こんな時間にかけてる電話 第12回
23時54分。この世界の何処かから聞こえる、誰かと誰かの真夜中の通話劇。
ひとり暮らしの姉と、実家の弟
「はい、もしもし」
「ああ、姉ちゃん?」
「おー。どうしたの、珍しい」
「珍しいじゃないよ。何年振りだって話」
「ごめんごめん、なんか忙しくてー」
「ねえ、母ちゃんからのLINEって見てる?」
「え、ごめん、全然見てない」
「まじかよお。もう、ちょっと、ちゃんと見てよ」
「えーなに、どしたの?」
「今これ、イヤフォンで通話できない? すぐ読んでほしいんだけど」
「ええ? そんな急ぎ?」
「うん。今見てほしい」
「えーちょっと待って、Airpods繋ぐから」
「うん、頼むわ」
「えーっと、はい。で、なに、LINE? ちょっと待ってね」
「うん」
「えー、お母さん、お母さん……。どこだ?」
「姉ちゃんそんなにLINE溜めてんの?」
「わたし、LINEとかメールの返事苦手なんだよね」
「それ、友達に嫌われない?」
「あーよく注意される。でも大事な連絡こそさあ、なんか既読無視しちゃわない?」
「まじで信頼なくすからやめたほうがいいよ、それ」
「彼氏みたいなこと言わないでよ」
「え彼氏できたの?」
「あー、今はいない」
「前はいたってこと?」
「うん」
「あらまあ。いつ?」
「半年くらい前」
「えーなんで別れたの。どんな人?」
「会社の上司」
「上司!? まじか、すげえな姉ちゃん」
「凄くはないよ」
「なんで別れたの?」
「えー、返事が遅いって」
「ほら、やっぱ返事遅いせいじゃん。むちゃむちゃ原因になってんじゃん」
「でもさー、連絡とか面倒臭くない?」
「いや、面倒だけど、それにも限度があるって。大事な人には返さなきゃだよ」
「そんな暇じゃないもん人生ー。他人優先にしてたら、なんもできなくなっちゃうよ?」
「母ちゃんみたいなこと言うなよ。連絡なんて五分、いや、三分じゃん」
「いや、文面考える時間入れたらもっとかかるって。疲れるし」
「わからなくないけど。でももうほんと、姉ちゃんもいい大人なんだから、返しなさいよ」
「はい。んで? えーっと、お母さんのLINEね。はい」
「うん。あった?」
「げ、36通だって」
「どんだけ溜めてたの?」
「わかんない。読むから待って」
「うん」
「……」
「……」
「えっ、これ、なに?」
「なんて書いてあった?」
「え、なんか、『第一章 タカシとアタシ』」
「そうな」
「どゆこと?」
「まあ、そのままだな」
「え、ケータイ小説……?」
「そうなるな」
「待って。自分の書いたケータイ小説を、子どもに送ってきてんの?」
「まあ、そうと言えばそうだな」
「しかもこれ、三十章まであるんだけど」
「三十で完結だからな」
「これ完結してんの!?」
「まあな」
「は、こわ。え、いつから送られてきてた……?」
「二年前くらいじゃない? 日付見ればわかるっしょ」
「まじ? わたし、二年も放置してた?」
「そういうことだな」
「まーじか」
「姉ちゃん、浦島太郎みたいな状態だね」
「うん。まーじでびっくりしてる。お母さん、どうしちゃったわけ?」
「いや、それがね」
「うん」
「それ、実話なんよ」
「……は?」
「タカシと母ちゃんが、出会って、結ばれるまでの話なんよ」
「え、どういうこと? てか、タカシって誰?」
「母ちゃんの再婚相手」
「は!? ちょ、は!? なんて言った!?」
「再婚相手。母ちゃん、再婚すんだって」
「ええ!? え、父さんは?」
「離婚するって」
「はあ!? それ、父さんなんて言ってんの!?」
「『仕方ないわな』って」
「いや寛容。懐深すぎ。包容力の塊か」
「ね。さすが父さんだわ」
「えー、ちょっと、全然ついていけない。まじで? まじなの?」
「そうなるわな。知らなかったんだもんな」
「話が進みすぎてるって。え、これ、夢?」
「いや、現実。姉ちゃんがほったらかした二年間の我が家のリアル」
「キッツ。まじ。あんたはどうしてんの?」
「いや? もう俺も諦めてるっていうか、いいやってなった」
「そんな投げやりな。もう決定なの? 私がそっち行ったら、離婚止まったりする?」
「わかんない。姉ちゃんずっと返事しなかったから」
「いや、そんな大事な用事なら電話かけてくればいいじゃん!」
「電話もしたって言ってたよ?」
「え、嘘、いつ?」
「知らないよ。返事がないから何度もかけたって言ってたよ」
「そんな見逃すかなあ。えー、てか離婚がもう、ショックすぎるんだけど」
「いや、そうだよね。今もすげーことになってるけど」
「何、まだあんの?」
「母ちゃん、離婚する前からタカシもこの家に住まわせようとしてる」
「はあ!?」
「いや、まじ。それで、姉ちゃんの部屋、処分しようとしてる」
「待って待って、いろいろおかしい。これ、そのための電話ってこと?」
「そう」
「そうって、あんた、止めた?」
「そりゃ止めたよ。おかしいだろって。でも本人から返事ないからって」
「えーひっど。まじで? わたしの部屋、ちょー散らかってなかった?」
「うん。家事代行に頼むって」
「最悪じゃん。他人にあの部屋見られたら、まじで死ぬんだけど」
「ちなみにBL類は俺がほとんど別の場所に移した」
「ちょっとー! まじで助かるんだけど! やるじゃん。すごいじゃん」
「てかもう十年くらい帰ってないんだし、そろそろ捨てていいでしょあれ。普通家に置かないよ?」
「ごめん。でもまじで思い出だから捨てないで。そのまま残しておいて」
「わかった。でももう帰ってきても、たぶん姉ちゃんの部屋はタカシの部屋になってるから」
「マジでタカシって誰なの。なんでそれ許されてんの」
「さっき姉ちゃんが言ったじゃん」
「なんて?」
「他人優先にしてたら、なんもできなくなっちゃうって」
「そこ? それお母さんに当てはめたら大変なことになっちゃうじゃん」
「もう実際に大変なんだけどね」
「そうだよなあ。ちょっと、えー、返事したいけど、親の書いたケータイ小説読むの、きっつー」
「しかもノンフィクションだからね。俺も二度ほど吐いてる」
「吐いてるのにその落ち着きっぷりはヤバいって。両親エキセントリックすぎておかしくなっちゃってるって」
「やっぱりそうかな? 俺も家を出るかなー」
「そうしなよ。しばらくこっちに越してきてもいいからさ」
「うんーちょっと考えるわ。とりあえず、母ちゃんのLINE読破と連絡よろしくね」
「あーうんわかった。ありがと連絡」
「おすおす、またー」
次の誰かの23時54分へ続く



