「夜読む日記」

私は人から嫌われることがとても怖かった。
だからこそできるだけ波風を立てないように気を使っているつもりで過ごしていたのだが、そういう邪念があればあるほど人間関係って上手くいかない。
例えば自分が親切のつもりでしていたことがお節介だったり、誰かを楽しませるつもりで話したことが実はとても失礼だったり。
なんだかんだ気を使いきれずにたくさんの失敗をしてきた。

また、私の場合はイラストの絵柄だけで嫌われたり、人間性を判断されちゃったりする事も少なくなかったりする。
その度にもっともっと可愛くて優しい絵を描いて生きてくればよかったよ。なんてチラリと頭を掠める。トホホだ。

「あ～優しくなりたいな～。
嫌われたくないし、嫌われた経験もなんとか過去に戻ってなかったことにならないかなあ。」
と毎日のように一人反省会をしていたのが20代前半。

そこから色々あって、泣いてみたり吹っ切れたり毎日毎晩人に嫌われることについて考えた末に
「世界中であんなに可愛がられている猫や犬を苦手って思っている人もいるし、私が「最高に面白い！」と思っている漫画を「つまらない」と思う人だっているんだから、私の事が嫌いな人がいても不思議じゃないか～」と結論を出し、少し気楽になったの20代後半。
間違ったり躓いたりするたびに、心に折り合いをつけて私はどんどん強く図太くなっている。

そんなこんなで30代になって、現実の人付き合いに関しては少し賢くなったつもりでいたが、今度はなんだかSNSを見ることができなくなってしまった。
思えば小学生の頃からずっとインターネットで人とつながってやり取りしていた。
ネットを通じて友達もできたし、ブログを書いて自己表現をしたり、絵をアップして人に見てもらったり。
イラストのお仕事をするようになってからはフォロワーさんがSNSのダイレクトメールに相談を送ってくれたり、リプライをやりとりしたり。そのやりとりの全てが本当に楽しかった。

が、なんだかコロナ禍に入ってから暗い情報や攻撃的なメッセージが頻繁に流れてくるようになり、それが嫌でなかなかSNSを開くことができなくなってしまったのだ。
暗い情報に胸が痛むと言えば聞こえがいいが、つまるところ私は「もしも自分の投稿を不快に思ってしまう人がいたらどうしよう」「ヘイトを集めてしまったらどうしよう」という謎の疑心暗鬼に取り憑かれ、何も書き込むことができなくなってしまったのである。愚かなり…！
吹っ切れたつもりでいたが、結局万人に好かれたいという淡い夢を見てしまっているのだ。私は。

というわけで「これはなんだかとてつもなくメンタルに良くないのではないか」と、少しインターネットから距離を置くことにした。
距離を置き現実の生活に集中してみると、明らかに身軽になったような、つきものが落ちたような気分になった。
自分の心の中でズーンと重たくなってしまった事から距離を置くことはこんなにも大切な事だったのか！人の評価が目に入ってこないだけでなんだかゆったり時間が流れている気がする。
思えばインターネットを見て湧き上がる気持ちの中には、かなりの焦りが含めれていた。
自分以外のみんなが楽しそうで、余裕があって、成功していているように錯覚してしまうのだ。
生きていればそれぞれに苦しいことや辛いことを経験していることは理解しているつもりなのだが、SNSにはそこにキラキラのフィルターをかける魔法がある。

自分の現状や幸せ度合いを他人と比べすぎると苦しくなってしまう。
誰かの評価を軸に自分の形を捻じ曲げる事もすごく苦しい。
暮らしなんて他と比べても意味がないのにね。比べるなら過去の自分と比べねば。
誰かの評価に自分の幸福度合を委ねても誰も責任は取ってくれない。大切なのは自分の気持ち。ただそれだけなのだ。

もしかすると私はSNSを見て「誰かが手に持っているから」「羨ましいから」と欲張ってむやみやたらに何もかもを手に取りすぎていたのかもしれない。
一つ一つは楽しくて素晴らしいことなのに、いつの間にかそれが重荷になってしまっていたのかも。
ああ、なんとなくわかった気がする。
自分の手の中にある全部を100%大切にするなんて無理なのだ。
手の中の荷物が多くなればなるほど、どうにも立ち行かなくなる。
たまには荷物をおろしても誰にもばれないはずだ。
楽しい事もお仕事も、自分で操縦できるぐらいの重さだけ持てばいい。無理やり執着なんてしなくていい。素敵なことは無限にゴロゴロと転がっているのだ。

持ちきれないものは捨てる必要はないけれど、時が来るまではそっとそばに置いておこう。
難しく考える必要はない。元気になったらまた手に持てばいいのだ。