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真魚 八重子「映画でくつろぐ夜」

「映画でくつろぐ夜。」 第47夜

知らずに見ても楽しめるけど、
知ればもっと作品が奥深くなる知識、情報を
映画ライター、真魚八重子が解説。

「実は共通の世界観を持っている異なる作品」
「劇伴に使われた楽曲の歌詞とのリンク、ライトモチーフ」
「知っていたらより楽しめる歴史的背景、当時の世相、人物のモデル」

自分には関係なさそうとスルーしていたあのタイトルが、
実はドンピシャかもと興味を持ったり、
また見返してみたくなるような、そんな楽しみ方を提案します。

■■本日の作品■■
『エクソシスト』(1973年)
『鳥』(1963年)

 

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セクハラ、モラハラ問題をはらんだ名作映画

昨年、日本でも映画や演劇界でのセクハラ、モラハラ問題が話題となった。まだ続いてはいるが、いささか熱量は下火になってきてしまっているように感じる。告発者の中から、色々と事情を抱えていたとはいえ、自殺者も出てしまった。持病をお持ちだったようで、その中で騒がれ、不本意な叩かれ方をするのは、どれだけ肉体的、精神的に疲れてしまったことだろう。

映画を研究していると、監督がどのような演出方法をとっているかを調べる機会がある。まったく大きな声をあげることのない、粛々とした撮影現場で知られる監督たちもいるし、怒り散らしてスタッフを緊張させるタイプの人もいる。『哭声(コクソン)』(16年)の撮影中、監督のナ・ホンジンがスタッフを怒鳴り倒すので、國村隼はビックリしたそうだ。ただし國村は日本からのゲストなので、そういった非人間的な扱いは一切なかったという。そういう差をつけるからには、監督にとって怒声も意識的にしている部分があるのだろう。

スタッフと俳優で態度を分けて、俳優には丁重だが、スタッフには厳しい監督もいる。また、大島渚は大勢の俳優の中で一人、生贄的に厳しく当たる人物を用意して、他の俳優にも緊張感を与える方法を取った。松竹を退社した大島渚は妻の小山明子や佐藤慶、戸浦六宏らと「創造社」を設立したが、この看板俳優たちの中では、小松方正に矛先が向くことが多かったようだ。この方法は創造社以降も続いて、『御法度』の現場では田口トモロヲがよく叱責を受けたのが有名だ。この頃にはメイキング映像が撮られるようになっていたので、やたらと田口トモロヲだけNGを出される様子も残っている。

いま、こういった悪癖を後世、どのように評価するかを考えなくてはならないところにきている。世界を代表する日本の監督に溝口健二がいるが、俳優やスタッフに対する乱暴な態度はとても酷いものだった。黒澤明も黒澤天皇と呼ばれていたのは、そういった横暴さによるからだ。

海外でも同様で、『ラストタンゴ・イン・パリ』(72年)では、セックスシーンで主演のマリア・シュナイダーは、小道具でバターを使うことを知らされていなかった。しかし、彼女はもっと問題のある演出について、本番まで知らされていなかったのでは、という噂もある。それは人としての尊厳に関わる重大事かもしれない。だが、そのために映画を封印したら、マリア・シュナイダーの代表作がこの世から消えることにもなる。もし、本人がそれで構わないというなら意向をくむべきだが、すでに彼女は鬼籍に入っており、その判断を仰ぐこともできない。

これは本当に悩ましい問題だ。去年の春ごろ、ある日本人俳優が、監督から尊厳を踏みにじられる演技指導をされたと告白したことがあった。わたしは映画監督が自分の立場を利用し、人権を損なう行為を行っていると指摘した。すると、その俳優のファンの女性から、怒りのリアクションがあった。
「それが問題視されて、近々公開になるその監督と彼の主演作が公開中止になったら、どうするつもりですか。なにか証拠はあるんですか?」
わたしはもちろん、その俳優が発言をした記事にリンクは張っていた。好きな俳優が苦渋の告白をしているのに、彼の新作が観たいから広めるなという、怒りの言葉。
ファンが顔を見たいからといって、好きな俳優の人権や尊厳を重んじることをやめたら、誰がその安全を望み、健全な職場環境を守れるだろうか。あまりに本末転倒で、いまだに思い出してもモヤモヤと不快な気持ちになる出来事だ。

 

 

<オススメの作品>
『エクソシスト』(1973年)

https://youtu.be/YDGw1MTEe9k

『エクソシスト』

監督:ウィリアム・フリードキン
脚本:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
出演者:エレン・バースティン/マックス・フォン・シドー/リー・J・コッブ/ジェイソン・ミラー/リンダ・ブレア/キティ・ウィン/ジャック・マッゴーラン/ウィリアム・オマリー/ルドルフ・シュントラー

これは映画ファンにとって、いまだに一番の踏み絵ではないだろうか。本作を演出した際のウィリアム・フリードキン監督は、狂っていたんじゃないかと噂されるほどだった。撮影現場にショットガンを持ち込み、突然俳優の背後で発砲したりした。俳優に緊張感を保たせるためだ。また、カラス神父に告解を与える神父は本職の神父で、当然演技経験もなかったが、フリードキンは撮影直前、突然彼に平手打ちをし、ショックを受けた表情をそのままフィルムに収めた。今なら人権的に許されないことだが、映画の神秘性もあって、これらの逸話も映画のただならぬ雰囲気に一役買っていた。こういった過去の誤った演出に対し、今どう対処すればいいのか、苦しいところだ。

『鳥』(1963年)

https://youtu.be/TtJlwXwubp0

『鳥』

監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:エド・マクベイン
出演者:ティッピー・ヘドレン/ロッド・テイラー/スザンヌ・プレシェット/ジェシカ・タンディ/ヴェロニカ・カートライト/ドリーン・ラング/エリザベス・ウィルソン/エセル・グリフィス

もっとも有名なストーカーといえば、女優ティッピ・ヘドレンに対するヒッチコックだろう。モデルやCMの仕事をしていたティッピはヒッチコックに見いだされ、『鳥』の主演に抜擢される。しかしその撮影現場は他の男性との会話を禁じられたり、家まで付け回されたりなど、ヒッチコックから異様な振る舞いを受けていた。この頃ティッピには、すでに前夫との間に長女のメラニー・グリフィスも誕生しており、ワーキングマザーとして忙しい日々を送っていた。しかし続いて出演した『マーニー』(64年)でも、ティッピに対するヒッチコックのセクハラや支配欲は止まらず、ティッピはいったん女優業から身を引いてしまう。『マーニー』は映画の内容も男性の支配欲に満ちていて、気持ち悪い作品だ。

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ライター紹介

真魚 八重子
映画ライター
映画評論家。朝日新聞やぴあ、『週刊文春CINEMA!』などで映画に関する原稿を中心に執筆。
著書に『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『血とエロスはいとこ同士 エモーショナル・ムーヴィ宣言』(Pヴァイン)等がある。2022年11月2日には初エッセイ『心の壊し方日記』(左右社)が発売。
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