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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

真魚八重子「映画でくつろぐ夜。」 第5夜

Netflixにアマプラ、WOWOWに金ロー、YouTube。
映画を見ながら過ごす夜に憧れるけど、選択肢が多すぎて選んでいるだけで疲れちゃう。
そんなあなたにお届けする予告編だけでグッと来る映画。ぐっと来たら週末に本編を楽しむもよし、見ないままシェアするもよし。
そんな襟を正さなくても満足できる映画ライフを「キネマ旬報」や「映画秘宝」のライター真魚八重子が提案します。

■■本日の作品■■
『28DAYS』(2000年)
『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(2009年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

酒と映画

 飲食店が夜8時までの営業となり、我が家は仕事の都合もあって、外食することがほぼ皆無になってしまった。たまには夕食作りをサボっておいしいものが食べたい。なので先日無理に早めの夕飯に出たけれど、おいしくて一番お気に入りだった居酒屋が閉店しており、愕然としてしまった。ここの日本酒飲み比べセットが好きだったのに。あと、鶏天も。

 お酒を飲む機会があると嬉しい。強くはないが酔っぱらってフワフワしている状態が好きだし、バカみたいな話で笑い崩れている時間は何より楽しい。だが良いことばかりではない。緊張しいなので酔ったら陽気になれないかと期待したり、カラ元気を振り絞るために酒の力を借りたりすることも多くて、結局翌日には落ち込む場合も多かった。泥酔して迷惑をかけてしまい、呆れられて情けない思いを味わった経験も少なくない。それに酒を飲んでも資質が変わるわけじゃないから、結局面白い人間にはなれないな、とへこんだり。お酒に過度の期待をしすぎていたのかもしれない。

 もちろん純粋に酒の場が好きな友人と、楽しく過ごした良い思い出も多い。ありがたいことだ。めちゃくちゃな酔い方をして、翌日には(これは……、二日酔いで死ぬんじゃないか?)と思うような体験もしつつ、十二分におつりがくるような楽しい時間を過ごしてきた。そもそも飲んでいる最中に、これ以上飲んだら収拾がつかないとわかっているのに、(ヘッ!今が楽しけりゃいいや!)と判断したのは自分なので、翌日頭痛で苦しんでも仕方ない。そういうお調子者の人間なのだ。

 以前、地方在住の男性作家のFさんが上京した際、友人たちで集まって新宿で飲んだ。こういう時にMさんという飲み友達の女性が来ていると、変な共振のようなものが起こり、訳のわからない酔い方をしてしまうのだが、この時もそうだった。テキーラを2杯ほど飲んだのがてきめんに効いたようだ。

 この夜のことは断片的な記憶しかなく、翌日にはみんなで飲んでいた店の情景や、タクシーから降りて家の方向へ歩いている一瞬の記憶くらいしか浮かばかなった。しかししばらく必死に考えていたら、不意にある場面を思い出した。わたしがゲラゲラ笑いながらFさんを羽交い絞めにし、Mさんが楽しそうにエーイエーイと気合を入れつつ、Fさんの腹にパンチを入れていた。Fさんは「うわ〜」と言いながら、満更でもなさそうな様子だった。

 まさか?!と思ったが、偽の記憶にしてはあまりに素っ頓狂だった。恐る恐るFさんに連絡して、こんな失礼をしなかったか確認してみると、確かにやらかしていたらしい。Fさんも酔っていたので、どうしてそうなったかは覚えていないとのことだった。

 後日、また酒の席でMさんと一緒になったとき、「そういえば覚えてる?」とこの夜の出来事を話した。Mさんは「嘘!全然覚えてない!」と心底驚いていた。こんなとんちきな出来事も記憶から飛ぶほど、お酒まみれではありつつ、楽しい時期だったなあと思い出す。

『28DAYS』

『28DAYS』

監督:ベティ・トーマス
脚本:スザンナ・グラント、ヴィゴ・モーテンセン
出演:サンドラ・ブロック、スティーヴ・ブシェミ

 女性監督ベティ・トーマスによる作品。小品ながら人間観察に優れたヒューマンドラマなので、未公開に終わったのはもったいない。たとえば日本でいうなら『クワイエットルームにようこそ』(07年)のような、笑いつつも深刻な心の闇を感じる映画に仕上がっている。現在、DVDか配信で鑑賞できる。
 コラムニストのグエン(サンドラ・ブロック)は、恋人のジャスパーと毎晩飲んで騒いでいる。しかし姉の結婚式にも泥酔した状態で出席し、せっかくの式を台無しにしたあげく事故を起こしてしまう。グエンはいやいやながら、アルコール依存症のリハビリ施設に28日間入所することになる。

 サンドラ・ブロックなのでちゃきちゃきしたコメディタッチである。しかし端々にのぞく依存症の抜け難さや、リハビリ施設にいる仲間たちとのヒリヒリした関係性がとてもリアルだ。アルコール依存症患者にとって施設を出ることは完治ではなく、そこから毎日が「今日もアルコールに手を出しませんように」という、死ぬまで続く苦しい戦いの日々となるのは、もっと世間に知られるべきだと思う。お酒を楽しめているうちはいいが、手放せなくなったら危ないという自戒も込めて。

『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』

『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』

監督:トッド・フィリップス
出演:ブラッドリー・クーパー, エド・ヘルムズ, ザック・ガリフィアナキス

 お酒を飲んで記憶を飛ばす楽しさを、真っ向から描いたドタバタコメディ。バチェラーパーティーの夜に、強いアルコールと悪ふざけで盛られたドラッグの影響で、記憶をなくしてしまう4人の男。朝起きると結婚式当日なのに花婿の姿が見当たらず、残された仲間はどこではぐれたかも思い出せない。二日酔いでむかつく胃と頭痛を抱えながら、男たちの失われた記憶を辿る珍道中が始まる。

 正体をなくすほどお酒を飲んだことがない人から見れば、呆れてしまう話だろう。もちろん映画だけあって酒の失敗も壮大で、次から次へと想像の斜め上をいく与太話が展開していく。でも、普通の人間に起こる卑近な記憶飛ばしであっても、翌日に証拠を見つけたときの未知のものに出会った衝撃は似ている。あの愕然としながらも笑いがこみ上げる感覚を追体験できる映画だ。それを狙って酒を飲み始めたら、依存症一直線だとは思うが。

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ライター紹介
真魚 八重子
映画ライター
映画著述業。『映画秘宝』や『キネマ旬報』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
共著に『鮮烈!アナーキー日本映画史1959~1979』(洋泉社)、
『日本映画は生きている 監督と俳優の美学』(岩波書店)、『戦う女たち』
(作品社)などがある。
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