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「断片的回顧録ふたたび」

ここに書き起こしておかないと忘れてしまいそうな、日々の可笑しみと哀しみとその間のこと全部

6月1日

今年の正月に読もうと思っていた小説を、まだ一行も読めていない。
今年も半分が終わってしまった。

6月3日

中目黒のジビエ専門店で、おかざき真里さんと週刊SPA!の担当編集Mさんと会食。漫画「あなたに聴かせたい歌があるんだ」の打ち上げ。しかし話は、親と子についての話に終始する。ここ数日、SNSで物議を醸しているあれやこれやの話から、そんな話になった。おかざきさんも僕も、親との関係についてはそう簡単ではなかった。この案件については、きっとほとんどの人にとって、いろいろと言いたいことがある事案だと思う。
「いつか私は描こうと思っている」とおかざきさんが言った。僕もいつか書こうと思っている。そのとき本当の意味で、僕はきっともう引き返せないということになるんだろうな、と思っている。

6月10日

ディズニープラスで、最初に書いたエッセイ「すべて忘れてしまうから」がドラマ化することが、やっと発表になった。「ディズニープラスでドラマ化!」というパンチが効きすぎたワードは、いままでになく反響を呼んだ。僕とは違って、人生を真面目に着実に生きている妹が「エラい!」と褒めてくれた。もう思い残すことはない。

6月17日

ダイレクトメッセージを人に管理してもらっている。「会いましょう」「あれはわたしのことですね」「返信をください」「新宿で待っています」「謝罪してください」「今日、死ぬかもしれません。連絡ください」と、こちらが原稿を書いたり、ラジオ番組を収録をしていたり、またまた原稿を書いて四苦八苦している間に、律儀にずっと自分語りのメッセージを送ってくる人が6名いる。1名じゃない凡庸さに、それぞれの人に気づいてもらいたい。あなたのやっている面倒は結構凡庸な面倒ですと気づいてほしい。スケジュール管理してもらっている人に日々削除してもらいつつ、いままではブロックだけはしてこなかった。極端な行動に出られても困ると思ったからだ。
ただその6名は、この記事もきっと読むので、この場を借りて宣言しておくと、これ以上はどんな内容のダイレクトメッセージ送ってきてもブロックさせてもらう。
わかってほしい。昨日「返信がないと死にます」というメッセージが二件続いた。どんだけ自分勝手でどんだけ「死」という言葉を軽視しているのか、そこにこそ想像力を使って考えてもらいたい。

6月19日

PPVで那須川天心vs武尊の試合を観戦。
煽りVを観た時点で、涙が溢れてしまって困った。昔、PRIDEを観ていたときの感覚を思い出した。
人生を賭けて戦う姿は真に美しい。美しさは残酷をともなう。全試合が終わったあと、家の周りをイヤフォンをして、PRIDEのテーマをかけながらひたすらぐるぐる歩いてしまった。それくらいには興奮した。

6月20日

小説「湯布院奇行」のサイン本作り。この出版不況の中で、本当にありがたい。こういう状況が長くつづくとは思えない。二度とないかもしれない。同じくらいの時期に書き始めた人と先日メールをした。彼はもう書くことをやめている。そのとき、彼からありがたい言葉をもらった。その言葉は、まだここには書けない。この仕事を辞めるとき、きっと思い出す言葉だと思う。

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ライター紹介

燃え殻
テレビ美術制作会社企画、小説家、エッセイスト
1973年神奈川県横浜市生まれ。都内のテレビ美術制作会社で企画デザインを担当。2017年、『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説デビュー。
2021年3月、書籍『夢に迷って、タクシーを呼んだ』刊行。

【Twitter】 : @Pirate_Radio_
【Instagram】 : @_pirate_radio_
熊谷菜生
タイトルデザイン
岩手県出身。グラフィックデザイナー。主に広告や書籍のAD、デザインなど。
『相談の森』『すべて忘れてしまうから』『夢に迷ってタクシーを呼んだ』(著者:燃え殻)の装丁を担当しています。

【Twitter】:@nao_qm
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