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「断片的回顧録ふたたび」

ここに書き起こしておかないと忘れてしまいそうな、日々の可笑しみと哀しみとその間のこと全部

7月1日

大阪梅田にて、大人計画『ドライブイン カリフォルニア』の舞台を鑑賞。その後、ライターの兵庫慎司さんと梅田にある、中島らもさん行きつけだったBARでアルコール。マスターが、らもさんとの思い出をいろいろと語ってくれるので、ついつい飲みすぎ、気づいたら泥酔。ひとりでビジネスホテルに帰ったはずが、フィリピンパブのソファ席で爆睡。目を覚まして、財布をチェック。スマホや他の持ち物も確認するが異常なし。「味噌汁飲む?」とフィリピンパブの女の子が、具なし味噌汁をサービスしてくれた。店を出るときに五千円を払う。まけてくれた気がする。奇跡的に二日酔いはなかった。本当は一泊で帰るつもりだったが、せっかくなので数日いることを決意。

7月2日

心斎橋に昔、家族で行ったたこ焼き屋があったことを思い出して、行ってみた。場所は微妙に変わっていたが、看板は昔見たものだったので、6個入りを頼んで食べた。懐かしい、とまでは思えなかった。そのあと、人の多さに参って、すぐに梅田に戻り、ホテルで仕事をする。打ち合わせ予定だった編集者に事情を話して、「またですか!」と呆れられる。スマホの充電器をベッドの隙間に落としてしまったので、ベッドを移動させると、たくさんの使い捨てコンタクトレンズのケースが捨ててあるのを発見。気持ち悪い。別のホテルに変更することを決意(東京に帰りなさい)。

7月3日

暑い。灼熱とはこのことか。今朝も梅田の街をあてもなく散歩。アーケード内をやっと迷わないで行き来できるようになってきた(東京に帰りなさい)。それにしても電車も地下街も本当に迷う。大阪に住んでいる方々は、この複雑な街のルールをすべてマスターしているのだろうか。とにかく雑多で、情報量が過多。ただ、この雑多は嫌いじゃない。特にお気に入りは大阪第三ビル。昭和のまま、いや昭和がまだ来ていない可能性すらある、その風情は歩いていても安心するほど。変わらないで大阪第三ビル。早めに新しいビジネスホテルを探して、チェックイン。ホテル近くの立ち食いうどんがうまい。早く寝よう。そして明日こそ東京に帰ろう。

7月4日

梅田のラブホ街を調査(東京に帰る話はどうなった)。渋谷もそうだが、ラブホ街には突然、神社がある気がする。そして神社のエリアだけ、空気が澄んでいる気がする。ラブホ街に、いい居酒屋を見つけた。旅先では食べログが便利だ。まだ開店前の店の前で、食べログを検索すると大不評。大不評すぎると、それはそれで行きたくなってしまう。ビールの値段が、昼間に買った綾鷹と同じ値段だった。大不評のわりにはいい店。結果もう一泊(だろうな)。

7月5日

品川に戻る(やっとか)。

7月6日

とある映画の試写会に。作品はとても面白かった。ただ、監督が知り合いで「とても面白かった!」と言うと、「どんな風に!」と深掘りされ、フリーズ。すぐにまとまって、適切な言葉を返せる人が本当にうらやましい。

7月11日

試写会の感想を監督にLINEしたが、一日既読にならず、気をもむ。
梅田のフィリピンパブから、絵文字まみれの営業メールだけは届く。ちぎっては投げ、ちぎっては投げしても届く。

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ライター紹介

燃え殻
テレビ美術制作会社企画、小説家、エッセイスト
1973年神奈川県横浜市生まれ。都内のテレビ美術制作会社で企画デザインを担当。2017年、『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説デビュー。
2021年3月、書籍『夢に迷って、タクシーを呼んだ』刊行。

【Twitter】 : @Pirate_Radio_
【Instagram】 : @_pirate_radio_
熊谷菜生
タイトルデザイン
岩手県出身。グラフィックデザイナー。主に広告や書籍のAD、デザインなど。
『相談の森』『すべて忘れてしまうから』『夢に迷ってタクシーを呼んだ』(著者:燃え殻)の装丁を担当しています。

【Twitter】:@nao_qm
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