こんな時間にかけてる電話 第11回
23時54分。この世界の何処かから聞こえる、誰かと誰かの真夜中の通話劇。
戦う人と、呼ばれた人
「はーい、もしもしー?」
「ああああああ助けて助けて助けて助けて!」
「おお、おお、え、なになになに」
「助けて! 助けて!」
「なに、どした、落ち着け。何があった」
「出た出た出た出たの出たの!」
「なにが出たんだ。俺が出たのか」
「違う違う違うキッチン、キッチンに! あれ!」
「あれってなに?」
「だからあれだってばあ!」
「あー……ごきぶ」
「言わないで!」
「え」
「その名前がもう嫌だから言わないで!」
「そんなヴォルデモートみたいな扱いにしてもなあ」
「いいから言わないで! 聞きたくないの!」
「わかったから。代わりに名前つけて」
「ええそんな余裕ない無理! 無理!」
「じゃあどう呼べばいいのよ」
「呼ばなくていい! わかるから!」
「いや、でも電話越しでそれは不便だって」
「いいから! とりあえず来て!」
「え、俺が行くの!?」
「無理だもん私倒せないもん無理無理無理!」
「いや、だからって俺、ええ?」
「お願い絶対無理来てすぐ来て」
「待ってよそんな、ええ? 俺、いま、風呂上がりなんだけど」
「知らないよそんなの! なんのためのご近所さん!?」
「知らねえよ、なんで俺がキレられてんのよ」
「もうほんと無理だから今すぐ来てよ無理全然すっぴんでいいから!」
「まあいつでもすっぴんではあるんだけどさ」
「冷静にツッコまないでよ腹立つから! 一緒に慌ててよ!」
「いや、なんでそこまでそっちに合わせなきゃいけないんだよ」
「ねえ今突き放すのやめてって! ほんとに助けに来ないとダメだから!!」
「いや、そんなこと言、あ、何の音?」
「待って、誰か来た……」
「お! こんな時間に!? チャンスじゃん! そいつに頼め! 頼め!」
「……」
「……」
「……もしもし」
「おお! 早いな!? 助けてもらえた!?」
「お隣さんだった」
「おお、いいじゃん! 男?」
「女」
「女の人かあ。で、助けてくれた?」
「怒られた」
「え……?」
「うるさいから、静かにしろって」
「あー……、それは、なるほど……?」
「初めて、お隣さん見た」
「まじか。初めましてが、怒られか」
「……最悪」
「えええ、ちょ、泣かないで、待ってよ」
「あんたが早く来ないからじゃん」
「え?」
「あんたが早く来てたら、私も叫ばなかったし、怒られずに済んだじゃん」
「いや、理不尽の極み? そんなすぐには無理だって」
「だってもう本当に無理なんだもんー、ねぇ倒せないとまた叫んでまた怒られちゃうから早く来てお願いー」
「いや、ちょ、まじでさ。ええ? 本気で言ってんの?」
「さっきからずっと本気だってばーもうなんでもするから早く来てよー」
「え、なんでもしてくれんの?」
「はあ? きも。変態」
「待って冷静になるのが光の速度超えてる」
「いいから来てよもう怒られたくないの早く来て」
「いやわかったよ行くよ。行くけど、てかどんな状況なの? 今」
「なにが?」
「なにがじゃねえよ。その、例の虫だよ」
「ねえ虫とか言わないでってばーあー!」
「あーわかった! わかったから叫ばないで。落ち着いて。怒られちゃうから」
「うー……」
「えーっと、じゃあ何? それ、ソレイユね。ソレイユにしよう」
「は? 何が?」
「いや、名前。そいつの」
「ねえ名前とか付けないでって言ったじゃん〜! 本当に生きてるみたいじゃん〜!」
「いや生きてんだってば。え、生きてるよね?」
「生きてるけどぉ」
「じゃあいいじゃん。ソレイユは今、どんな状態なの?」
「てか待って、なに、それはどういう意味なの?」
「え、ソレイユ? フランス語で、太陽」
「バカじゃないのもう本当に太陽に失礼だし、やめて呼ばないで」
「なんなんだよどこに敬意を払ってんだよ、そんな状況じゃねえだろうが」
「もういいから、今どこ?」
「もう歩いてるよ。待っててよすぐだから」
「ねえなんでチャリで来ないの? 私のこと心配じゃないの?」
「いや、通話しながらチャリ乗ったら捕まるからね? お前ニュース見てないの?」
「だからいま法律とかじゃなくて、私が今ピンチだって言ってんのになんでそんなマウント取ってくんの!? ニュース見てるくらいで偉そうにするのやめてよ本当に!」
「いや事実を言っただけだから。偉そうとかじゃないし。落ち着けって」
「やだ! 落ち着かない! そっちも慌ててって言ってんの!」
「いや、だからさっきから、あ……今ピンポン鳴った?」
「……やばい、お隣さんかも」
「今更声をひそめても遅いって」
「……」
「……」
「……また怒られた」
「だろうよ」
「……なんで私ばっかりこんなことにならなきゃいけないの?」
「いや、ソレイユは別にしても、叫んで近所迷惑になったのはお前が悪いって」
「そうやってすぐ、他責にするじゃん」
「それ俺のセリフ読んでない?」
「うるさいもう。早くあいつ倒しに来て」
「あと三分で着くから。ちなみに今はどんな状態なの?」
「タッパーでフタした」
「タッパー?」
「うん」
「お前んち、タッパーないって言ってなかった?」
「え?」
「前の花見のとき、そう言ってたじゃん」
「あ、うん。これ、借りたやつ」
「俺の?」
「うん」
「……最悪なんだけど」
「だってちょうどいいのがなかったんだもん」
「あのタッパー透明じゃん」
「うん、見えてる」
「最悪の最悪じゃん」
「元気そう」
「急にいらねえ報告すんなよ。普通に見れてんじゃねえかよ」
「でも倒せないもん」
「そんな状況から倒す方法は俺にも浮かばねぇよ。てかタッパーふざけんなよまじで」
「怒んないでよもう、終わったらなんでもするから」
「お前それ本当にずるいからやめろって」
「着いた?」
「あと一分。待ってて」
「うーわかった早く来て。切るね」
「お前ありがとうとかごめんねくらい言えるようになれってほん……切れたし」
次の誰かの23時54分へ続く



