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「夜読む日記」

子供って1から10まで何でもかんでも教えてあげなければならない生き物だと思っていた。

過去にもフワッと書いてお気付きの方もいると思うが、私の母は私に対して良くも悪くもかなり過干渉だ。
小さい頃は私に付きっきりで、交友関係のチェック、学校のテストは全て確認して点数が悪ければ正座で説教、服や下着は高校を卒業するまですべて母のチョイスで、お金の使い方も母に報告。
鞄や机、ゴミ箱の中も勿論チェック。

家の中では基本的に私はできない人間で、母の趣味から外れたことをすると「恥ずかしい」と一蹴される。それがたまらなくいたたまれなくて、否定されないために母にどんどん身をゆだねていった。
身をゆだねたぶん、母は私の身の回りのことを何でもやるようになる。
私が間違えないように、道を外れないように常に私の行動に先回りをして、まるで私の進む道に毎日毎日フカフカのクッションを敷いてくれているようだった。
明日の時間割の教科書を鞄に詰めてくれる。プリントを読んでくれる。そろそろ月経が来ることを教えてくれる。先生に怒られたと聞けば学校まで行って先生と話してきてくれる。
縛られることは辛くもあったが、縛られることで楽な思いもたくさんしていた。
思えば母はずっと私の事を赤ちゃん扱いしていたし、私も母の赤ちゃんとしてされるがままに過ごす日々を送っていた。

私にとって母は法律だったし、言う通りにしなければいけない標識のような存在だった為、母の言うことを聞いていれば何事も間違いなどないと思っていた。

今でこそ、その考え方は歪だと思えるが、長年培った自分の中の常識は簡単に払拭できている訳ではない。
私は心の奥底で「親は子供に何でも手取り足取り教えてあげなければいけない」と思い込んでしまっていた。

妊娠中、私はこの「子供に教えてあげる」をしなければならないことにかなり緊張していた。
どこまで教えてあげればいいのだろう?お母さんみたいにすべて付きっきりで教えることができるだろうか。
座り方、立ち方、声の出し方、ごはんの食べさせ方…
ああ、全く上手くできる気がしない!!
そもそも自分がうまくできているかも怪しいのに、何も知らない生まれたての赤ちゃんに人間らしい動作や教養を教えるって一体どうやっているの!?みんなこんな思いをしているの!?すごくない!?

ハラハラドキドキしていても時間は過ぎていき、ついに出産。
正真正銘私は息子にとっての「親」になった。
ああ、この子の人生が今始まった。
勿論最大限の努力はするつもりだけど、私きっちり親としてこの子を育てられるのかしら…。
なんだか答えのない宇宙に一人ぼっちで漂っているようだわ…

そんな事をぼんやり考えながら初めて子供と病室で顔を合わせたとき、看護師さんが私の胸の上に子供を乗せてくれた。
「母乳を飲ませてみましょう」と言われ「いきなりそんな難易度の高いことができるの!?」とドギマギした。
今までお腹にいたことしかない小さいふにゃふにゃの人間が、いきなり私のおっぱいを吸うことができるのだろうか…
いやいや無理だろう。私が何か手ほどきをする必要があるんじゃないの?ねえ!看護師さん!

しかし私の心配をよそに息子は私の胸に乗せられてすぐに私の乳首を探し当て、力強く吸ったのだ。
こんなに小さいのに、今産まれてきたばかりなのに、息子は教えられなくても自分で生きる方法を知っていた。

今考えると当たり前のことかもしれないが、私にとってこの体験は衝撃というよりほかならなかった。

一晩明けて母子同室になって、更にいろいろな発見があった。
息子は私が何も教えなくてもくしゃみをするし、あくびをするし、おなかが減ったら泣いたりもする。想像していたよりずっとずっと息子は色んなことを知っていて、できてしまうのだ。
この時私は初めて「子育てって子供に物事を教え込むことではないのかもしれない」と思った。
だってこの子はこんなにもしっかりと立派に、いろいろ知っていて、やってみせているじゃないか。

私はおっぱいを欲しがった時に飲むサポートをするだけ。
おむつが汚れたら泣いて教えてくれるから変えるサポートをするだけ。
親の役目って、私が考えていたよりも大それたことではないのかもしれない。
子供が一人で何でもできるようになるまで、足りない部分をそっと補うものなんじゃないかしら。それでいいんじゃないかしら。
焦る必要はないのだ。完璧になる必要はない。
親になったけど私は私で、息子も子供ではあるけれど、一人の人間。
足りない部分はお互いに、補い合ったり、困ったり、笑いあったり、たまに喧嘩をしてみたらいい。
きっとそれで十分なのだ。

このコラムを書きながら小学生の頃、教師から「親」という漢字の成り立ちを教わった時のことを思い出した。
「親は木の上に立って子供が成長するのを見守っているんだよ」
なるほどなあと思った。うん。それでいいと思う。

子育てにはいろんな形がある。一生懸命やっているなら間違いなんてないのかも。一人一人違う子育ての中の一つ、私の思う子育は「子供のためにフカフカの道を敷きつめる必要なんてない。」だ。この世の中は間違えたり転んで怪我をしないとわからない事ばかりだ。
もしも間違えてしまったら、それに気づいてあげて次に同じことでどう転ばずに済むのかを一緒に考えよう。
立ち上がれないなら一緒に立ち上がり方を考えよう。
きっときっと私たちは大丈夫だ。

一緒にいられる時間、親として一(はじめ)から了(おわり)まで「子」の人生を大切にして一緒に成長していきたい。

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ライター紹介

原田ちあき
イラストレーター・漫画家・京都芸術大学非常勤講師
誰の心の中にもある、鬱屈とした気持ちをカラフルに描く。

国内外問わず展示やイベントを行い、イラストの枠に収まらずコラボカフェ、アパレルデザイン、映画出演、コラムの執筆、コピーライター、バンドへのゲストボーカルなど活動は多岐にわたる。
誰かに喜んでもらえるなら何でもやりたい。

【連載】
「やはり猫にはかなわない」ソニーミュージック es
「原田ちあきの人生劇場」LINE charmmy
「しぶとい女」大和書房

【著書】
「誰にも見つからずに泣いてる君は優しい」大和書房
「おおげんか」シカク出版
「原田ちあきの挙動不審日記」祥伝社 等

【official】https://cchhiiaakkii8.wixsite.com/chiaki
【blog】http://cchhiiaakkii8.blog.jp
【Instagram】cchhiiaakkii9
【Twitter】@cchhiiaakkii
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