「映画でくつろぐ夜。」 第118夜
知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。
「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」
自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。
■■本日の作品■■
『日曜日が待ち遠しい!』(83年)
『狼は天使の匂い』(72年)
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。
ジャン・ルイ・トランティニャンというフランスの俳優
フランスの俳優のジャン・ルイ・トランティニャンが好きだ。ヌーヴェルヴァーグやハードボイルド映画で頻繁に起用された俳優だが、観念的で少し風変わりな映画にも多く登場した。『男と女』『暗殺の森』などが代表作だろうか。無表情で、コミカルなムードの映画に出ていても、基本的に芝居が変わらないところが安定していて良い。
現在Morc阿佐ヶ谷では、クロード・シャブロル傑作選が特集されていて、『女鹿』(68年)が上映されている。ステファーヌ・オードラン、ジャクリーヌ・ササール、ジャン=ルイ・トランティニャンの三角関係を描いた映画だが、実生活でも昔、オードランとトランティニャンは結婚していた時期があった。2人の関係は『素直な悪女』(56年)でトランティニャンがブリジット・バルドーと共演した際、不倫関係になったため離婚に至っている。そしてオードランはシャブロルと結婚した。
ちなみに『素直な悪女』の際にバルドーは、監督のロジェ・バデムと結婚しており、そちらものちに破局に至っている。でも、トランティニャンは『女鹿』では元妻のオードランと恋人役を演じているし、ロジェ・バデムの映画にもその後数本出演している。ややこしい。こういう、過去の恋愛を気にしないで仕事をする監督や俳優たちもいて、トランティニャンは筆頭であると思う。
4月3日(金)からはトランティニャン主演の『パリから来た殺し屋』(72年)も公開となる。トランティニャンと広々としたロサンゼルスという意外な組み合わせだ。ハードボイルドな映画でありつつ、ちょっとユーモアもあって、エトランゼなトランティニャンの外国での不慣れさがちょっと可愛らしい。
トランティニャンといえば殺し屋といった役柄が多く、銃を持っているイメージが強い。個人的に好きなのは『刑事キャレラ/10+1の追撃』(71年)で、逃げる犯人をおもむろに銃を構えた刑事のトランティニャンが発砲すると当たるシーンで、ゆっくり構えて弾が当たるのは、それはトランティニャンだからとしか言いようがないものだった。
ルネ・クレマン監督の『狼は天使の匂い』も好きだ。セバスチアン・ジャプリゾが原作を大幅に改訂したノベライゼーション『ウサギは野を駆ける』も、古本で探して読んだ。このトランティニャンは人に不幸をもたらしていく謎の男で、不思議な映画だった。
アラン・ロブ=グリエ監督の『ヨーロッパ横断特急』は映画自体が楽しい。追われている麻薬の運び屋らしきトランティニャンが、列車に乗り込み個室の空席に腰掛ける。そこでは映画のプロデューサーやディレクターが次作の打ち合わせをしている。居心地の悪くなったトランティニャンは別の列車に移動するが、プロデューサー陣の女性が「今のトランティニャンよね?」「君の次作で使ったらどうだ」という会話を始める。この映画のトランティニャンの挙動自体が、実はいま企画中の映画という、メタフィクションな作りになっている。
トランティニャンは2000年代でいったん出演を見合わせるが、2010年代にはミヒャエル・ハネケ監督との出会いがあり、晩年まで映画に出続けた。ハネケの『ハッピーエンド』で、車椅子で去っていくトランティニャンのラストの冷たさは忘れられない。
<オススメの作品>
『日曜日が待ち遠しい!』(83年)
『日曜日が待ち遠しい!』
監督:フランソワ・トリュフォー
出演者:ファニー・アルダン/ジャン=ルイ・トランティニャン/カロリーヌ・シオル/ジャン=ピエール・カルフォン/フィリップ・モリエ=ジュヌー
ヒロインのファニー・アルダンが逞しいということもあり、トランティニャンの可愛さが出ている作品。不動産のオフィスで秘書として働いているアルダンが、殺人容疑をかけられてしまった雇い主のトランティニャンの容疑を晴らすため奮闘する話。だが、なんだかとっ散らかっていて振り回されるようなストーリーだ。その置いてきぼりを食らうような展開も楽しい。
『狼は天使の匂い』(72年)
『狼は天使の匂い』
監督:ルネ・クレマン
出演者:ロバート・ライアン/ジャン=ルイ・トランティニャン/レア・マッセリ/アルド・レイ
ヘリコプターの墜落でロマの子どもたちを死なせてしまったトニー(トランティニャン)は、報復として命を狙われることになり各地へ逃げまどう。その道中に殺人事件を目撃してしまい、ある一味に捕らえられることになる。それはチャーリーというボスを中心としたグループだった。長く囚われるうちにトニーはチャーリーたちと親しくなっていき、彼らのある誘拐事件に加担することになる。この映画のトランティニャンは人の心を捉え、破壊をもたらす者として魅力的だ。
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