
「映画でくつろぐ夜。」 第103夜
知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。
「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」
自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。
■■本日の作品■■
『サバハ』(2019年)
『哭声(コクソン)』(2016年)
※配信サービスに付随する視聴料・契約が必要となる場合があります。
韓国の宗教を扱った映画
7月25日公開の韓国映画『三日葬 サミルチャン』は、韓国の三日間続く伝統的な葬儀様式に、悪魔祓いの要素を加えた作品だ。主人公は心臓手術のスペシャリストである医師。実娘が心臓の病に苦しんでおり、心臓の移植手術をしたところ、その後急に娘の言動がおかしくなる。しかし悪魔祓いの結果、娘は命を落としてしまい、三日間の葬儀が始まるが……。悪魔祓いといえばもちろん神父が行うもので、韓国はキリスト教徒の割合が30%と高いため、慣れがしみ込んでいて、神父が映画内にいても違和感がない。
それでも韓国には仏教や民間宗教もあり、三日葬自体も仏教に基づくものだ。その葬儀の会場にカトリックのカラーを付けた神父が現れるので、宗教の混合がある。他の映画でもそうだが、韓国の宗教を扱った映画はこういった宗教の混然一体となった状態が観られ、それもまた魅力のひとつになっている。
『三日葬 サミルチャン』で悪魔祓いを行う、パン神父役のイ・ミンギがカッコイイ。悪魔祓いを扱った映画は一種のコスプレ劇でもあって、ハンサムな俳優たちがカソリックの神父や、プロテスタントの牧師姿で登場するのが楽しみでもある。『プリースト 悪魔を葬る者』ではカン・ドンウォンによるローマカトリックの神父姿を拝めた。ちなみにこの作品で主演のキム・ユンソクは普段はスーツ姿だが、正装はフランシスコ会の神父のファッションだった。2015年の本作辺りから、韓国ホラーで神父の登場する映画が増えた印象がある。
悪魔祓いをアクションとして捉えたのが、『ディヴァイン・フューリー/使者』だ。主人公であるキックボクシングの選手に、ある日聖痕が現れる。彼がその手で額を押さえると、悪魔憑きとなった者を救うことができるのだ。後半は悪魔崇拝者との殴り合いになるという、かなりブルータルな悪魔退治の映画だった。
こういった映画の中で一番個人的に好きなのは、『サバハ』だ。イ・ジョンジェ演じるパク牧師は愛煙家で、BMWに乗っている軽薄さはあるが、凄腕のカルト宗教ハンターでもある。問題を起こす宗教団体を根気よく大胆に追跡し、その全貌を明らかにする。この映画でパク牧師が追うのは、仏教系の新興宗教である。ある女子中学生殺人事件の容疑者が、東方教という仏教団体と関りがあるのがわかり、殺人が教義に基づくものではないかと探っていく。仏教の禍々しいが絢爛豪華な壁画が登場し、謎解きに次ぐ謎解きが面白くて目が離せない。
『プリースト 悪魔を葬る者』『ディヴァイン・フューリー/使者』『サバハ』には、民間信仰の巫女である巫堂(ムダン)による霊視や、祓魔の儀式のシーンもある。他の宗教との共存が自然と存在しているのが、非常に彩りともなっていて、韓国の宗教ホラーの面白い点である。韓国の巫堂によるシャーマニズムを描いた『哭声』は、その儀式の生々しさが突出していて素晴らしかった。宗教の混合が面白いのは実は日本も同じで、古くは1988年の『帝都物語』に始まり、『来る』なども神道や仏教、民間の祈祷師が混合しているからこそワクワクするという意外な発見があった。最近の韓国映画でも『破墓/パミョ』という作品では風水師と巫堂が、共に悪霊退治に挑んでいるのが、こういった映画のルーツを汲んでいると言えるだろう。
<オススメの作品>
『サバハ』(2019年)
『サバハ』
監督:チャン・ジェヒョン
出演者:イ・ジョンジェ/パク・ジョンミン/イ・ジェイン/ユ・ジテ/チョン・ジニョン/イ・デイヴィッド
イ・ジョンジェ演じるパク牧師はテレビにも出演する目立ちたがり屋で、カルト宗教の取材を生業としているため、同じ宗教家からうとまれる存在だ。彼が新しく取り組んだのは、東方教という仏教系の新興宗教。理解者である仏教僧侶の助けを借りてその実態に迫るうち、思いがけない大掛かりな闇が発覚する。この東方教の経典に秘められた、暗号のような謎を解いていくのがミステリーとしても抜群に面白い。イ・ジョンジェのやさぐれた牧師も魅力的で、出来ればシリーズ化してほしいほど良作だった。
『哭声(コクソン)』(2016年)
『哭声(コクソン)』
監督:ナ・ホンジン
出演者:クァク・ドウォン/ファン・ジョンミン/國村隼/チョン・ウヒ/キム・ファンヒ/チャン・ソヨン
田舎の村、谷城で村人による家族の惨殺事件が相次ぐ。村人は山中で暮らす謎の日本人(國村隼)が、何か関わっているのではないかと疑い始める。警察官のジョングは最初、その話には取り合わなかったが、自分の娘も高熱を出して異常な言動をするようになり、家族が祈祷師を呼んでお祓いをしてもらうことになる。本作は巫堂の善悪のわからなさがテーマとしてあり、善意から祈祷をしているのか、実は悪人でとどめを刺そうとしているのか、一般人からは理解できないゆえに悲劇が広がっていく。この作品でもカトリック神父が悪魔祓いのために登場し、大きな役割を果たす。
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