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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第121夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『A.I.』(2001年)
『M3GAN ミーガン』(2022年)

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

少しだけ前回の続きと、ヒューマノイドの子ども

 前回、「お笑い芸人と映画」を取り上げたが、もちろんまだまだ紹介しきれていない。毒母であっても親孝行しようと、家族旅行に赴く三人娘を描いた『お母さんが一緒』(24年)には、ネルソンズの青山フォール勝ちが出演していて、キリキリする物語の中でのほほんとした緩衝材の役割を果たしていた。でもなんといっても伝説的なのは『コミック雑誌なんかいらない!』(86年)だろう。ビートたけしが豊田商事会長刺殺事件の犯人を再現しており、芸人至上最高に怖い演技をしている。こういうことができた昭和の時代性とマッチしていた。

 そして今月29日公開の、是枝裕和監督作『箱の中の羊』では、千鳥の大悟が主演を務めている。これがテレビで観るそのままの飄々とした演技で悪くなかった。舞台はそう遠くない未来。子どもを亡くした音々(綾瀬はるか)と健介(大悟)の夫婦は、ヒューマノイドを迎えることになる。死んでしまった息子の翔そのままのロボット。夫婦はそれぞれに愛着や畏怖、憐憫や違和感などの感情を、ヒューマノイドの翔に対し移ろうように抱いていく。
 途中でなんの連絡もなく、音々の母(余貴美子)が地元の広島からやってくる場面がある。電話ひとつかけずに現れるというデリカシーのなさだ。音々はヒューマノイドの翔の存在すらまだ打ち明けていなかったので、母親の急襲に憤慨する。そのうえ母親は翔の出来事に対し、神経を逆撫でするような発言を立て続けにする。
 是枝監督は家族を描いた映画が多いが、『誰も知らない』や『歩いても 歩いても』のように毒親の描写がリアルで、生々しい。『万引き家族』も観ようによってはそうだろう。『箱の中の羊』でも余貴美子が演じる老母は、絶妙に腹立たしいことを言い募り、娘の綾瀬はるかも最後は怒りのあまり、絶叫に近い形で言い返す羽目になる。この脚本や演出は本当にうまいし、毒親の苦い記憶がある人にとっては、心のささくれを刺激される痛烈な場面となっている。

 ヒューマノイドの子どもを扱った映画といえば、スティーヴン・スピルバーグの『A.I.』が真っ先にあがるだろう。今観てもまったく古びていなくて、未来のリアリティを追求しながらも、物語はロボットへ人間が本能的に持つ不信感に焦点を当てている。少年型ロボットとして開発されたデイビッド(ハーレイ・ジョエル・オスメント)は、ヘンリーとモニカ夫妻の元へ試験的に送られる。2人には息子のマーティンがいるものの、不治の病で冷凍保存をされている状態だった。しかし奇跡的にマーティンが目覚め、デイビッドは邪魔な存在となっていく。
 マーティンとデイビッドがライバルのような関係になり、張り合うような行動を取る。食事がとれないデイビッドは、これみよがしに食欲旺盛な素振りを見せるマーティンに対抗してほうれん草を食べるが、途端に回路が異常を起こして顔がドロリと溶け出すシーンはホラーである。いかにもスピルバーグらしい悪趣味な場面だった。

 ヒューマノイドの子どもは男の子だけではない。最近では『M3GAN ミーガン』が話題となった。高性能AI人形ミーガンの開発者であるジェマは、幼くして両親を亡くしてしまった姪のケイディを引き取ることになる。しかし彼女は子育てにまったく自信がないため、開発中のミーガンにテストも兼ねて、「ケイティを守るように」と指令を与える。
 女性であってもジェマは子育てに困惑を感じるし、家事より仕事のタイプである。そういった家庭に入らない女性の存在を描き、さらにミーガンはお友達ロボットでありつつ、ケイティを守るために格闘する強い少女像を体現する。少年ロボットは愛玩され、捨てられる不安に傷ついている間に、少女ロボットは回し蹴りで相手を倒す。アニメではおなじみだったかもしれないが、ジェンダーの反転した均衡がロボット映画でも取られている。ちなみに人気を博したことから2作目の『M3GAN ミーガン 2.0』では、ミーガンは観客に支持される正義側のキャラクターへと変貌している。

<オススメの作品>
『A.I.』(2001年)

『A.I.』

監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演者:ハーレイ・ジョエル・オスメント/フランシス・オコナー/ジュード・ロウ/サム・ロバーズ/ブレンダン・グリーソン/ジェイク・トーマス

スティーヴン・スピルバーグ監督作。マーティンが戻ってきたことからデイビッドは捨てられてしまうが、森で出会ったジゴロ・ロボットのジョー(ジュード・ロウ)とさすらうことになる。ここでデイビッドが目撃してしまうのが、ロボットを破壊して楽しむショーだ。とても残虐で人間の悪趣味な本能をこれでもかと見せつける。これもさすがスピルバーグだ。

『M3GAN ミーガン』(2022年)

『M3GAN ミーガン』

監督:ジェラルド・ジョンストン
出演者:アリソン・ウィリアムズ/ヴァイオレット・マックグロー/ロニー・チェン/エイミー・ドナルド/ジェナ・デイヴィス

少女が闘う姿はなぜかっこよく観えるのか。一見可愛らしいステップから繰り出されるキックのギャップだろうか。1作目のミーガンは悪役で、性格も必死に闘うという感じではなく、余裕綽々で相手を倒す。しかし憎らしさよりもスマートな艶やかさがあった。AIは映画にとって恰好の題材だが、強いて人間型である必要がない中でも、本作はAIロボット系として意外に残っていくかもしれない作品。

※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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