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「夜読む日記」

思い切りイタく

私は過去に戻ってやり直したいことはあるかな?と定期的に想像する。
当たり前だが私にもこれまで歩んできた人生があり、一応山もあり、谷もそこそこいっぱいあり。な感じで生きてきた。
最悪なことも、選択を失敗したな~と思うことも勿論あるが、その経験があったお陰で、今私は毎日まあ並みに「生活」をしていると思う。
なのでこの妄想は毎回、「過去に戻ってこれをやり直せば今がもっと良くなったのに!」みたいな結論にはならないのだが、1つだけ…やり直したいわけではない。しかし「あ~~~!もっともっとやっておけばよかった!」と思うことがある。

それは「オタ活」だ。
私は小学生の頃、とにかくアニメと漫画が好きだった。
当時私は友達が少なく、放課後に誰かと遊ぶことがほとんどなかった。
そんな中、新しいもの好きの親がケーブルテレビで一日中アニメを放送しているチャンネルを契約してくれて、家の中が一気に最高になってしまう。
そこから親がいない時間は基本的にアニメを見ながらパソコンでお絵かきをして過ごしていた。
天国だ。本当に楽しかった。

しかしだ。私が小学生だった1990年代から2000年代、当時はまだまだオタクに市民権がなく、アニメを見ている、漫画を見ている、アニメを見ている、絵を描いているだけでなんとなく変な目で見られてしまっていた。
私の場合それは学校だけではなく家の中でもそうで、オタク趣味に興味のない親はとにかく私が絵を描いたり漫画を読むことを嫌がったり、好きなものを面白おかしく茶化したりされてしまう。(今考えると心配ゆえの行動だったのかもしれないが。)

当時の私は気が弱かったため、誰かに好きなものを茶化されてしまうとなんだかもうカーッと顔が熱くなるような、心がぐちゃくちゃになるような、その場から逃げ出したくなるような、とにかく「これが好きな自分はとても恥ずかしい人間なのだ」という気持ちでいっぱいになっていた。
それ以上恥ずかしい気持ちになりたくなくて、自己防衛のために私は好きなものを茶化すようになった。

この行動を当時は深く考えていなかったが
・私の好きなものは恥ずかしいもの
➡だから好きでいるためには貶める
➡貶めれば周りに好きでいる事を許してもらえる
というかなりゆがんだ方程式が頭の中に出来上がってしまっていたのだと思う。

このルールの下に生きていると、好きなキャラの絵を描く時、恥ずかしさが渦巻き真剣に描けなくなってしまう。なぜなら真剣にそのキャラを描くことはオタク趣味で恥ずかしいことだからだ。
本当はそのキャラの変身グッズが欲しかったけどグッズを持つのはオタクだからだめ。
好きなキャラクターの着ている服と同じ色の服を着たいけど、それで好きなことがバレたら恥ずかしいからそのキャラを彷彿とさせる色のものは持てなくて…みたいな。
本当は大好きな作品なのに、他人の前では嘘をつかなければならない気がして、なんだか自分の作ったルールにがんじがらめになってしまった。
大好きな作品なのに、純粋に心の底から大好きなままではいられない。

そんな感じで時がどんどん流れて大人になってしまったんだけど、大人になって他人の目なんてどうでもよくなってきて「好きなものは好きってだけでいいじゃん!」と、当時の自分の感情を成仏させる為に、あの頃の自分が欲しかったグッズを手に入れてみてもいまいち嬉しくない。
漫画を読み返すために全巻買いなおしたけど読む気が起きない。
あの頃は毎日毎日漫画の事を考えて、続きはどうなるんだろうとか、自分がこの漫画の中に入り込んだらどんな技を使うんだろうとか、あ~このキャラソンいい曲だなあなんて、冗談抜きで朝から晩まで考えられていたのに!
なんだか集中できない。なんか入り込めない!キャ~!ヤダ!

そう。好きって気持ちには消費期限があるものなのだ。
鮮度の高いうちに好きという気持ちはたくさんたくさん消費すべきなのである。

周りの目を気にせずにもっともっと好きなものを好きなだけ体験しておけばよかったなと思う。
イタくて結構。イタいっていうのはつまり、他人の目から見ても楽しんでいるという事なのだ。
33歳になってやっとわかってきたよ。人生って本当に短い。
短い人生の中で重要な事って、お金持ちになることでも、有名になる事でもない。楽しい時間を自分の目を、耳を、手を、足をたくさん使って見つけ出す事なんだわ。きっと。
要は自分の力で自分を満足させなきゃって事。
近くにある悲劇より、近くにある喜劇をより多く見つけられる人こそ、真の幸せ者ってやつなのかも。

あの時私の趣味を茶化した人達は、誰もあの時失った私の楽しい時間に責任を取ってくれない。
時間は巻き戻らないし、きっと誰も自分の放った無責任な言葉や助言なんて覚えていないだろう。別にそこに恨みはない。手放しす判断をしたのは結局自分だったからだ。
私はもっと自分の感情に素直になればよかった。ただそれだけなのだ。

冒頭の妄想に話は戻る。
私は過去に戻ってやり直したいことはあるかな?と定期的に想像する。
あの頃、好きなものを見つけられたあの時。
あれを誰の目も気にせずに全力で楽しんでいたらどんなに無敵だっただろう。なんて、ちょっと後悔しちゃうんだよね。
わたしはもうあの漫画に、あの時の熱量でハマれることはきっとないのだろうと思う。

でもきっと、また朝から晩までそのことを考えてしまうような、なりきったり、それを彷彿とさせる色を見るだけで元気がわいてくるようなものに、きっとまた出会う。

その時は絶対に誰かの目を気にしたりせずに、精いっぱい痛々しく沼にハマりたいなとおもうのだ。
そんな日々がまたやってくる未来が楽しみでたまらない。
これからだよ。きっときっと、人生はもっと楽しくなるはずだ。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【Twitter】@cchhiiaakkii
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