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1話イラストB

こんな時間にかけてる電話 第14回

23時54分。この世界の何処かから聞こえる、誰かと誰かの真夜中の通話劇。

失恋代行業者と彼氏

「あ、もしもしー」
「はい」
「南舞浜さまのお電話でよろしいでしょうか?」
「そうっすけど」
「突然のお電話、申し訳ございません。わたくし、失恋代行サービス・エンマンズのスタッフの、鯉原と申します」
「え? え? なに?」
「失恋代行サービス・エンマンズの、鯉原です」
「あ、えーと、営業電話?」
「いえ、今回は南舞浜さまが本件の対象となっている、ということでご連絡させていただいております」
「あーごめんなさい、ちょっと今、サッカー試合中なんで」
「え、選手、ということでしょうか?」
「そんなわけないだろ。テレビだよ、テレビ。中継」
「ああ、失礼しました。観戦中申し訳ございませんが、五分ほどお時間いただけないでしょうか?」
「いやダメだって。試合見てんだから」
「それがですね、緊急かつ重要な内容かと思いまして」
「ええ? じゃあ結論だけ言ってよ、とりあえず」
「はい。現在、南舞浜さまとお付き合いされておられます方から、別れたい、という旨でご相談をいただいております」
「はい? え? どういうこと?」
「はい。交際相手さまからですね、もう、恋人としての関係は終了したいと、希望を伺っております」
「いや、え? 何、ふざけてんの?」
「申し訳ありません、大真面目でございます」
「え、てか、それ、なんで俺に直接言わないの?」
「はい、理由等も伺っております。このまま5分ほど、お電話続けてもよろしいでしょうか?」
「いや、だから、本人じゃないのが全然意味わかんないんだけど」
「ご混乱をお招きして申し訳ございません。順を追って説明させてください」
「ええ?」
「まず、南舞浜さまがご交際されているお相手のお名前を確認させてください。下のお名前をお伺いできますか?」
「え、若葉子」
「続いて、その方の生年月日を教えていただけますか?」
「ああ? ……ちょっと、わかんない」
「……わかる部分だけでも結構ですので、教えていただけますか?」
「えー。たしか、6月で、3歳下だから、2001年生まれとか」
「何日かまでは、わからないでしょうか?」
「あー覚えてない。あんまそういうの得意じゃないから」
「ありがとうございます。何年お付き合いされたか、ざっくりでも構いませんので、教えていただけますか?」
「あー、えーっと、2年くらい」
「ありがとうございます。確認が取れましたので、進めさせていただきます」
「あ、え、これ、本当に別れんの?」
「はい、南舞浜さまがご納得できなくとも、失恋成立となります」
「いや、普通にイヤなんだけど。なんなのこれ」
「申し訳ありませんが、お相手様からはすでに交際継続断固拒否の旨、ご連絡をいただいております」
「は? なんで?」
「そういう態度が原因ではないでしょうか」
「は?」
「失礼しました。えー、交際継続が難しい理由について、お相手様のコメントを読ませていただきます」
「なんだよコメントって」
「言葉遣いが荒い」
「……」
「暴言をすぐに吐く。下ネタでしか笑いを取ろうとしない。テレビに映る人に悪態をつく。こちらの誕生日を覚えていない。スポーツの中継中に話しかけるとキレる。何かとすぐにマウントを取ろうとする。テレビゲームですら負けると不機嫌になる。怒るとすぐに物を投げる。グラビアアイドルのSNS投稿にコメントする。壁に開いた穴を修理すると言ったまま放置する。公共料金の支払いをいつの間にかこちらがすることになっていて、一年以上立て替えたままでいる。金がないからと外出を嫌がる。そのくせネットでスニーカーを買ってい……」
「待って待って」
「はい、なんでしょうか」
「何その悪口。てか、舐めてんのこれ?」
「いえ、舐められていると感じる時点で、南舞浜さまが図星と思われている証拠ではないかと」
「言いたい放題じゃねえかよ」
「実は、別れる理由は約1200個いただいておりまして、まだ120分の1くらいしかお伝えできておりません」
「多っ。いいんだよそんなの。直接話すってんだよ」
「いいえ、すでに南舞浜さまの番号は着信拒否され、あらゆるSNSアカウントもブロックされておりますので、直接お話しすることは不可能です」
「はあ?」
「我々失恋代行サービスは、ご依頼主様の安全を第一に考えておりますので、このように指示させていただいております。申し訳ありません」
「いや、え、てかアイツ、本気で別れるって言ってんの? なんで?」
「別れる理由は先ほどの続きで、残り1190近くありますが、お聞きになりますか?」
「いや、そんなのいらねえって。なんで別れんのかって聞いてんの」
「ですから、その理由が1200ある、とお伝えしております」
「そんなあるわけねえだろ」
「後ほどメールにてお送りさせていただきます」
「いらねえって。やめろって」
「5万字です」
「超大作じゃねえか」
「大変、想いのこもった長文でございました」
「読んだあんたもすごいよそれは」
「ありがとうございます」
「褒めてねえから」
「失礼しました」
「てか、なんであいつは直接言わないの? こんな面倒なことしないで直接言えばいいじゃん」
「それができないほど、威圧的な態度、非論理的な思考、攻撃的な言動に疲れていたと言えます」
「俺、そんなに嫌われることしたわけ? 殴ってないし、浮気もしてないよ?」
「それが理想的な恋人の条件だと思ってるんですか?」
「そうとは言わねえけど、そういう奴らよりマシだろって」
「下だけを見てビリではないことを誇るのは、極めて低俗な人間がすることですよ」
「お前はなんでそんな言いたい放題なんだよ」
「こちとら5万字読んだあとですからね」
「パンプアップ直後みたいな言い方するなよ」
「すぐに筋トレで例えるのも嫌い、と申しておりました」
「くっそあいつくっそ」
「ヘイトが溜まったようでしたら、別れる方向でよろしいでしょうか」
「待って。え、ヨリを戻せる可能性はあるわけ?」
「1200個の別れる理由を全て解消できたら1パーセントくらいあるかもしれません。逆を言えば、1200も解消してやっと1パーセントです。人生はそう長くはありません。あきらめましょう」
「もうお前本当になんなの」
「失恋代行サービス・エンマンズです」
「その円満っぽい雰囲気の名前がいっちばん腹立つんだよ。あと明るい声で言うなよ」
「失礼しました」
「えー、もうなんていうか、ヨリ戻せないならいいやあ。諦めるわ」
「おっ、飲み込みが早い」
「今更褒められてもな。だって頑張っても無理なんでしょ」
「まあ、サッカーも恋愛も、諦めが肝心ですからね」
「聞いたことねえよそんなの」
「では、失恋成立ということで。サブスク各種及び公共料金については来月ぶんから全て名義を変更することとなりますので、またご連絡させていただきます。ありがとうございました」
「はい、なんか、はい。どうも」

次の誰かの23時54分へ続く

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ライター紹介

カツセマサヒコ
ライター/小説家

1986年東京生まれ。2014年よりライターとして活動を開始。2020年『明け方の若者たち』(幻冬舎)で小説家デビュー。同作は累計14万部を超える話題作となり、翌年に映画化。2作目の『夜行秘密』(双葉社)も、ロックバンド indigo la Endとのコラボレーション小説として大きな反響を呼んだ。他の活動に、雑誌連載やラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM 毎週木曜28:00~)のパーソナリティなどがある。

【Instagram】:katsuse_m
【X】:@katsuse_m
こいけぐらんじ
画家、イラストレーター、音楽家
愛知県立芸術大学油画専攻卒業。2010年頃から漫画の制作を始め、「うんこドリル」シリーズ(文響社)のイラストや、OGRE YOU ASSHOLEのアニメーションによるCM制作など、活動の場を広げている。また、バンド「シラオカ」ではVo./Gt.を担当。

【X】@ofurono_sen
【Instagram】guran_g
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