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「夜読む日記」

大人なんかいない。でもいい大人になりたい。

私は現在週に2回京都芸術大学で非常勤講師をしている。
ひょんなことから依頼を受け、もう5年目になるだろうか。
私が生徒たちに教えているのはイラストレーションで、当たり前だがイラストレーションの授業に決められた流れや教科書があるわけではなく、毎年毎年手探りで授業をしている。

これがなかなか難しい。
手探りだが、手は抜きたくないのだ。
せっかく努力して入った大学で、せっかく学費を払って、せっかく私の授業に貴重な学生時代の時間を使ってくれているのだ。
どうせなら1つだけでも将来に役立つことを伝えておきたい。聞き流してくれてもいいし、毎回真剣じゃなくてもいいからどこかで私の言ったことをほんの少し、端っこだけでも覚えておいてくれたらなぁ。なんて思っている。

当たり前だが1年経つと生徒が入れ替わり、その度に1つ私と教え子の年齢は開く。
私は今年34歳になる。
生徒にとって私はどんどん「年上の」他人になっていくのだ。

若い頃、大人って完璧で何もかも正しいと思い込んでいた。
歳をとった先生ってなんとなく怖かったし、話しかけるハードルも高かった事をよく覚えている。実際怖かったし、相手にされないことも多かった。
幼い頃の私は空気を読むことが下手だったので、勇気を出して話しかけても見当違いだったりズレていたようでよく怒られた。
私が小さかった頃って学校にまだギリギリ体罰とかが残っていて、普通にげんこつとかビンタとかされたなあ。
でも「完璧な大人たち」の思い通りになれなかった自分が悪いのだろうなーなんてぼーっと考えていた。

で、ぼーっとしたまま歳だけを重ねて20歳になる。成人だ。
成人して思ったことは、子供と大人ってゲームの【レベルアップ→進化】みたいにババーンと変化するものじゃないんだということ。これは前にも同じようなことを書いたかも。
19歳から20歳になったからっていきなり仕事がバリバリにこなせるようになるわけでもないし、正しい道を確実に選択できるわけでもない。
「なんかヌルッと成人って枠組みに入っちゃったなあ。」なんて思って、想像していた大人よりに全然しっかりできていない自分に焦った。

焦ったけど、大人というステージ立つと視野が広がる。
ぐるりと周りを見渡すとあら不思議、大人って意外としっかりしていない。
というか、大人なんて生き物は初めから存在しなかったのだ。衝撃!
歳をとって大人っていう種類にカテゴライズされてしまっているから、大人っぽくしっかりしたフリをしているだけで、みんな10代や20代の延長線上を歩んでいる。
年齢や立ち位置のカテゴライズって人間の培ってきた長い歴史の中で、なんとなく決まっていったルールなのだな。と思った。
便利だもんね。大人とか子供とか名前をつけるとさ。

だからみんな意外と大人をやっているように見えて大人ではない。
間違えることもあるし、押し付け合うこともあるし、理不尽なことをしてしまう人もいる。
大人と同じカテゴリに入ってはじめて「ああ、過去にあったあれは理不尽なことだったんだな」とか「あの人は怖く見えたけどちゃんと子供のことを考えて厳しくしてくれていたんだな」なんて理解できることがたくさんあった。

生徒と向き合う時、私は「歳を重ねるだけでは偉くはならないんだよなあ。」なんて思う。
先生って呼ばれたり、大人として接してもらえたり、またこんな仕事をさせてもらっているからチヤホヤしてもらえる場所に時々出くわすんだけど、私、全然完璧じゃないし偉くない。
人と接する上で忘れてはいけない事だなと思う。
先生なんて呼んでもらっているが私の描くイラストが生徒には描けないように、生徒の描いている絵は私には絶対描けない。
それってすごいことだ。大尊敬だ。

年下だからといってバカにしたり下に見たりする人間にはならないようにしなくちゃ。
私と生徒には生まれたのが早いか遅いかの違いしかないからね。
常にリスペクトをする。私と生徒の間にあるものは、あくまで人間と人間の対等な関係なのだ。

それだけは本当に、何があっても死ぬまで忘れたくないなあって思う。
きっとこれからいろんな事が彼ら、彼女ら一人一人の人生に起こっていく。
いい人ばかりに出会えるわけじゃないと思うけど、そんな時に「でも悪い人ばかりでもないんだよなあ」なんて思える思い出に少しでもなれたらなあなんて、大袈裟だけど思っているわけです。

それでみんなが卒業したあと、大人のカテゴリに入った時に周りを見渡して、ああ、案外みんなちゃんとしていないんだなあって気づいて笑って、それからまた彼らが年下に大人っぽく振る舞ってくれたらな、なんて思っちゃう。
そうやって優しさが循環していけばいいなあ。
みんなの人生にいい事がたくさんあればいいな。とか、大人ぶってここにのこしておきます。
がんばれ子供達。

私もちゃっかり大人のふりをして、明日も踏ん張っていくよ。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【Twitter】@cchhiiaakkii
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