきくらいの割合で、特に前触れもなく、まずは頭がガンガンと割れるような頭痛に襲われた。それとともに吐き気がこみ上げてきて、数時間後には猛烈に吐いてしまう。その様子に心配した家族は「横になれ」と言うけれども、頭痛と気持ち悪さでじっとしていられない。そして母が用意した新聞紙を敷いた洗面器に向かって、もう吐くものがなくなっても何時間も空吐きを続け、毎回あまりのしんどさに声をあげて泣いていた。

まだ幼稚園に上がる前から起こっていたので、心因性の病気を招くような性格というのは作られるのではなく、やはり持って生まれているのだなあと思う。家庭に問題があったわけではなく、食事も十分とっており、成長過程で外的なトラブルに見舞われたわけではない。だから何か自発的に、妙な感受性を働かせて、おかしくなっていたのだろう。

周期性嘔吐症は血中の糖分が減り、ケトン体が増加するために起こるので、成長とともに体重あたりの糖の必要量が減ると症状が消えていく。わたしも小6くらいで自然と治癒し、その後は頭痛による吐き気は長らく起こらなかった。しかしもうすっかりそんな出来事は忘れて30代に入った頃、突然また襲われるようになった。

加齢とともに頭痛の質も変わってくるのだ。大人になってからの頭痛は、子どもの頃の割れるような痛みではなく、痛みに強弱がついているわけでもなかった。しかし片目の奥と首の付け根が締め付けられる感じで、ずっと一定量の不快な痛みが続く。市販の痛み止めもまったく効果がない。そのうち胸もむかむかしてきて、決して自然におう吐してしまうほどではないが、吐き気の発作を抑えるために無理に吐くようになった。それがふた月に一度程度起こるようになり、頭痛になったら10時間以上続くので半日はのたうち回っていた。結局、頭痛外来で検査をしたところ「片頭痛」と診断された。片頭痛と、肩こりなどからくる緊張型頭痛は痛みの原因が違うので、市販の頭痛薬ではきかないこともこのとき初めて知った。

片頭痛は女性に起こる割合が多く、悩んでいる人も大勢いるはずだ。ポピュラーな病気なのだから、もっと映画にも登場していいのにと思う。作り手に男性が多いと、気が付かない細かなことのひとつなのかもしれない。

『ヒドゥン』(1987年)

『ヒドゥン』

監督:ジャック・ショルダー
脚本:ボブ・ハント
出演:カイル・マクラクラン | マイケル・ヌーリー

ロサンゼルスで起こった凶悪事件。犯人はいたって普通の男だったのに、突如凄惨な殺戮を行った。ベック刑事が犯人を射殺して事件は終わったかにみえたが、FBI捜査官のロイド・ギャラガー(カイル・マクラクラン)が姿を現した。彼はエイリアンが寄生したことによる犯罪と言うが、ベックはにわかには信じられない。しかし死んだ犯人の体から、ほかの人間の体に移ったエイリアンが新たな凶行に出る。

SFアクションホラーに分類される作品だが、端々の何気ない描写にセンスが光る傑作。ギャラガーもじつは異星人で、妻子を殺された復讐で犯人の宇宙人を追っているという設定だ。どちらの宇宙人も地球は初めてなので、知らない風習にキョトンとしたり、なぜか善悪どちらの宇宙人もスピード狂で、スポーツカーが好きだったりといった細部が丁寧である。

ギャラガーが酒を飲んで具合が悪くなってしまった際、ベックは水に溶かして飲む鎮痛剤のアルカセルツァーを飲ませる。コップの中にたつ気泡を、不思議そうに見つめるギャラガー。その後二人は現場に向かうが、まだ頭痛がしているらしいギャラガーに、警官が通常のアスピリンを渡す。しかしギャラガーはアルカセルツァーと同じ要領で、錠剤を水の入ったコップの中に放り込んでしまう。その後シーンが変わると、画面の奥でギャラガーがコップの底にこびりついた鎮痛剤を取ろうとしているのがおかしい。

『タクシードライバー』(1976年)

タクシードライバー

監督:マーティン・スコセッシ
出演:ロバート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ピーター・ボイル

苛立ちや狂気に駆られる青年トラヴィスの姿を描いた、ロバート・デ・ニーロの代表作。政治的に揺れる現在において、テロリズムに傾きかけるトラヴィスは、どこか人々の心の水面に浮上しそうな気配を帯びている。何かの弾みで凶行に走る男の闇を、これ以上肉薄して描いた作品はないだろう。

トラヴィスはベトナム戦争帰還兵らしく、不眠症を患っている。ある夜、タクシードライバーをしている彼が仲間とたむろしている店で、アルカセルツァーを放り込んだコップの泡に、無心で見入るシーンがある。ほかの運転手に話しかけられても、その声はトラヴィスの耳には届かない。湧き上がる気泡と錠剤が溶けていく音に、彼の意識は吸い寄せられていく。そしてカメラの目線がどんどんと水面に寄り、コップの中で荒れる鎮痛剤の海に今にも飛び込みそうになる。溶ける鎮痛剤だけで、青年の壊れかけた精神を表現した秀逸なシーンだ。

■■本日の作品■■
『ヒドゥン』(1987年)
『タクシードライバー』(1976年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

Writer Writer
ライター紹介
真魚 八重子
映画ライター
映画著述業。『映画秘宝』や『キネマ旬報』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
共著に『鮮烈!アナーキー日本映画史1959~1979』(洋泉社)、
『日本映画は生きている 監督と俳優の美学』(岩波書店)、『戦う女たち』
(作品社)などがある。
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