「映画でくつろぐ夜。」 第124夜
知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。
「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」
自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。
■■本日の作品■■
『元禄忠臣蔵』前編・後編(1941年、1942年)
『蜘蛛巣城』(1957年)
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。
黒沢清監督初の時代劇『黒牢城』
6月19日から黒沢清監督にとって初の時代劇となる『黒牢城』が公開となる。キャストが本木雅弘、菅田将暉、オダギリジョー、吉高由里子、宮舘涼太(Snow Man)、青木崇高、柄本佑、ユースケ・サンタマリア、渡辺いっけい、荒川良々、吉岡睦雄と豪華極まりない。
オダギリジョーは黒沢監督の『アカルイミライ』(03年)以来、23年ぶりとなる出演。ユースケ・サンタマリアも同様に『ドッペルゲンガー』(03年)から23年ぶりの再登場となる。菅田将暉は前作の『Cloud クラウド』(24年)から続けての起用だ。筆者は『Cloud クラウド』公開の際に、黒沢清監督にインタビューをさせていただく機会があったが、菅田将暉の芝居の素晴らしさを絶賛されていたので、このキャスティングはかなり積極的なものなのだろうな、という印象を受けた。他にも荒川良々も『Cloud クラウド』に出ていたし、特に吉岡睦雄は『Chime』(24年)、『Cloud クラウド』と3作続けての起用となっていて、『黒牢城』でもあの個性的なハイトーンヴォイスで良い役柄を振られている。個人的には舘様も雰囲気に似合った役で良かった。
内容は基本的に4話のオムニバス形式の推理時代劇となっている。時代劇で推理モノは昔から多い。『黒牢城』は米澤穂信の原作を基にしていて、戦国時代が舞台であり、この江戸以前というのは珍しいのではないだろうか。裏切りに次ぐ裏切りという時代そのものが荒れているので、トリックを巡らせて殺人を犯すという余裕などないのではないか。それもあって本作は異色の印象を受けた。
推理時代小説では、江戸末期から明治が舞台の作品をよく見かける気がする。坂口安吾の『明治開化 安吾捕物帖』は、探偵の結城新十郎が事件を解決する物語で、そこで安楽椅子探偵よろしく勝海舟も登場し事件のあらましを聞いて推理するのだが、毎回外してしまうヘンなシリーズだった。久生十蘭の『顎十郎捕物帳』は、頭脳明晰だが顎がひどく長い異形の顎十郎が主人公なので、いまだに嶋田久作主演でドラマ化してほしいと思っている。それと、岡本綺堂の『半七捕物帳』は明治に入ってから記者の「わたし」が、江戸末期の岡っ引きだった半七に昔話を聞かせてもらうという体裁だった。このシリーズの中に、田舎から江戸という都会に出てきて人の多さにあてられ、槍を使った通り魔になってしまう青年(確か未確保で終わる)の逸話が出てきて、無差別殺人事件は何も現代に限った話ではないのだなと、妙に納得した覚えがある。
閑話休題(長い)。『黒牢城』は4話の推理劇が繰り返され、それがミニマルミュージックを聞いているような心地良さがあった。映画を音楽で例えるのは連想しづらいかもしれないが、個人的にはとても楽しく観られた。映画は戦国時代に荒木村重(本木雅弘)が、織田信長の暴虐さに嫌気がさして謀反を起こし、有岡城に立てこもった一年間を描いている。まだ江戸時代のように藩が整ってはいないので、負け戦による敗残兵が逃れてきて村重の下についていたりして、一枚岩ではない。またこの頃の武士の間の宗教観もあり、南蛮教がいたり、織田信長と死闘を繰り広げた一向一揆の宗徒の生き残りがいたりする。そういった宗教観も本作では背景として根深い。そんな志のバラバラな者たちが村重の下に集う辺りが熱くて、胸を打つ映画だった。
<オススメの作品>
『元禄忠臣蔵』前編・後編(1941年、1942年)
『元禄忠臣蔵』前編
監督:溝口健二
出演者:河原崎長十郎/中村翫右衛門/嵐芳三郎/三桝豊/山路義人/海江田譲二/春岡繁樹
『元禄忠臣蔵』後編
監督:溝口健二
出演者:中村翫右衛門/河原崎長十郎/河原崎国太郎/高峰三枝子/市川右太衛門/山路ふみ子/三浦充子
溝口健二監督作品。『黒牢城』で初めて時代劇を撮るにあたって、黒沢清監督が参考にしたという。広い室内で話し合いを持つとき、複数の屏風を蛇腹にしてつなげ円状の囲いを作るという、そんな風に立てて使うのかと驚くような表現があったりする。日本家屋の複雑な廊下の導線なども面白い。村重の室内と類似したショットもアリ。
『蜘蛛巣城』(1957年)
『蜘蛛巣城』
監督:黒澤明
出演者:三船敏郎/山田五十鈴/志村喬/久保明/太刀川寛/千秋実
黒澤明監督作品。黒沢清監督いわく、「武将同士の会話や室内での対話が多く」て会話劇の『黒牢城』の非常に参考になったとのこと。吉高由里子の演じる側室の千代保が、一向一揆で死に物狂いとなる信者たちの姿を語るシークエンスでの狂乱ぶりが、どこか本作の山田五十鈴とも共鳴しているかもしれない。
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