樹の恵本舗 株式会社 中村 樹の恵本舗 株式会社 中村
ONLINE SHOP
MENU CLOSE
トップ画像

「夜読む日記」

悪(ワル)になることのススメ

別に滅茶苦茶真面目に生きているわけではないけれど、我々は日々何かをこっそり我慢している。
例えば「今月はお金使いすぎちゃったから、がっつり食べたいけど今夜は節約するか~」とか、「甘いものを食べたいけど体重増やしたくないからやめておこう」とか「ゲームしたいけど明日は朝から仕事だから今日は諦めよう」とか…
この世界に生きている限りみんな気づかないうちに何かを制限して、小さな我慢を繰り返しているのだ。
そうしてキリキリ働いたり勉強をしている中、なんとなくうまいさぼり方を忘れてしまうことがある。

かくいう私も実はさぼるという行為がかなり下手な部類だ。
理由はフリーランスのイラストレーターになるぞと決意した時、勤めていた派遣社員をスパッとやめ、当時実家に住んでいた私は24時間家に閉じこもり「ああでもない、こうでもない」とパソコンに向かってウンウン作戦を立てていた。

私は自分の人生設計を考えるのが大変下手で、「このまま派遣社員として人生を送ってもいいかも!夢とかも特にないし!実家最高だし!」と思いながらのほほんと生きていたのだが、なんとなく趣味としてイラストをギャラリーに持って行って展示をしている中でそれが面白くなってしまい「あれ…?イラストレーターになるのもアリなのでは…?」というこの世のすべてをナメくさったフワフワした状態で退職してしまったのだ。
この時の私の貯金は200万円。20代前半の実家住み女が実家でお暇生活を送るにはまあまあ余裕のある貯金額だったが「明確な収入がなくなる」というのは予想以上に不安になるものだった。
不安すぎて眠ることができない日々が続き、やっと眠れたと思ったらオネショをしてしまったこともある。大人なのに。ショックだ。
さらに、イラストの技術も知識もないままなんとなく「絵を描くのが楽しい~」と思っていた私は、このころ初めて同年代や年下に魅力モリモリの絵を描く人がたくさんいることに気づいてしまい、ただただ焦った。

ヤバい。不安すぎる…。

という訳で何とか同年代の絵描き達に追いつくべく、私は暇な時間をすべてイラストについて考える事に当てようと決意した。イラスト制作をするために出遅れた20年間を取り戻すには、人の3倍努力すれば何とかなるんじゃないか…?なんてよくわからない方程式を自身で導き出し、とにかくイラストを描いて描いて描きまくった。
とにかく休んではならない。絵を描いてこなかった空白の20年間を埋めるには友達と遊んだり息抜きをしたりする時間はないのだ。
とにかく動かねば、絵を描く無職からただの無職になってしまう…
という訳でがむしゃらに活動を行い、たまたま当時流行り始めていたSNSをがむしゃらに頑張った甲斐あって少しずつではあるが絵の仕事をもらえるようになり私は現在このコラムを書くに至っている。

そしてこの時に考えた「休んではならない」という自己暗示が30代になって実家を出た今でもジワジワと私を焦らせ、少しでも休憩すると「こんなにさぼっていてもいいのか…?」「今こんな余裕をぶっこいていていいのか…?」とソワソワしてしまうようになった。
これは精神衛生上よろしくない。

というわけで無理やりサボる「ワルになる日」を日常に組み込むことにした。
SNSではワルワルデーと呼ばれていたりするらしい。

ワルワルデーは家事も仕事も放り出して、朝から好きなものを食べ、好きなことをするのが義務だ。何もかも一旦忘れてソファーや床でスナック菓子を食べてもいい。ワルすぎる。
夫も巻き込んで「仕事があるからまた今度」にしていたことをどんどんやっていく。
気になっていた店のスイーツを買い、「これがあったら便利かも」と思っていたけど「まあ無くてもいいか」と諦めていた雑貨を買い、なんとなく我慢していた少し高めの惣菜を買い、コンビニで高いアイスなんかも買っちゃって、家でゴロゴロしながら「時間があったら観よう」と思っていた映画をネトフリで観る。
我慢していたゲームをする。読まずに詰んでいた漫画を読む。
ああ楽しい。なんて愉快なのだろう。こんなにだらだらしたのは久しぶりだ。
やばい。凄く生きているって感じがする。

元々在宅で仕事をすることが多かったが、コロナ禍になってより家に篭るようになり、仕事とプライベートの境界がより曖昧になっていたことに気づいた。

知らず知らずのうちにしなくてもいい我慢をしていた気がする。
少しでも気を抜いたら、私の絵を好きと言ってくれている人たちに見放されてしまうんじゃないかとういう、自分な中にある勝手な恐怖に支配されていた気がする。
その根本の原因って多分「お金がなくなっちゃったらどうしよう」なんだけど、そもそもそこに恐怖することが間違っていたのかもしれない。
もちろんお金は大切だが、お金があるから豊かなのではなくて、あくまでお金は豊かさを手伝ってくれるアイテムに過ぎないのだ。

必死に働くことは大切だけど、それに囚われて「自分の為に贅沢をする」事を忘れてはならなかった。

染み付いてしまった焦りや我慢はなかなか治せるものではないけれど、こうして自分を甘やかす時間を作ることはできる。
まだまだ休むことに抵抗はあるが、少しずつ自分に贅沢をさせることに慣れていきたい。
自分の本当の限界に気づけたり、自分を本当に本気で甘やかしてあげられるのは自分だけなのだ。

自分を甘やかして可愛がってあげるワルワルデー、皆さんもぜひ実践してみてはいかがだろうか。
少しワルい子になるだけできっと世界は少しだけキラキラ見えるはずだ。

Product

ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【Twitter】@cchhiiaakkii
Back