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1話イラストB

こんな時間にかけてる電話 第13回

23時54分。この世界の何処かから聞こえる、誰かと誰かの真夜中の通話劇。

ホテルのフロントと宿泊客

「フロントでございます」
「あ、もしもし」
「はい、いかがされましたか?」
「あ、すみません、えっと、12505号室の者なのですが」
「はい、小林さまですね」
「あ、はい、そうです」
「いかがされましたか?」
「あの、すみません、このホテルって、大浴場は一個しかないんでしたっけ」
「申し訳ありません、大浴場は地下にある『満天の湯』一つとなります」
「あー、そうですよね」
「いかがされましたか?」
「えっとー、僕、最上階じゃないですか?」
「はい、最上階に宿泊されております。何か、お困りでしょうか?」
「あのー、すごく素敵なお部屋なんですけどもね?」
「ありがとうございます」
「ただ、そのー、バスタブがないじゃないですか」
「ああー、そうですね、スタンダードタイプは、バスタブのないお部屋となります」
「すると、やっぱり大浴場だなーって思うんですけど」
「はい、ぜひご利用ください」
「いや、いいんですけど。はい。ただその、エレベーターがね?」
「はい」
「えっと、これ、4つしかないですよね?」
「はい、そうですね」
「で、今ぼく、最上階にいますけど」
「ええ、1250階でございますね」
「うん。これ、1250階から地下1階まで、エレベーターで降りなきゃいけないんですよね?」
「あ、階段もございます」
「いや無理でしょ。そういう意味じゃないよ」
「失礼しました」
「で、ちょっと、その、エレベーターも無理じゃない?」
「無理、と言いますのは」
「いや、1250階から地下まで、お風呂のために往復するっていうのはさ、ちょっとこう、現実的じゃないでしょって」
「はあ、申し訳ありません」
「いや、謝ってほしいわけじゃないんだけどさ。だって、ほら、部屋の案内にはね、『浴衣は大浴場に行く際にご利用ください』って気軽に書いてあるけども」
「はい」
「でも、1250階で浴衣着て、4つしかないエレベーターをずーっと待って、地下まで行って、やっとお風呂入って、また上がってきたらね、もうその頃には、もう一回お風呂行きたいくらいになっちゃいそうじゃない?」
「ええ、何度でもお楽しみいただければと」
「そんなわけないでしょうが。どういう感覚で造ってんのよこれ」
「申し訳ありません。ただ、スタンダードルームで最上階となると、どうしてもそのような造りになってしまいまして」
「何それは。スタンダードなのに最上階を予約した俺が悪いみたいじゃない」
「いえいえ、滅相もございません。よりお安い値段で、より見栄を張ったお部屋を取りたいお気持ちは理解できますので」
「今ぜったい喧嘩売ったね? 売ったよね?」
「失礼しました。そのようなつもりは毛頭ございません」
「なんなんだよ。てか、他の部屋だったら、バスタブも付いてたわけ?」
「はい。同じフロアの他4部屋はすべてエグゼクティブ・スペシャル・スウィートルームになっておりまして、各お部屋に設置されたプライベート露天風呂、『満天の湯・本物』がご利用いただけます」
「地下が偽物みたくなってるじゃねえか」
「申し訳ありません」
「てかすごいね。他の4部屋ってことは、この部屋以外全てスウィートルームなの?」
「はい。エグゼクティブ・スペシャル・スウィートです」
「その、エグゼクティブなんとかは、満室なわけ?」
「ええ、おかげさまで、ご好評いただいております」
「誰が泊まるのよ、そんな部屋」
「ここだけの話、本日は、ガガ、風、シャラメ、ラマーですね」
「待って、レディー・ガガ、藤井風、ティモシー・シャラメ、ケンドリック・ラマー? セレブの個人情報ダダ漏れじゃねえか」
「ここだけの話、でお願いします」
「凄すぎて誰も信じないよそんなの。よく僕が泊まってるよそんなフロアに」
「そうですね。セレブに憧れた一般人が、よくご利用されます」
「なんか鼻につく言い方するよね、さっきから」
「そんな、滅相もございません」
「え、それで、結局、この部屋だと風呂は、地下しか行けないの?」
「申し訳ございません、そうなってしまいますね」
「えー、だるいなあ。またエレベーター待つのかあ」
「お部屋に上がる際も、エレベーターは、かなり待ちましたか?」
「そりゃあそうでしょ、1250階までみんな乗ったり降りたりすんだよ? バカだよ」
「エグゼクティブ・スペシャル・スウィートですと、お部屋専用のエレベーターがあるのですが」
「それ、最上階なら全部屋に付けなきゃでしょ」
「仰るとおりでございます。ただ、オーナーがですね、セレブ気取りの一般人には罰を、と仰っておりまして」
「最悪のオーナーじゃん」
「インフルエンサーなんて一般人よりタチが悪い存在だ、とも申しております」
「それは僕じゃないからいいけどもっと酷いよ」
「ですので、大変申し訳ないのですが、お客様も、どうにかエレベーターで大浴場まで辿り着いていただければと思います」
「いやー、だったらシャワーで済まそうかなあ。さすがにダルいもんそれー」
「申し訳ありません。見栄を張った罰が、くだってしまって」
「いちいち言わなくていいんだよそれは。恥ずかしいだろこっちが」
「バカと煙は高いところが好き、と言いますから」
「言うなって言ってんだよ。マニュアル通りの仕事しろよ」
「申し訳ありません、ここまでがマニュアルでございまして」
「もっと最低だよ! どんなホテルなんだよ!!」
「あ、お客様」
「なんだよ、まだあるの?」
「一般人との通話は五分が上限となっておりまして、ここで失礼させていただきます」
「どこまで差別す……え、本当に切れてるし。こわ」

次の誰かの23時54分へ続く

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ライター紹介

カツセマサヒコ
ライター/小説家

1986年東京生まれ。2014年よりライターとして活動を開始。2020年『明け方の若者たち』(幻冬舎)で小説家デビュー。同作は累計14万部を超える話題作となり、翌年に映画化。2作目の『夜行秘密』(双葉社)も、ロックバンド indigo la Endとのコラボレーション小説として大きな反響を呼んだ。他の活動に、雑誌連載やラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM 毎週木曜28:00~)のパーソナリティなどがある。

【Instagram】:katsuse_m
【X】:@katsuse_m
こいけぐらんじ
画家、イラストレーター、音楽家
愛知県立芸術大学油画専攻卒業。2010年頃から漫画の制作を始め、「うんこドリル」シリーズ(文響社)のイラストや、OGRE YOU ASSHOLEのアニメーションによるCM制作など、活動の場を広げている。また、バンド「シラオカ」ではVo./Gt.を担当。

【X】@ofurono_sen
【Instagram】guran_g
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