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「夜読む日記」

あいつの100倍幸せになる

過去にあった嫌のこと、過去に言われて悲しかった事が勝手に心の中でリプレイされることがある。
悔しくて泣いた事、恥ずかしくなって顔が真っ赤になる感覚、悲しすぎて血の気が引く感じ。
ずいぶん前に終わったことなのに何度も何度も思い出しては悲しくなったり悔しくなったり、ベッドの中でじたばたしたりする。

私は昔からネガティブな人間で、こういう心のグルグルとずっと付き合っている。
よく「忘れちゃいなよ」とか「もう終わったことだよ」とか言ってもらったりするんだけど、しかしダメなのだ。これは思考の癖みたいなものだと思う。
時間軸では過去のことなのだが、過去からずっと記憶をリプレイし続けていることによって私の中ではまだまだぜんぜん新鮮な怒りなのである。
あの日あったことを昨日のことのように話せるし、そのたびにカッカすることが可能だ。不便なんだか便利なんだかわからない。

ハッピーに過ごした方がいいことはわかっているのだが、もはやこれは体質なのだろうなと思う。
太りやすいとか、すぐお腹を壊しちゃうとか。そういうのと同じように一生付き合っていかなければならない自分の一部なのだ。

●昇華
であればうまく付き合っていかねばいけないなと思ったのが20代のはじめあたり。
当時恋愛関係で猛烈に嫌な体験をした私は、毎日毎日イラストを描いては狂ったようにSNSにアップしていた。
これは高校時代に家庭科で習った「昇華」を試してみようと思ったのが始まりだ。

昇華とは不快な感情やストレスなどのネガティブな感情を芸術やスポーツに転換して精神的な安定を保つこと…らしい。
私は大変なドケチなので、傷ついたり損をした時に「ただで起き上がる」というのがものすごく嫌だったのだ。
折角傷ついたのだから何かの形にしてこの世にその痕跡を残さなければならない。ような気がしたのである。

当時のSNSはほんわかしたイラストであったり美しいイラストが流行っていたのだが(まだバズなどという言葉もなかった)私はその正反対のドロドロとした感情丸出しのイラストを描いてとにかくアップしまくった。
描けば書くほど筆が乗り、そしてある日なんとなく「イラストにセリフもつけてみるか…」と思いついた。
泣いている女の子にネガティブなセリフを付けた一コマ漫画のような形のそのイラストは、人生で初めてバズった作品となった。

●自分だけではないという嬉しさ
セリフのあるイラストは拡散されて色んなコメントがついた。
勿論ネガティブな作品なので肯定的な意見ばかりではなかったが「わかるなあ」とか「あるある」というコメントがつくたびに
「こんなにドロドロした気持ちで日々過ごしているのは自分だけではないのか」ととても安心したことを覚えている。
当時、自分はこの世で一番汚い気持ちを持っている化け物みたいだなと思っていた。
周りの皆はさっぱり生きていて、毎日がキラキラしていて、どうして自分はそうなれないんだろうと沈んでいた。
でも「わかる」と言ってくれる人がいたのだ。

嫌なことを上手く忘れられないのはじぶんだけじゃなくて、しかもそれって変な事じゃない。
みんな平気な顔をして街を歩いているけれど、でもきっとそれぞれがそれぞれの地獄を持っているのだ。
自分って全然特別じゃなくて、それってとても嬉しいことだなと思った。

●ネガティブな絵をたくさん描く
そこからセリフのついたネガティブなイラストをたくさん描くようになった。
私がネガティブな感情に救われたように、今どうしようもない気持ちの誰かに「同じ気持ちだよ、ここにいるよ。」と伝えたくなったのだ。
救済したいとか、元気になってほしいとか、そんな大それたものじゃなくて「わかるよ」「そう思っちゃうのってぜんぜんおかしくないよ」って、どこかの誰かに届けたいなとイラストをポイポイSNSに投げた。

私は幸せになりたいし、私の絵を見てちょっとでも「わかるな」って思った人には幸せになってほしい。
誰にも見つからないところで泣いている人は優しい人だから、幸せになってほしいのだ。
無下に扱った人なんかより100倍も200倍も幸せになってやるんだ。
幸せになる理由が、生きる理由が、そういう負の感情だっていいじゃない。と思う。
ドロドロしていたっていいのだ。

手始めに今日もおいしいものを食べよう。それが無理ならちょっとでも好きな服を着たり、好きな雑貨を集めたりさ。
1つ1つ積み重ねて、いつか超幸せ~って言えるようになろうよ。嫌味なアイツが悔しがっちゃうぐらいに。
解決方法はいつも自分だけが知ってる。いつもと一緒でいいよ。代り映えなくてもいい。
今日よりちょっとマシな場所に進もう。
ウチらきっと幸せになろうね。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【X】@cchhiiaakkii
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